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『レイラ』再訪 〜 テデスキ・トラックス・バンド

(9 min read)

Tedeschi Trucks Band featuring Trey Anastasio / Layla Revisited (Live at Lockin’)

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デレク&ザ・ドミノズの『レイラ・アンド・アザー・アソーティッド・ラヴ・ソングズ』から昨年はぴったり50年というタイミング、スーザン・テデスキ&デレク・トラックス夫妻が牽引するテデスキ・トラックス・バンドが、2021年7月16日、『レイラ・リヴィジティッド(ライヴ・アット・ロッキン)』というライヴ・アルバムをリリースしました。

デレク&ザ・ドミノズ(エリック・クラプトン)1970年の大名作『レイラ』の全曲をそっくりそのまま再現カヴァーするというライヴ企画をまるごとパッケージングしたもので、このアルバム、数ヶ月前から予告され、数曲がYouTubeで先行公開されてもいたので、期待値がおおいに高まっていました。

それは2019年8月24日、米ヴァージニア州アーリントンで開催されたロッキン・フェスティヴァルでのライヴ録音。ゲストとしてギター&ヴォーカルでトレイ・アナスタシオ(フィッシュ)を迎え、さらにバンドに頻演しているドイル・ブラムホール IIもギターで参加しています。

このライヴ・コンサートで『レイラ』のフル再現をやるということはまったく事前告知されていなかったらしく、現場の観客にとっても世界にとっても大きな衝撃でした。アルバムを聴くと、事前にかなり綿密にアレンジされ用意周到にリハーサルも積んでいたことがわかる内容で、それでいきなりのサプライズ・プレゼントをぶつけるなんて、ねえ。

1970年オリジナルの『レイラ』はリズム・セクション+クラプトン+ドゥエイン・オールマンの五人でやっていたものですが、今回のテデスキ・トラックス・バンド+ゲストは、ギターが(スーザンふくめ)四人、ベース、キーボード、ツイン・ドラムス、三管ホーンズ、コーラス隊三人という、ロック・バンドとしてはやや大きめな編成。ヴォーカルはリードがスーザンで、ところどころトレイが歌っています(じゃない声も聴こえますが)。

さて、こういう企画を21世紀に実現するにあたっては、いまやテデスキ・トラックス・バンドしかいないな、こいつらだけだ、というのがたしかなところ。なんたって、オリジナルの『レイラ』LPが発売された1970年11月9日はスーザンの誕生日ピッタリ。パートナーのデレクはといえば両親が大の『レイラ』ファンで、あまりにも好きすぎて、生まれてきた子にそのまんまデレクと命名してしまったんですからね。

そんなデレクはギターリストとして、もちろんドゥエインの継承者的意味合いで、オールマン・ブラザーズ・バンドで大活躍。エリック・クラプトンとも共演を重ね、2010年にテデスキ・トラックス・バンドを結成し、いまにいたるっていう。だから『レイラ』の全曲再現カヴァー・アルバムなんて、このペアにとっては宿命みたいなもん、やるべくしてとうとうやった大仕事という感じでしょう。

全体的に曲のアレンジはオリジナルの『レイラ』に忠実に沿いながら、そこは大編成なりの工夫をくわえています。ホーン隊は基本ギター・リフをふくらませていることが多く、ときに重厚に、ときにぐっとタイトに、新鮮なグルーヴを提供してみたり、また豊かなコーラスでメロディ・ラインをよりふくよかによみがえらせたりなど。

オリジナル『レイラ』は、アメリカ南部ふうなLAスワンプ風味がそこはかとなく、いや、そこそこ鮮明に、ただよっていたのがぼくにとっては最大の魅力でしたが、そんなスワンプ・ロック/サザン・ロック・サウンドは、今回の『レイラ・リヴィジティッド』ではやや後退しています。

もっと現代的なロック・サウンドに仕上がっているわけで、くっさぁ〜い南部テイストは時代じゃないっていうことなんでしょうね。といっても曲がぜんぶそのまま使われていますから、そこはそれなりにオリジナルの雰囲気をそれとなくかもしだしてはいますが、それをテデスキ・トラックス・バンドならではの現代風味で料理してあると聴こえます。

そして、やはりロックの華はギター。ずらり勢揃いした腕ききリード・ギタリストたちが組んずほぐれつ、主に三人がかりで挑むギター・ソロ・バトルがたまりません。ごきげんにスリリング。どこをだれが弾いているのか、映像がないとよくわからない箇所もあるものの、だいたいは音色やフレイジングで区別できるので。熱いギター・ジャムのおかげもあってオリジナル・ヴァージョンの倍くらいの長尺になっている曲も複数あり。

個人的趣味としては、ジャム・バンド的なソロ展開はできたらもっと抑えてもらって、なるたけコンパクトに、もともとの曲とアレンジのよさを活かすようにしてくれていたなら、もっといいアルバムに仕上がったんじゃないかと思わないでもないですが、1990年代的な傾向を通過したロック・ミュージックとしてはこうなるんでしょうね。

ギター・ソロ(・バトル)ということでいえば、やはりなんといってもデレクのスライドのあまりのうまさには舌を巻きます。オリジナルのドゥエインを強く意識したのは間違いなく、しかもそれを超えていく正確無比な凄腕をみせつけているのには脱帽。各曲とも随所で聴けますが、特に圧巻は表題曲「レイラ」。ピアノ・インタールードがあってのペース・チェインジした後半部はまさに独壇場。世界をリードするスライド・スキルです。

現場での実際のコンサートは、この「レイラ」でおしまい。アルバムでそのあとに添えられているラストの「ソーン・トゥリー・イン・ザ・ガーデン」は、後日、スーザンとデレクのデュオでスタジオ収録して追加したものです。オリジナルからしてコーダ的な役目のクロージング・ナンバーでしたから、このアイデアは正解ですね。

もちろん、このテデスキ・トラックス・バンドの『レイラ・リヴィジティッド』、1970年オリジナルの『レイラ』にとって代わったり、対等なものとして、超えるものとして扱ったり、そんなことは不可能。『レイラ』は『レイラ』、テデスキ・トラックス・バンドのこれはオマージュであって、聴けば聴くほどオリジナルの偉大さを思い知るわけですけどね。

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それでも、クラシック・ロックの伝道師たる面目躍如、バンドの実力をフル発揮した21世紀ロックの傑作に仕上がったと言っていい今回の『レイラ・リヴィジティッド』、ダウンロードやストリーミングなら、このひと続きの一回のコンサートをそのままノン・ストップで楽しめますが、CDだと二枚組、LPだと三枚。

また、テデスキ・トラックス・バンドの公式YouTubeチャンネルで数曲の映像もオフィシャル公開されているということで、間違いなくこのコンサートは映像でもフル収録したでしょう。発売してほしい。DVDと、それからネット配信で。有料配信でもOKですよ、お金を払う価値のあるコンサート映像だと思いますから。

(written 2021.7.17)

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