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TOS19周年なので好きなスキットについて語る

 テイルズオブシンフォニア発売19周年おめでとうございます!!!!

 時の流れは早いもので、初めてTOSをクリアしてから4年が経とうとしています。素敵な作品の始まりをこうして祝い続けていられて、嬉しい限りです。
 今年はテイルズシリーズ恒例のシステムでもある、スキットについて記事を書こうと思います。スキットはプレイヤーが任意で聞くことのできるキャラクター同士のやり取りなのですが、重要過ぎる情報を入れてはいけない、しかし折角プレイヤーが読むなら読んで良かったと思えるような話も入れたいといった、作中の情報源として扱いの加減が難しいものの一つだと思います。そんな中で、TOSのスキットは発生するタイミングや会話の内容などが非常によく練られていると感じます。好感度システムの関係上周回前提の作品ということもあり、一周ではすべてのスキットを見ることができなかったり、一度クリアしてからもう一度読むと真の意図を理解できる会話があったりと、ゲームを遊ぶことで十二分にスキットというシステムを楽しめる仕様になっています。
 この記事では、その中から特に好きなスキットについて取り上げていこうと思います。

たとえ天使になっても……

「それにしてもコレットに羽が生えるなんてな~」
「うん、私もびっくりだよ~」
「ねぇねぇ、次の封印ではどうなるのかな?」
「え?」
「次は……頭の上の天使の輪かな? それとも体が光るとか? さすがに角や牙が生えたりはしないよね。なんたって天使だもんね」
「おい、ジーニアス……」
「さあさあ、お子さまは早く寝なさい」
「……コレット」
「やっぱり、変かな。羽なんて……」
「そんなことない!! たとえ天使になったってコレットは……コレットのままさ」
「……ありがとう、ロイド」

 一番初めの世界再生のための儀式を終え、天使の羽が生えたコレットについてロイド、コレット、ジーニアスが話しているスキットです。幼さと好奇心から、これからコレットがどんな風に変わっていくのか想像を巡らせるジーニアスに対して、コレットはこれから自分がどんどん人間離れした見た目になっていくかもしれないことへ複雑な思いを抱いています。それをロイドが少し強めの口調で諫めようとする前にリフィルがジーニアスを連れてその場を離れる点からは、リフィルの気遣いの上手さが感じられます。

 このスキットで最も注目すべき会話は、ロイドからコレットにかけられる「たとえ天使になったって、コレットはコレットのままさ」という言葉です。これは、このスキット以外でも世界再生の旅を続けている間ずっとロイドからコレットへ伝えられる言葉です。故郷でずっと”コレット”ではなく”神子”として見られていたであろうコレットにとって、この言葉がどれだけ嬉しいかは想像に難くありません。
 また、この言葉は物語の後半に、コレットからロイドへ返される言葉でもあります。今まで敵対していたクラトスが自分の父親だと知り動揺するロイドへ、コレットは「誰の血を引いていても、どんな生まれだったとしても、あなたはあなたでしょ! どんな姿になっても、天使になっても、私は私だって言ってくれたのはロイドだよ!」と激励します。

 ロイドがそれまでコレットに向けてきた思いやりが、今度はロイド自身へ返されるこのやり取りが私はとても好きです。だからこそ、その始まりとなっている「たとえ天使になったって、コレットはコレットのままさ」という会話がされているこのスキットは深く印象に残っています。


眠れない夜は……

「……眠れぬか? 神子」
「あ……いえ……だいじょぶです」
「眠れぬ夜が長くてつらいなら星を数えるといい。全て数えきるには……人生はあまりに短いが」
「……そうですね。そうしてみます」

 世界再生の儀式によって天使化が進み、夜に眠気を感じなくなったコレットにクラトスが声をかけるスキットです。この時点ではまだコレットに天使化の副作用が出ていることも、クラトス自身も天使であることも明かされていませんが、改めてすべての事情を知ってから見直すと感慨深いやり取りになります。

