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恋愛小説『1・いいねして、リツイートして、フォローして』~ゲゲゲの鬼太郎を添えて~全4話の1

   どのくらいがんばったら認知がもらえるの?


   彼の存在を知ったのは、2年くらいまえ。年末にある、日本一の若手漫才師を決める大会。彼はそこにいた。ひとめぼれだった。かっこいい。今まで会っただれよりもかっこいい。どうしよう。私、この人が好き。なんでこんなにかっこいいの。髪形も好き。髪の長さも好き。髪の色も好き。目が大きいとこが好き。二重なとこも好き。鼻も好き。口も好き。正面の顔も好き。横向いたときの顔も好き。どうしようどうしようどうしようどうしよう。私、この人がすき。私、彼に出会うために生まれてきたの。


   彼はファンアートが好きだと知った。絵を書くのは苦手だけど、がんばって書いた。毎日書いてツイッターに上げた。彼の目にとまると信じて。1日目、2日目、3日目。≪いいね≫はつかなかった。子どもっぽい絵がだめだったのかも。4日目、5日目、6日目。大人っぽく書いたんだけど。7日目、8日目、9日目。黒色は彼のイメージカラーなのに。10日11日12日。相方さんのイメージカラーの黄色を使ったのに。13日14日目。彼のお眼鏡に叶わなかったってことか・・。書くのをやめた。#ファンアートで調べて、≪いいね≫がついている人のアカウントをブロックした。なにがどう違うのよ。私のほうが上手なのに。私の絵のほうが彼に似てるでしょ?どこが気にいらないの?ねえ、教えて。もういい。ファンアートじゃなくてほかのことでアピールするから。


   バースデーアートにも≪いいね≫は付かなかった。写真をたくさん使って、画面いっぱいお誕生日おめでとうを繰り返したのに。そこにも≪いいね≫をもらっていた人がいた。うんとたくさんいるのにひとりだけ。その人だけ。オフホワイトのバックに、ハッピーバースデーの白い文字。それだけ。彼を好きな気持ちをめいっぱい書いたらいいのに、わたしみたいに。好きです大好きです愛してますって書いて、写真をたくさん使ったらいいのに。なんでこんなそっけないものが。でもその人はいいねをもらってる。ブロックした。


   誰か知らない人のツイッターを眺める。≪いいね≫がついている。一般の人っぽい。だったら別に構わない。別の人のを見る。芸人さんからいいねをもらっていた。知らない芸人さんだからどうでもいい。また別のを見る。一般の人。また別の。一般の人。また別の。一般の人一般の人一般の人から。ーーその人には、彼からのいいねが付いていた。彼女のツイートは、
『こないだの舞台見にいきましたぁ。わやわやわや!!』
   それに≪いいね≫。意味がわからない。なんでよ。ブロック。


    彼が誰にいいねをしたのか見た。いいねもらってる人がこんなにたくさんいる。どうして。なんで私には。遡った。あれ、このアイコンさっきも見た。てことは、いいね2回もらっているんだ・・。その人のアカウントを見た。彼だけじゃなくてほかの芸人さんもファンらしい。だったら彼のツイートにリプしないでよ。
『番組を見たよ。おもしろかった~。でもあそこはもっと突っ込まないと~』
   彼のこと批判する人がどうして≪いいね≫もらうの?ブロックした。


『わたし、彼から何回も≪いいね≫もらったよ』
   そう、リプ返ししてきたひとがいた。
『え?どうして?』
『しらなーい。気分?酔って?』
『なに書いたとか教えて。ファンアートとかなんの番組みたとか。なんかの舞台のこととか』
   返事を待った。彼女からのリプは、いつまでたっても返ってこなかった。なんだよ!自慢だったらリプ返しすんなや!


   ラリーした人がいる。番組にでるよ~というツイートが来た 。その子は、見るね~とリプした。何人かから似たようなリプが書いてあった。彼がまた別のツイートをした、その子だけがリプした。ツイートした、リプした。ツイート、リプした。ツイート、リプした。10回ぐらいラリーしたらしい。彼女は、なんかめんどくさくなって、おふろはいるから、じゃ~、 と書いて放置した。おふろからでて見たら、お~~~う、と書いてあった。意味が分からなくて、お~~~う、とリプ返ししたら≪いいね≫されたらしい。友だちいないのかなあ、それともひまじん?と締めていた。くちびるをかんだ。とうぜんブロック。


   彼からのいいねが欲しい。リツイートして。フォローして。毎日アピールするとどれかは彼の目にとまるかもしれない。でもそんなに書くことはない。でも書かなきゃ。すきです。かっこいいです。あなたに恋してます。あなたをもっと知りたいです。あなたのことを毎日かんがえてます。一緒にご飯とか食べたいです。ディズニーランドとか行きたいです。USJにも行きたいです。言葉を変えて毎日毎日、1日に何度もツイートした。


   でもいいねもつかない、リツイートもない、フォローもされない。どうしてどうしてどうしてどうしてなんでなんでなんでなんで。たくさんいるファンのなかから私を見つけてよ。私の存在に気がついてよ。私ここにいるよ。私、毎日ツイートしてるんだよ。あなたの名前とコンビの名前をタグ付けしてるんだよ。私の書いたリプを探してぜんぶ読んで。 私のツイートをぜんぶスクショして。私と結婚して。お嫁さんにして。あなたなしではもう生きていけないの。あなたが必要なの。あなたのことしか愛せないの。会いたいよ。会ったらどうなっちゃうの。こころ奪われたの。運命のひと。わたしの王子様。あなたのことをいちばん愛してるの。本気で愛してるの。あなたじゃなきゃだめなの。あなたが必要なの。デートしたい、明日しようよ。そのあとはお泊まりしようね。いつになったら会えるの?明日も明後日も明々後日も会おうね。



