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シティ・ポップとしてのエリック・クラプトン『アンプラグド』

(4 min read)

Eric Clapton / Unplugged

きのう「みんな知らん顔」ブルーズのプレイリストにもここから選んだんですが、エリック・クラプトンのライヴ・アルバム『アンプラグド』(1992)。これ、実はぼくけっこう好きですね。ちょっと恥ずかしいことかもしれないんですが、もうそんなこと気にしている歳じゃない。

90年代当時このCDはかなり売れて有名人気盤になり、前からロック・ギター・キッズのあいだでは大ヒーローだったクラプトンの一般世間での知名度も一躍急上昇することになりました。が、そのいっぽうでクロウト筋からの音楽的評価は必ずしもかんばしくなかったのです。

つまり、60〜70年代からクラプトンをずっと聴いてきていたすれっからしの耳の肥えたブルーズ、ロック・リスナーのあいだでは「う〜ん、これはちょっとねえ…」という声が多かった。その大半は、たくさんやっているギター弾き語りの戦前ブルーズ・チューンがきれいさっぱりと洗浄されちゃったみたいになっていることへの違和感だったように思います。

90年代といえばCDメディアの普及にともなって戦前黒人ブルーズがCDでばかすかリイシューされまくっていて、一種のブームみたいになっていましたよね。それなもんでオリジナルを耳にする機会がぼくらも増えて、それに比べて『アンプラグド』のクラプトンのは…みたいな感想があったかも。

ぼくもあのころは同調していたんですが、あっさりこざっぱりしたおだやかな都会的音楽こそ最愛好になったここ数年の個人的趣味の変化をふまえて『アンプラグド』を聴きなおしてみたら、あ〜ら不思議、なんかとってもいいじゃない。アクースティック・オンリーのオーガニック生演奏というのもステキだし。

たしかに2「ビフォー・ユー・アキューズ・ミー」、3「ヘイ・ヘイ」、9「ウォーキン・ブルーズ」、12「モルティッド・ミルク」とか、やっぱりね、ちょっと、これでいいの?という気分が拭いきれない面もあって、こりゃ “ブルーズ” じゃあないだろうと言いたくなってくるフィーリングがぼくにもいまだあります。

しかし最近このアルバム全体をじっくりなんども聴きなおしていてようやく気づいたのは、これらは必ずしもブルーズじゃないんだってこと。オリジナルはブルーズ・チューンですが、ここでのクラプトンらの解釈は一種の洗練されたおしゃれシティ・ポップになっているんじゃないかと思うんです。

だからこそブルーズ・リスナーには受け入れられないと思うんですが、ジャジーなシティ・ポップ好きにとっては恰好の音楽で、これはこれでわりといいものですよ。4「ティアーズ・イン・ヘヴン」、5「ロンリー・ストレインジャー」、8「ラニング・オン・フェイス」といった曲じたいのポップ・チューンとならんでいますから、この側面はいっそう強化されています。

そう考えないと、このごろのぼくがこのアルバムに感じている快適さは説明できない気がします。本作でいちばん好きな6「ノーバディ・ノウズ」とか、同系統のちょっぴりホンキーなジャグ・バンド・ミュージックっぽい10「アルバータ」、11「サン・フランシスコ・ベイ・ブルーズ」とかも、こんな視点で聴きなおすことで、ここでのレンディションのチャームをよりよく理解できるはずです。

(written 2023.3.17)

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