 出会ったばかりの頃のクラトスは、冷静に仕事をこなす寡黙な傭兵といった印象です。ロイドのことを「足手まとい」と言ったりする姿から、初めはそれほど子供に対して愛想が良くないのかな、とも感じます。
 しかし、一緒にシルヴァラントを旅している間のクラトスを見ていると、子供たちに対して時折彼らを気にかける言葉をかけたり、一見厳しく見えてもその実子供たちを心配する言葉をかけたりしています。彼が子供を持つ親である片鱗は、この頃から見えているように思います。

(スクショ)

 『眠れない夜は……』のスキットでクラトスがコレットに声をかけているのは、あくまでもクルシスの天使として神子の世界再生の旅を監視する役割を担っているに過ぎないクラトスが、それでも天使化の副作用に苦しんでいるコレットを放っておけなかったことを表していると感じます。また、クラトス自身も天使であることから、彼もまたコレットに教えたように眠れない夜は星を数えて過ごしているのかもしれないと想像させられます。
 コレットが天使化によって眠れなくなってしまっているという衝撃的な真実の導線になっていると同時に、もう一段底にあるクラトスが天使であるという真実や、もう少し先で一度パーティーメンバーを裏切るクラトスの根っこの人間性が垣間見えること等から印象深い会話です。

俺は偽善者だ!

「コレット! おい、コレット。俺がわかるか?」
「今のコレットには何を言っても無駄みたいだね」
「くそ! あの時、世界とコレットを天秤に掛けられて……俺は、一瞬世界を選んじまった。それがまやかしの平和だったってのに……」
「仕方ないわ。自分の決断一つで……世界を滅ぼすかも知れないとき、簡単に仲間の命を選べる方が……おかしいのよ」
「でも俺は、あの時、コレットを見捨てた。俺は……偽善者だ……ちくしょう!」

 テセアラに着いた後、感情を失ってしまっているコレットへロイドが声をかけるスキットです。世界再生の旅をしている間、ロイドはずっと「世界もコレットも救いたい」と言っていましたが、天使化するコレットを止めることができませんでした。コレットが世界再生の儀式を完全に終える直前に、自ら彼女から手を離してしまったことをロイドは深く後悔しています。

 ここで話されているのは、大切な一人と世界を天秤にかけることの難しさについてです。こういった展開で、大切な人を世界より優先するのは物語のお決まりではありますが、現実にはどちらかを選ぶのはそう簡単ではないといったことがTOSでは語られています。リフィルの「自分の決断一つで世界を滅ぼすかも知れないとき、簡単に仲間の命を選べる方がおかしい」という言葉は、良い意味でフィクション作品らしからぬ現実的な重みを持っていると感じます。
 私がTOSで好きなところの一つは、大切な人一人と世界のどちらをも救うのは難しいこと、それを旅の中の経験で痛感しながらそれでも両方を救うことを諦めないロイドの姿を序盤からずっと丁寧に描写し続けて、最後に大切な人と世界を救うエンディングにたどり着くところです。単なる綺麗事や理想論として軽んじられそうな言葉と結末へ、相応の重みを伴ったストーリーによって説得力を持たせているところが、TOSの魅力を際立たせていると感じます。このスキットで交わされている会話は、そういった魅力を分かりやすく感じさせられるものの一つです。

裏切り者

「ふさぎこんでるなんて、らしくないな」
「あんたに慰めてもらおうなんて思ってないよ」
「うむ。その調子だ」
「くちなわのヤツ……」
「ま、そうヤツを責めるなよ」
「ほっといてくれ! あたしは裏切り者っていうのが大嫌いなんだよ」
「おー、こわっ。女のヒステリーは犬もくわねえぞ」
「大きなお世話だ!」
「まず初めに誰が裏切ったのか考えてみるんだな」
「なんだと!」
「ひぇ~。退散、退散」
「あたしは……あたしは……」

 しいながミズホの里で一緒に暮らしてきた男、くちなわに裏切られた直後のスキットです。しいなへゼロスが絡みに行く場面はTOSでよく見られる光景ですが、この時のゼロスは普段の茶化すような言葉だけでなく、鋭い言葉を口にします。
 ゼロスの言う「まず初めに誰が裏切ったのか考えてみるんだな」とは、しいな自身のことを指しています。しいなは元々シルヴァラント側の神子が世界再生の儀式を完遂させないため、神子を暗殺するよう命令されてシルヴァラントへ送り込まれた暗殺者でした。

