見出し画像

無計画な旅行の末路 in金沢

研究配属された大学生は研究で得られた結果を学会で発表する機会が年に数回設けられている。もちろん、学内で発表することもあるのだが、中には県外で発表することもある。

この県外での学会というものは、実は大学生にとって非常にうれしいものなのだ。なぜなら、ほとんど慰安旅行のようなものだからである。

自分が発表する時間はせいぜい30分程度。しかし、全国の学生が集まる大きな学会だと3~4日は開催される。つまり、自分の発表時間の30分を耐えればあとの時間は観光し放題なのだ。
さらに、交通費、宿泊費は大学が負担してくれるので美味しい思いしかない。

公には言えないが、こうなってくると僕にとって慰安旅行の傍らに学会あるとすら思えてくる。

ーーー少し前に金沢で学会が開催され参加をしてきた。

金沢と言えば21世紀美術館や兼六園がの観光の有名所だろう。さらに日本海に面していることもあり海鮮系がおいしい。

だが残念なことに、3年前に僕は部活の友達とすでに金沢に行き、それらのめぼしいところはすでに周ってしまっていたのである。

正直、今回の慰安旅行先は行きたい場所がない。というより、楽しみがないので行きたくないとすら思えてくる。

しかし気は持ちようだと考えて、学会に行く一週間前に遊びに行こうと1人の友達を誘った。
本来、他人と観光するのが苦手な僕が人を誘うなんてことはめったにないことなのだが、今回ばかりは人と観光に行く方が多少は面白いだろうと思った末の行動だった。

ある時、「金沢では何をしようか」という話になった。
遊びに行けるのはお互いの諸事情により一日しかなく、さらに昼過ぎからしか予定が合わなかった。昼過ぎからいける場所など限られている。
そのため、お互い遊びに行きたい場所も特になく、いつまでたっても決まらなかった。

そして、結局は「当日決めよう」という無計画極まりない予定となってしまった。

だが個人的にはカフェでしゃべって時間を潰すだけでもいいと思っていたので、この無計画の予定でも人を誘えただけで十分だった。海鮮系のおいしいごはんでも食べたらもう満足だった。

ーーー学会前日、友達から連絡がきた。もう二人参加してもいい?

予定も決まっていないのに、よく参加したいと思うなぁっと思いながらも「ああ、いいよ!」と二つ返事で返した。
こっちは、暇つぶし程度なのだからこれ以上つまらなくなるはずはないのである。

新たに参加した一人がレンタカーで能登半島に行きたいとラインで言ってきた。面倒だったので旅行プランをそいつにまかせ、こっちはその翌日にある自分の発表の準備に集中することにした。

ーーー観光当日、14時前に集合し、車を借りて出発した。この時まで詳しいプランを全く聞かされていなかったので、今日はどんなプランなのかを聞くと衝撃的なプランが設定されていた。

順路はこうだ「金沢駅→厳島→見附島→輪島→世界一長いベンチ→金沢駅」。

「楽しそう」と思うかもしれないが、このプランは14時に出発すると帰ってくる時間は24時。しかも各ポイントの滞在時間は20分以内。つまり、10時間のうち9時間弱は車の中にいることとなる。

まるで、有名どころをただ周る作業のような旅行プランだ。
車に乗っているはずなのにベルトコンベヤーに乗っている気分だった。

おそらく、インスタ映えだの、ツイッターへ写真投稿だの、まさにリア充感を出すために立てられたプランだと思う。

正直、他人に楽しそうと思われることなんて無価値だと考えている僕にとってはただの拷問に等しかった。
しかも、僕が明日発表なので早めに切り上げたいという思いは完全に考慮されていないかった。

全く気分は乗らない、いやむしろ萎えてすらいたが、プランを考えた人に悪いと思い行きたくない感を全力で押し殺すことにした。

そんな気持ちを隠しながら、長時間車に乗って窓の外を見ているとある不安が頭をよぎった。
「日が沈んだら真っ暗になることをこの人たちは考えているのだろうか?」

その不安は見事的中した。
彼らは何も考えていなかったのだ。

プランの半分弱くらいで完全に日は沈み、目的地についても真っ暗で何も見えないことに対し残念がっている彼らを見て僕は残念になった。

中にはライトアップされている場所もあったが、僕らはライトアップを見に来たわけではない。というよりライトアップをしていたら、たとえ肥溜めでも観光地というレッテルがあればきれいな場所と錯覚させられるだろう。

悪い意味でこちらの期待を2度も3度も超えてくるこの旅行に、これ以上付き合っていたら疲れると思い、車の中で静かに寝ることにした。

ーーー2時間弱くらい眠っただろうか。高速道路を走っている最中にエンジン音で目が覚めた。聞いたこともないエンジン音がしていると思い、スピードメーターを覗いてみたらまさかの時速145キロ。

「こいつら、馬鹿なんじゃねぇの!?」っと思い、流石にスピードを落とさせた。

速く帰りたいと思ったのだろうが、普通にオービスに引っかかるレベルの速度違反。よくあるアホな大学生のスピード違反典型例だった。

こうして、彼らは2時間寝てとれた疲れを2秒で取り返してきたのである。

帰った後も、もちろん晩御飯に海鮮系などということはなかった。
おそらくこの旅行の満足度は過去の旅行ワースト2くらいに入るプランだったのではないかと思う。

この旅行で残ったものと言えば、疲れと移動費の支払いくらいだろう。

とんだ慰安旅行だと思うと同時に、二度と彼らを旅行に誘うことはないだろうと思いホテルの個室に戻った。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?