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   友だちとスタバで待ち合わせをした。運ばれてきたゆずシトラス&ティーをひとくち飲んだ彼女は、現実見なよと言った。
「いままでに何回ツイートした?2年近くで2000回ぐらいだよね?彼の目に一回ぐらいはとまってるはずよ。でもいいねだってないんでしょ?気持ち悪がられてるからよ。わたし色々読んだけど」
  彼女はテーブルに置いていたスマホで私のツイートを眺めた。
「これ見て彼が好きになんてならないわ。怖いもん。彼に好きになって欲しいのなら、いまのアカウント削除して、新しいのを作るなら今みたいな気持ちわるいことを書かないことよ。知らない人に訳の分からないことを書かれるのはいやよね?」
「書くことぐらいいいでしょう」
「度が越してるのよ。彼に対して書いてるのかも知れないけど、知らない誰かにも見られてるのよ。まあ、この・・痛ツイート」
「痛くないもん。彼への気持ちを書いてるだけだもん。ほかの誰かも読むかもしれないけど、彼だって毎日読んでるもん」
   友だちはため息をついた。
「推しと結婚した芸能人ってたくさんいるでしょ」
「推し?ああ」
「だからね私も推しの彼と結婚する」
「夢みたいなこと言わないで。いいねすらされてないのに?」
   彼女をにらんだ。
「現実的なことを言うわ。彼の目に止まりたいなら、好きだの愛してるだの変なことをストーカーみたいに書くのはやめて、ツイッターに番組を見た感想を書くとか、時間とお金をかけてイベントやライブや舞台をコンスタントに見に行って顔を覚えてもらうとか、差し入れができるなら彼の好きそうなものをプレゼントするとか。差し入れがだめなら事務所に送るとかして何か良い記憶に残る行動を取ったほうがいいんじゃないの?そしたら相手に知ってもらえて、恋愛感情を持ってもらえて、付き合えるかも、なんじゃないの?」
  友だちの言葉にぐうの音も出なかった。アイスティーを飲んで心を落ち着かせた。
「彼氏を作ったら?私たちあと4年で30才よ。結婚しててもおかしくないわ」
   彼女には最近、彼氏ができたらしい。
「その人はその人、彼氏は彼氏でいいじゃないの」
「彼よりもカッコいい人なんてこの世にいないもん」
「男は顔じゃないわよ」
「彼氏、カッコいいじゃん」
「たまたまよ。それに私、1回振られてるし」
「ふうん」
    彼としか付き合いたくない。彼以外に考えられない。彼がいたらそれでいい。中学のときだって。クラスに仲の良かった男の子がいた。中1と中2のとき同じクラスだった。周りのみんなは付き合っちゃえよとはやし立てた。でも恥ずかしくて告白できなかったし、彼も恥ずかしいのかしてこなかった。そしたら取られた。新入生のコ。ゴールデンウィークが過ぎたころからよそよそしくなって、私の代わりに友だちがどうしてと聞いてくれた。彼女から告白したらしい。彼女は休み時間の度にこっちの教室に来た。すごくかわいいコ。人並みの容姿の彼にもったいないくらいかわいらしいコだった。告白しなくてよかった。彼氏なんていらない。その後好きな人はできたけど告白なんてしなかった。何人かで御飯を食べに行ったりして、いい雰囲気になったこともあったけど、愛想悪くして好かれないようにつとめた。だから今まで誰かに告白されたこともないし、彼氏もいたことがない。
「一緒に料理したり、旅行に行ったりして楽しいよ。ケンカもするけど、仲直りしたらもっと好きになったりするし。彼、2次元みたいなものでしょう。一方的にコンタクトしてるだけじゃない。触れないし、手を握ったり、会話もできないのに何が楽しいのよ?」
「今日じゃないかもしれないけど彼は連絡をくれるわ。告白の練習しないと。待ってて。すぐに紹介するから。そしたらみんなでご飯食べに行こうよ。ダブルデートって楽しそう。どこに行く?温泉とか?やだあ。彼、有名人だから私が一緒にいるとこをファンに見られちゃったらどうしよう。やっぱり私、叩かれたり恨まれるよね。彼に迷惑かけたら嫌われちゃう。どうしよう、私のこと大好きだって言ってくれてるのに」
   ふうう。彼女は大きくため息をついた。あの、だからさ。ちょっと聞いてよ、ねえ。



そうだ。次はDMを出そう。今までのツイッターは彼は見なかったかも。そうだ。だからいいねとかをくれなかったんだ。DMだったら絶対に読んでくれる。彼が大好きだっていう私の気持ちが伝わる。彼は返事をくれる。好きです、大好きです。愛してる。会いませんかって書いてくれる。



ファンアートにいいねしなくてごめんねーううん、大丈夫
いいねしてごめんねーううん、大丈夫
リツイートしなくてごめんねーううん、大丈夫
フォローしなくてごめんねーううん、大丈夫



気持ちに気がつかなくてごめんねーほんとだよ。もうっ。やだっ。
待たせてごめんねーほんとだよ。もうっ。やだっ。
こんなに愛していてごめんねーわたしもあなたのことをうんとうんとうんとうーんと愛してるわ。こんなにあなたを愛していてごめんね。



✴️読んでいただいてありがとうございます。実体験とか他人の経験の凝縮です。ちなみにこれはホラーではありません。純文学です。一途な彼女のこころのうちを書いた純粋な恋愛のお話しです。
ちび鬼太郎が上手く書けたのでヘッダーに使いました♪なぜ鬼太郎なのか深い意味はありません、と書いときます。モデルの彼女には好きな芸人さんがいて、彼が鬼太郎好きだからです。以上!!!!