 しかししいなは生来の優しさからコレットの人の良さを知るごとに暗殺する決意が鈍ってしまい、世界再生の儀式の終盤には天使化の症状で感覚を無くしてしまったコレットを心から心配しながら旅に同行しています。そうしてテセアラを救うための仕事を放棄し、シルヴァラント側に味方していたことを、ゼロスは「裏切り」と言っています。ロイドの視点からゲームを進めていたプレイヤーからすれば途中から味方についてくれたしいなは有難い存在ですが、テセアラ側から見れば彼女が裏切り者ともとれるのだと気づかされる会話です。このスキットの最後にしいなが言う「あたしは……あたしは……」という言葉の声は、自分を裏切ったくちなわやテセアラを裏切るような行動を確かにとった自分自身に対する彼女の苦悩が籠もっていて、TOSの中でも非常に好きな声の一つです。

 更にこのスキットの味わい深いところは、ゼロスもまた「裏切り者」に他ならないところです。ゼロスはクルシスからの指示で、ずっとスパイとしてロイドたちについて行っています。しいなを裏切ったくちなわについて「そうヤツを責めるなよ」と肩を持つような発言をしているのは、もしかすると、裏切らなければならないような心境や事情のあるくちなわに対して自分と通ずるものを少なからず感じていたからかもしれません。
 ゼロスとしいな、二人の「裏切り者」が話していると考えると、タイトルがより心に刺さってくるスキットになっています。

俺のせいなのか?

「俺のせいなのかな」
「コレットのこと?」
「俺があんな要の紋を作らなけりゃコレットはこんなことには……」
「……その代わり、コレットは心を失ったままだった。いえ、あなたが助けなければ、コレットはクルシスによってマーテル復活の道具として殺されていたでしょうね」
「それは、そうだけど……」
「誰かが犠牲になるのはイヤだ。誰かが苦しむのはイヤだ。その考えは間違ってはいないわ。でもね、時々もどかしくなるの。腹立たしいほどに。人はいつも一つの選択しかできないのよ。自分の選んだ真実に責任を持ちなさい」
「……先生は、厳しすぎるよ」
「厳しいことを言うのは、あなたがそれを乗り越えてくれると信じているからよ。あなたは強いわ、ロイド」

 TOSというゲームの核の一つ、「選択」について改めて語られるスキットです。TOSには時折選択肢を選ぶ場面が出てきて、どの選択肢を選んだかによってパーティーメンバーの好感度が変化します。そしてその好感度によって、誰とフラノールで雪見をするか、誰とエンディングで一緒に旅をするか、そして最も大きいところだと終盤のパーティーメンバーがゼロスとクラトスのどちらになるかが変わります。このスキットで話されているのはロイドがコレットを救うためにはどんな選択をすれば良かったのかといった話ですが、リフィルの「人はいつも一つの選択しかできないのよ。自分の選んだ真実に責任を持ちなさい」という言葉は、プレイヤーにとっても他人事ではない言葉だと思います。

 この言葉の好きなところは、リフィルがロイドの選んだ選択について「自分の選んだ真実に責任を持ちなさい」と言っているところです。ロイドの選択がどんな結果を招いたとしても、リフィルはその選択を「間違い」ではなく「真実」と表現しています。また、自分の選択に責任を持つことの大切さも話されています。
 TOSでは、ロイドと同じようにプレイヤーも沢山の選択を繰り返します。そしてその全ての選択が、あり得た真実として作中で肯定されています。もしもどれかの選択が間違っているのなら、ゲームオーバーという分かりやすい形で間違いだと示せば良いわけですから、ロイドが誰と雪見をしても、最後に誰と旅をしても、それはプレイヤーが選んだ真実なのだと思います。このスキットを踏まえて、TOSにおいては自分の行った選択に責任を持つのなら、どの選択も決して間違いではないし、その選択は誰に否定できるものでもないと私は思っています。

