火花書評

【書評+α】 『火花』の魅力と芥川賞の実態

3年半前に書いた記事です。

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TOEIC満点小説家の本棚


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ピース又吉さんの『火花』が230万部超えましたね。

少し時間が経ちましたので、小説家の端くれとして落ち着いて感想を書かせていただきます。


芥川賞を一言で

芥川賞とは「純文学の新人賞」です。

小説や本すら読まない人でも聞いたことがあるのが、もう1つ直木賞だと思います。実際、芥川賞とセットで発表されます。

直木賞と芥川賞は全く異なります。

直木賞は、エンターテイメントですでに売れている中堅作家の登竜門のような位置づけです。

1000人に1人ぐらいが新人賞(その中でもビッグタイトルと呼ばれる賞)を取りデビューし、そのほとんどが消えていく中本を世に出し続け、その中の1冊が受賞する。

ここまでくれば、後は固定のファンが買い続けてくれますから、「あれ?これ前も読んだような…」と錯覚するほど同じ中身でも「売れっ子作家」になれます。

それを10~20年続けていれば、やがて大先生として審査員になれたりします。


芥川賞は文藝春秋の賞

知らない人も多いですが、この芥川賞や直木賞、その他小説の賞は、別に国やどこかの崇高な組織が選んでいるわけではありません。

芥川賞は文藝春秋が開催している賞です。

候補作には他社の作品も入りますが、今までの受賞作の半分は文藝春秋から出版した作品らしいです。

当然ですよね。

この沈没する日本でも急先鋒の出版業界で、絶対売れるカンフル剤のような冠をわざわざ他社に与えるなんて愚行ですよね。

又吉さんの火花は、そう、文芸春秋から出版されています。

ちなみに、新潮社が同様に主催した「三島由紀夫賞」は、火花は逃していますよね。

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これは何一つ「悪い」ことではありません。ビジネスです。

普段は本すら読まなくても、「え、あたし又吉ちょー好きなんだけど」ととりあえず買う「固定客」をすでに持っていた又吉さん。

値段の付け方も絶妙ですが、これはビジネスとして正解中の正解です。

国の金を業界ぐるみで奪う談合とも異なります。

勝手に「賞とは偉くて正しい」と市場さんが勘違いしているだけです。

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火花を読んだのは受賞後ですが、「絶対に芥川賞を取るよ」と断言し続けていました。

先程も述べた直木賞のエンターテイメントならば一定の読者はつきます。

しかし、誰が純文学を読むのですか?

そもそも、純文学って何か分かっていますか?

小説を書いてしまう私ですら純文学なんか読みません。

実際、芥川賞はインディーズバンドの年に2回の合同ライブのような、普段は数千部しか売れないけどなんとか半年に一回は稼げる、ぐらいに感じます。もはや。

事実、火花と同時に受賞した作品は、本にすらなっていませんでしたし。


火花1つで30億円?

芥川賞は商業性より芸術性。これは今は昔ですよね。

自社から出版している火花を受賞させれば30億円+もろっもろの利益。

他社ならば0円。

これで火花を選ばなければ、更迭じゃ済まないかと。

小説の元手は0円ですから、市場から本の世界に30億をサルベージしたのは純粋にファインプレーだとは思います。


それを踏まえても良作かと

さて、ようやく書評ですが、個人的には期待以上で驚きました。

水島ヒロさんの時もそうでしたが、すでに名前が売れた人が全く異なる世界に挑戦すると、どうしても色眼鏡をかけてしまいますよね。

何より今回は天下の芥川賞です。

3億の印税や、反対に「文豪そう」な雰囲気作りは置いておいて、1冊の小説として一気に読むことができました。


やはり言葉を知っている

序盤は少し読みづらさを感じました。

芸術性を目指して敢えて長文を続けているのかなと。

また、描写にも「これでどうだ!」と様々な言葉を使い、さすがだなと思う一方あなたの真髄はそこではないとも思っていました。


ストーリーとキャラクター

芥川賞は短編ですので仕方ないのですが、主なキャラクターは2人のみ、ストーリーも半分は私小説なのだろうなと感じました。

一人称で進み、テーマもお笑い。

私が又吉さんならという謎の仮定ですが、相当書きやすかったのではと感じます。

一方で、本を読まない人には必ずしも「面白い」かは分からない作品だと思います。

こねくり回すような性描写も無く、純文学にしては確実に読みやすいですが。

個人的には中盤辺りからコーヒーを飲むのも忘れて一気に読み切りました。


真骨頂は会話

これはプロの技です。

リズムのよい会話で本当に笑わせてくれます。

私はコントは嫌いですが漫才や落語は大好きです。

話し言葉1つで相手を魅了するプロの技を、書き言葉1つで魅せる本の世界でも発揮してもらえました。


残る哲学も散りばめられている

愛だ夢だと中学生バンドでも言いまわせる安い文字ではなく、又吉さんだから言葉にできた哲学が確かにありました。

ぜひ皆様自身で見つけてもらいたいのですが、この一文を拾えただけでも読んでよかったなと思えるかもしれません。


2作品目で真価が問われる。おそらく一定レベルは超えてくるはず

僭越ながら、本を1000冊読んだとしても分からず、1冊世に出した時に初めて気づけることが物書きにはあると思っています。

シーズンのほとんどを外野席から応援し配球にまで口を出す野球マニアより、一球でも金をもらってマウンドで投げたことがある選手の方が分かることはある。

書き手として感じたのは、又吉さんも相当に悩み考え生きてきたのではないかと。

1つの奇想天外なアイデアが当たったとか、マーケティングだけが上手い作品とは異なり、物書き力のある人物だと勝手に考えています。

2作品目も、「何部売れた」の本物偽物ではなく、物書き力その物を見極めることを楽しみにしたいと思います。


又吉さんは私の8個上。

あと8年で私もどこまで登れるのか、人生そのものを磨き続けたいと思います。


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