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【グッバイ・オキナワ・アンド・モータル】

『イヤーッ!…』
『グワーッ!…』
『イヤーッ!…』
『グワーッ!…』
オキナワの……潮騒!

『ザッケンナコラー!…』
『スッゾオラー!…』
『ザッケンナコラー!…』
『スッゾオラー!…』
オキナワの……潮騒!!

海こそあのような有様だが、オキナワの夜はネオサイタマの夜とは違う。事実、髑髏のような満月は昇らず、イカスミのような黒雲は一つもない。当然、重金属酸性雨など降りもしない。だが……観光客はどうだ?

モータルは一人孤独に岬に座っていた。観光に来たというのにくたびれたスーツを着込んでいる。湿気た面に死んだ魚の眼を組み合わせて、海面に映る満月を眺めている。オキナワを旅行先にするくらいだ。カチグミであろうになぜこのような情けなさをしているのか。家族に捨てられたか、なけなしの旅費をスられたか、あるいは。「チクショ……チクショ……」バカンスにしてはあんまりな有様だが、モータルは暴れることも叫び声を上げることもない。リゾート地・オキナワとしての体面そのままに、静かな岬であった。しかし陰鬱な平穏は突如として崩された。

モータル下方に位置するオキナワ原生林から、ストロボで撮れない並速さで岬に二つの影がエントリーしてきた。「ドーモ…=サ……です」「ドーモ、………です」潮騒の音にのみ込まれながらもアイサツがモータルの耳に届く。あれは、あの名乗りは…!

あれは…ニンジャ!ニンジャである!どこからともなく炎が燃え上がり二人のニンジャを包み込む!あれはジツか、それとも何だ!?「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」岬は凄絶なイクサの開始点と化した!

しかしモータルは恐怖の叫び声など上げなかった。いや、正確には“上げられる状態ではなかった”。「アバッ?」モータルは己の違和感に気付いた。イクサの最中、途切れ途切れに双方の掛け声がモータルの耳に届く。その度に心が、血液が、全身の細胞が震える……!モータルの内から語りかける何かがいる。「アバッ、アババババーッ!」その度にモータルの心が、血液が、全身の細胞が変異していく……!

ソウカイ・シンジケート所属ニンジャとザイバツ・シャドーギルド所属ニンジャによるカラテの応酬!「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「ヌウーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」ジツの応酬!「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「オゴーッ!」

モータルは微動だにしない。

「アバーッ!サヨナラ!」爆発四散。イクサに決着がつき、同時に炎が消えていく。勝者となったニンジャはその様子を見届け、オキナワバカンスを楽しむべくオキナワ原生林へと戻っていった。

モータルの眼は嫌に爛々と輝いていた。爆発四散したニンジャから漂うナムアミダブツの香りが鼻腔を擽り、ニンジャソウルに火をつける!「……イヤーッ!」先程まで確かにそこにいたモータルはニンジャとなり、湿気た面をしたサラリマンの面影を捨て去り、オキナワ・シーへとキリモミ跳躍した。

おお、見よ。オキナワの朝日である……。

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