 リフィルの言葉をロイドは「厳しすぎる」と言ってその場を離れますが、ロイドが離れた後にリフィルは「厳しいことを言うのは、あなたがそれを乗り越えてくれると信じているからだ」と話します。選択に関する話とはまた別に、ロイドの強さを信じて教師として彼の成長を見守っているリフィルの姿がじんとくる、とても好きな会話です。


この国の行方

「教皇は、なにを企んでいたのだろうな?」
「さあね、自分が国王にかわってこの国を支配したがったんじゃねーの?」
「愚かな……」
「ま、なにはともあれ邪魔者が消えて俺さまものんびりできるってこと。ハーフエルフへの差別も少しはましになるかもしれねーぜ」
「それはどうかな。教皇が失脚したとて人々の考えがそう簡単に代わるとは思えん」
「だーかーらー、この俺さまがいるんじゃねーの。ハーフエルフのお友達の、このゼロスさまが」
「この国、まだまだ揺れるな……」

 テセアラ国内の政治にかんする問題が一段落した後、ゼロスとリーガルがテセアラの未来について話すスキットです。ゼロスは神子、リーガルは大企業の社長と、テセアラで高い地位にある二人が自国の今後について話す内容には、他の組み合わせでは見られない味わいがあります。
 TOSでは、ハーフエルフに対する差別が大きな問題の一つとして描かれています。この差別問題について、作中では当然良くないもの・無くさなければならないものと言及されますが、同時に深く根付いて簡単には無くならないものだとも語られます。リーガルがこのスキットで「人々の(ハーフエルフを差別する)考えがそう簡単に変わるとは思えん」と話しているのも、その一つです。
 また、パーティーメンバーの中ではゼロスもハーフエルフにあまり良くない印象を持っていた一人です。このことは、テセアラに着いて間もない頃、ジーニアスとリフィルがハーフエルフだと分かった時にも話されます。また、ゼロスがハーフエルフを良く思っていない理由には、テセアラではハーフエルフが悪いものだとずっと教育されてきたからという理由の他に、自分の母親を殺したのがハーフエルフだったからというのもあります。

(スキット)

 そんなゼロスが、ロイドたちとの旅を通してハーフエルフを嫌う気持ちを見直して、自分を「ハーフエルフの友達」と称するまでになったことに彼が旅で得たものの一つを感じられます。また、スキットの最後にリーガルが言う「この国、まだまだ揺れるな……」という言葉はどことなく楽しそうな声になっています。決して少なくない問題が山積みになっている状況で、それでも未来が少しでも良いものになるだろうと思わせてくれる二人の会話が非常に好きなスキットです。


プレセアはひとりじゃない

「アビシオンの奴、俺たちを利用していやがったんだな」
「……彼は……私と同じです」
「え? どういうこと?」
「闇の装備品は、ずっと私に語りかけていました。仲間になれって……」
「どうしてプレセアに……」
「私が……ずっと一人だからです。いいえ……一人だと思いこんでいたからです」
「そっか……。だからアビシオンさんも最後に悲しそうな顔になったんだね」
「だから……私と同じなんです」
「それは違う。あいつは俺たちを利用しようとした。プレセアは誰かを利用しようなんて考えてないだろ。だからみんなが助けてくれる。そういうことさ」
「プレセアにはボクたちがいるよ。闇の装備品の言葉なんか、ボクたちでかき消してあげるから」
「……ありがとう、みなさん」

 TOSの裏ボスの一人、アビシオンを倒した後に見られるプレセアとパーティーメンバーのスキットです。このスキットは、プレセアがずっと感じている孤独に対する総括のような会話になっています。
 スキットの中で話しているように、プレセアは自分がずっと一人だと思っていました。それは、彼女が実験で埋め込まれたエクスフィアによって感情を失い成長もしなくなった体になり、時間に置き去りにされてしまっているからです。作中で人間がハーフエルフを恐れる理由の一つに「人間の血が混ざっているのに老いないから」というのが挙げられる場面がありますが、プレセアもまたずっと成長しないことを理由に周りから化け物だと遠巻きにされています。そうやって故郷で迫害されていること、自分が感情を失っている間に家族を筆頭に多くの大切なものを失ってしまったことから、プレセアは孤独を感じています。

