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お好み焼きな恋人と坦々麺な仲間

広島駅のお好み焼き屋で、隣に若く品の良いカップルがいて、ふたりはおそらく就職で離ればなれになっていて、広島に出て行ってしまった彼氏に久しぶりに会いに来た彼女、という会話が漏れ聞こえてきた中で、彼女が「広島弁になるときあるの?」と聞いたとき、彼氏が「いや、まだ一年だし」と答えていて、このやりとりは言い換えれば、彼女は「(方言が身につくほど長く)離れてさみしい」と言っており、彼氏は「(一年なんかで地元を)君を忘れない」って答えたことになるわけで、そんなふたりの目の前には彼女からすれば大好きな人を奪っていった広島の象徴、彼氏からすれば彼女と離れていても頑張らなければならない街の象徴であるお好み焼きがあって、「宮島にはいきたいやろ?」「うん、行ってみたい」という会話の続きが、いま始まったばかりのふたりの週末が、もうすでに寂しさに包まれていた。

夜は夜で薬研堀で汁なし坦々麺を食べていると、横にはアラサーの女友達5人組がいて、どうやらその中のひとりが転職か転勤で広島を離れてしまうらしく、送別会の流れで馴染みの坦々麺を食べにきていたのだが、「広島に戻ることはないの?」「わかんない」「でも楽しかった」「うちら恋多きデブだから」「恋多きデブ、まじ最高だよ」と各々が喋って坦々麺をすすっている姿がとても可愛かったし、狭い店内を移動する際に恋多きデブらしく窮屈そうだったが「すみません、すみません」とちゃんと私に声をかけてくれるところなど、恋多きというよりきっとみんなモテるんだろうなと思わせてくれた。

お好み焼きや汁なし坦々麺というご当地の名物それ自体よりも、名物がゆえに食べに来ている人たちにこそ、その土地にまつわるドラマがあるのである。

#コラム

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