 そんなプレセアは、ロイドたちと旅をすることで信頼し合う仲間を得ます。そのことは、アビシオンが一人で戦いを挑んでくるのに対し、プレセアはゲームの仕様上仲間と一緒に戦うところからも分かりやすいです。そしてアビシオンを倒した後、ジーニアスが「プレセアにはボクたちがいるよ」と伝え、プレセアはそれにお礼を言います。
 TOSのパーティーメンバーは、神子であるコレットとゼロス、ハーフエルフのジーニアスとリフィル、召喚士の力を持っているしいな、囚人のリーガル、化け物として恐れられているプレセアといった風に、ひとりぼっちの人たちが集まっているメンバーでもあります。そんな彼らが理解し合い、信頼し合って、支え合える仲間を得たことの大切さが、このスキットからは改めて伝わってきます。

死守すべき力

「相談があるのだけれど」
「……私にか」
「あなたが一番冷静そうだからよ。……この先は危険だわ。命の優先順位を決めておかなくては」
「なるほど。ロイドが怒り出しそうな話だな」
「ロイドは……死守しなければ。最終決戦で未知の力を持つミトスと対峙するには……」
「ロイドの……特別だというエクスフィアか」
「ええ。それがどんな力なのか分からないけれど、勝算のある方へかけるべきだわ」
「……承知した。ロイドを守ろう。我々の手で」

 敵の本拠地にやってきたリフィルとリーガルが、ロイドに聞かれないよう命の優先順位について話すスキットです。リーガルが「ロイドが怒り出しそうな話」と言っているように、パーティーメンバーの中でも大人として振る舞っている二人だからこそ話せる内容になっています。
 TOSではずっと「世界を救うため誰かを犠牲にしたくない」というロイドの考えが話されていますが、同時にそれがとても難しいことだとも提示されています。その困難さをパーティーメンバーの中でも特によく理解しているのが、冷静に物事を見ているリフィルとリーガルです。だからこそ二人は、この先何の犠牲も無しに進める可能性は低いと判断して、ロイドの命の優先順位を一番と決めています。
 命に順位をつける行為は一見残酷に見えますが、そうしなければならないほど戦いが佳境になっているのも、最も敵のボスであるユグドラシルに勝てる可能性を持っているのがロイドなのも事実です。そして実際に、この後パーティーメンバーはロイドを先に進ませるためダンジョンの仕掛けを止めて一人ずつ脱落し、パーティーから抜けていくことになります。

 冷静な判断を下せる二人の理性が感じられるところは勿論、リフィルとリーガルがロイドに抱いている期待や親しみといった思いも感じられ、二人を含むパーティーメンバーが脱落した後ロイドが繋いだ絆によってパーティーメンバーが戻ってきてくれるところまで合わせて好きなスキットです。

次期頭領の心得

「しいな、格好いいね。何か、頭領って感じだねぇ」
「いや、そんな……。て、照れるじゃないか」
「どうだ。次期頭領としての就任の挨拶を考えておいては」
「あぁっ、そうかい? じゃあ、考えてみるよ。えっと……本日はお日柄もよく……」
「でも就任の日に雨が降っていたら、その挨拶、使えないね」
「このよき日に……とかでいいんじゃねーの?」
「このよき日に、頭領となった私は……」
「ここで、経営方針について上げておくべきだろう」
「経営……ねぇ。まあ民を率いるのも経営みたいなもんか」
「一つ、罪を憎んで人を憎まず」
「二つ、お客さまの笑顔は我が社の宝」
「三つ、三つもハゲがある」
「……もう、あんたたち、勝手に話を進めないどくれ!」

 これまで挙げたものと異なり、パーティーメンバーのほのぼのとする会話が楽しめるスキットです。物語のテーマに関わっていたり、大切な話を聞けるようなスキットは勿論好きですが、こうやってキャラクター同士の何気ない日常会話を見られるところもスキットシステムの大きな魅力の一つではないかと思います。
 このスキットは、サブイベントを終えてしいながミズホの里で次期頭領として認められた後に見られる会話です。余談ですが、このイベントで貰えるしいなの称号衣装はテイルズシリーズ1作目に登場する藤林すずの衣装と似たものになっていて、シリーズ作品を知っているとニヤッとできる要素となっています。

 ヴォルトの暴走を経験して以来トラウマを抱えていたしいなが、過去を乗り越え頭領に認められたことの嬉しさを改めて感じられるところが何より好きな会話ですが、パーティーメンバーに言われるがまま頭領就任の挨拶を考え始めるしいなの可愛らしさと、最終的に皆が好き放題挨拶の文章を考え始めるわちゃわちゃとした雰囲気も特別好きです。明らかにふざけているゼロスは言うまでもありませんが、「罪を憎んで人を憎まず」を挙げるコレットや「お客さまの笑顔は我が社の宝」を挙げるリーガルの、それはしいなじゃなくて君たちの心がけでしょ!と思わず言いたくなる頭領就任挨拶にも笑ってしまいます。物語終盤に見られるスキットということもあって、長旅を共にしたパーティーメンバーの仲の良さが伝わってくる点も大好きな会話です。


ミトスの諦めと悲しみ

「ミトスは……本当は悲しいのかも知れないな」
「どうしたの? ロイド」
「俺にミトスがとりついたとき俺の中に、ミトスの記憶が流れてきたんだ。沢山の人に裏切られて、それでも前を見て、人を信じようとして……」
「そうか……。ミトスはあの勇者ミトスなんだよね。おとぎ話にまでなった……」
「あいつは姉さんを……マーテルを失った瞬間に、諦めたのかも知れない。そして、諦めたことを悲しんでいるような気がするんだ」
「諦めた瞬間に、ミトスは仲間を失ったんだもの。ううん、仲間よりマーテル一人を選んだんだ」
「俺はあいつに同情しない。同情したくない。あいつのしたことは、絶対に許せない。……でも、心のどこかであいつが改心してくれればって……そう思ってるんだ」
「だめだよ、ロイド。そんなことじゃ、ミトスに負けちゃうよ。ミトスは敵なんだ。……敵は、倒す。それだけだよ」
「ジーニアス、おまえ……」
「大丈夫。……ミトスに同情するのは……ボクの役目だから」
「……分かった」

 ミトスとの決戦を前にして、ロイドとジーニアスがミトスについて話すスキットです。主人公たちとラスボスの戦いというのはRPG作品全般で大切な一戦であるのと同時に、「主人公に正義があるように、敵にも正義がある」という構図を1作目から踏襲し続けているテイルズシリーズでは殊更重要で、作品テーマに直結するものでもあります。このスキットでは、ラスボスのミトスについて改めて振り返ると同時に、主人公側であるロイドとジーニアスのミトスに対するスタンスが語られます。

 まずこのスキットで注目すべきところは、ミトスについて「仲間よりマーテル一人を選んだ」と表現されているところです。今まで挙げたスキットのうち幾つかでも言及されていたように、TOSではプレイヤーもロイドも何かを選択し続けています。
 ミトスはかつてロイドのようにハーフエルフ差別の無い、平和な世界を目指して戦っていました。ロイドがミトスに似ていると作中で何度も言われているところからも分かる通り、ミトスもまた、ロイドと同じように何かを選択し続けていたのだと思います。このスキットで言われている、「仲間よりマーテル一人を選んだ」というのもまた、ミトスが選んだ選択の一つなのでしょう。『俺のせいなのか?』のスキットでも言われているように、TOSにおいて”選択”は「自分自身が責任を持って行われるもの」と描かれています。そして、ミトス自身もロイドに倒されてなお「自分の選択を後悔しない」「何度だってこの選択を繰り返す」と自分の選択に対する責任を貫いています。こういった本編の描写を踏まえて、私はミトスの選択を尊重したいし、彼の選択の責任を勝手に奪って誰かに押しつけたりもしたくないと思っています。

 また、先ほども少し書いた通り、テイルズシリーズの大きな特徴の一つに「主人公には主人公の正義があり、敵には敵の正義がある」として、敵キャラクターを単なる悪役ではなく主人公側と同じように何かしらの考えと志を持った相手だと描写する点があります。これはミトスに関しても同様で、彼がどうして世界を二つに分け、神子や世界再生といったシステムを生み出したのかが本編では語られています。
 主人公も正義で、敵も正義なら、なぜ彼らはぶつかり合うのか。それは、彼らの正義がどうしても相反するためぶつかり合わなければならず、譲れないものだからです。TOSでは、ロイドたちが自分たちと決して遠くない境遇にあるミトス側の事情を知ることで、出来ることなら戦わずに分かり合いたいと思う気持ちが描かれています。同時に、彼がやはり敵で、倒さなければならない相手だとも十二分に話されています。それを簡潔に示しているのが、このスキットでの「ミトスがやったことは絶対に許せないけど、改心してくれればって心のどこかで思っている」と話すロイドと、「それでもミトスは敵だから倒さなきゃいけない」とロイドを激励するジーニアスの会話だと思います。
 最後にジーニアスが、「ミトスに同情するのはボクの役目」と言っているように、主人公側に特に深く敵側へ寄り添う気持ちを持っているキャラクターがいるバランスが描写されている点も含めて、とても好きなスキットです。

 また、このスキットの他に『ミトスの罪と悲しみ』というタイトルでロイドとゼロスがミトスについて話すスキットもあります。こちらのスキットも、どうしてロイドたちがミトスを倒さなければならないのかを最終決戦を前にして振り返る内容になっていて、印象深いスキットです。


番外編

「傭兵って、何をするんだ?」
「金で雇われる兵士だ。今回のように用心棒をすることもある。長く戦争などおきていないからな。まあ、パルマコスタ方面がきな臭いという話もあるが……」
「ふーん。大体どれぐらいの金をもらうんだ?」
「仕事にもよる。今回はファイドラ殿からそれなりにはもらっている」
「で、どれぐらいだ?」
「……何故そんなに知りたがるのだ?」
「ドワーフの鍛冶屋とどっちが儲かるのかなってさ」
「さあな。私は私の腕を買ってもらっている。ドワーフはドワーフの腕を買われているのだ。どちらが高かろうが大した意味はあるまい」
「そりゃそうだな」
「……まさかおまえ、傭兵になりたい……などとは言わないだろうな」
「それはねーよ。俺は親父の元で勉強して技術を磨くんだ。んで、いつかは自分の船を作るんだ。それにのって世界を旅するのさ」
「……フ。それならいい。いい夢だな」
「へへっ! まーなー! そのためには平和になってもらわないとな」
「ふむ……」
「平和になったら傭兵なんて商売にならないだろ? そしたらさ、俺の作った船に乗せてやるよ」
「……フ。考えておこう」

 TOSにはマップを進んでいる時に見られる通常のスキットの他、特定の場所にある光るサークルに入ることで見られるサークルスキットというものがあります。これは、会話するメンバーがロイドとパーティーメンバーのうち誰か一人に固定されていて、会話の途中で出てくる二択の選択肢のどちらかを選ぶことで会話相手の好感度を上げられます。ここで挙げているのは、そんなサークルスキットのうちの一つです。
 ロイドとクラトスの関係は作中でも後半に明かされる大きな謎の一つであるため、二周目以降見返すと味わい深い意味深なスキットや、改めてお互いの親子関係を知った二人が交わす心温まるスキットが沢山あります。

 その中でも特に好きなのが、シルヴァラントで旅をしている間に見ることができる、ロイドの将来の夢についてクラトスが話を聞くスキットです。ツイッターの方では何度も好きだと話しているスキットですが、やっぱり何度見返しても大好きなので、改めてどこが好きなのかを綴ります。

 まずこのスキットで好きなところは、クラトスがロイドへ社会の仕組みについて話すところです。傭兵と鍛冶屋のどちらが儲かるのかと尋ねるロイドへ、「私は私の腕を買ってもらっている。ドワーフはドワーフの腕を買われている。どちらの報酬が高かろうが大した意味は無い」と返すクラトスのやり取りからは、仕事に対する報酬の発生といった社会の仕組みをまだ詳しく知らないロイドと、しっかり理解しているクラトスという、子供と大人の会話を見ることができます。改めて見てみると、ロイドが無意識のうちに育ての親であるダイクと実の父親であるクラトスの職業を並べて話をしているところも真実を知った時に味わい深く感じる点です。

 次に好きなところは、傭兵と鍛冶屋のどちらが儲かるか気になると話すロイドへ「……まさかおまえ、傭兵になりたい……などとは言わないだろうな」と傭兵になって欲しくなさそうな反応をするクラトスです。何も事情が分からない一周目だと、幼馴染のコレットやジーニアス、担任教師のリフィルならまだしも、なぜ出会ったばかりのクラトスがロイドの将来なりたい職業を気にするのかと不思議に思う反応ですが、二人の親子関係を知った後だとそりゃあ将来どんな職業に就きたいのか気になるし傭兵にはなって欲しくないよね~~~!!と納得してしまいます。ロイドの「自分の船を作って世界を旅したい」という夢を「いい夢だな」と評するところから見ても、クラトスはロイドに戦いに身を投じ続けるような仕事ではなく、平和な仕事に就いてほしいと思っているのではないかと思います。自分たちの関係を隠している中でも隠し切れていない親心に心がじんとなります。

 次に好きなところは、ロイドが出会ったばかりのクラトスを「俺の作った船に乗せてやるよ」と当たり前に自分の思い描く未来に存在させているところです。初めは自分より腕が立ち、自分を足手まといだと言うクラトスに反発しているロイドですが、そんな中にも彼に対する親しみが要所で感じられます。世界再生の旅が終わった後も当然にクラトスと過ごす未来を想像しているところからも、ロイドが初対面であるはずのクラトスに何となく抱いている親しみは伝わってきます。ロイドの誘いに対して微笑んで「考えておこう」と悪くない返事をしているクラトスもまた、ロイドを好ましく思っていると分かります。

 こうしてスキットの内容を見た後に、TOS本編のその後の物語を踏まえた上でとても好きなところが、このスキットでロイドとクラトスが思い描いた未来は決して叶わないところです。
 世界再生の儀式はマーテルの器を作るためのものに過ぎず、儀式が成功したからといって本当に世界が平和になるわけではありません。ロイドは最終的にダイクの元で勉強することはなくエクスフィアを回収するための旅に出ることになりますし、クラトスに至ってはこの時点ではオリジンを解放して死ぬつもりでいます。結果としてクラトスが死ぬことはありませんが、彼はプレイヤーがどんな選択肢を選んでも最後にはクルシスのハーフエルフを連れて地上を去ってしまいます。世界再生の儀式は世界を平和にするためのものではなく、ロイドは育ての父の元で技術を磨き自分の船を作ることもなく、ロイドとクラトスが一緒に船に乗って世界中を旅する未来はあり得ません。
 それでも、クラトスが眩しい未来を思い描きながら将来の夢について話すロイドを好ましく思い、「いい夢だな」と肯定したこと。ロイドが出会ったばかりのはずのクラトスを当然に自分と一緒に明るい未来へ連れていこうとしたこと。その誘いにクラトスが「考えておこう」と前向きな返事をしたことが、たとえ夢が叶わなかったとしても、何より得難く大切だったのだと思います。

 初めて見た時にあまりにも好き過ぎて衝撃を受け、同時にロイドとクラトスの関係性が好きだと確信したスキットです。そして、これからもずっと大好きなやり取りの一つだと思います。


 冒頭でも書いたように、TOSのスキットは含まれている情報量や発生のタイミングなどのバランスが非常に良く好きなものばかりなのですが、厳選して特に好きなものについて書きました。どれについて書こうかスキットを見返しているうちに、プレイ当時の感情を思い出して懐かしい気持ちになったりもしました。何年経っても色あせない感動を感じられる作品だと、改めて思います。
 来年はTOS発売20周年ということで、大きな節目の年になります。そんなおめでたい日を、またこうしてお祝いできたらと思います。

 

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