見出し画像

ジャズ・ギターの新進注目株 in Japan 〜 浅利史花

(4 min read)

浅利史花 / Thanks for Emily

若手新進ジャズ・ギターリストの浅利史花(ふみか)については、2020年のデビュー作『Introducin’』から聴いていましたが、今年出た2nd『Thanks for Emily』(2023)でグンと一段成長したな、これならっていう印象なので、書いておくことにしました。

エミリーとは若くして逝去したエミリー・レムラーのこと。しかしエミリー・レムラーっていまやだれが憶えているだろうかっていうような存在になってしまいました。たしかに存命活動中からそんな目立って話題になるギターリストでもありませんでした。

ですけれど史花がこうしてトリビュート作を出してくれたおかげでぼくだって思い出すことができました。こないだレコ発ライヴでのツアーを終えたばかり。ドラマー中村海斗を聴いた大阪梅田のミスター・ケリーズでもやったみたいで、そのピアノもやはり海斗ライヴで好きになった壷阪健登。

健登はアルバムのほうでも弾いていて、これも個人的にはポイント高いです。アクースティックなピアノ(エレピも)・トリオを基本的な伴奏バンドとし、一曲サックス、一曲フルートも参加。ほぼ全編で史花のギターが大きくフィーチャーされているといっていい内容です。

若手新進ながら、アップデートされた新世代ジャズのスタイルで演奏するギターリストではなく、わりと従来路線なメインストリーマーなんですが史花は、でもこれだけ充実した音楽ならばじゅうぶん聴きごたえがありますよ。音の一個一個がちゃんと立っているというか粒立ちのいいサウンドで、そこも感心します。

アルバムで個人的に特にいいなと思ったのはファンキー・テイストを聴かせるやつ。なかでも3曲目「Lonely New Year」は超カッコいい。これはほぼジャズ・ファンク・チューンじゃないですか。タイトなファンク・リズムが決まっているし、史花の弾きかたもまるでウェス・モンゴメリーのファンク・ヴァージョンみたいで最高。

それでだれの曲?と思ってSpotifyでクレジットを見たら史花の自作となっているんですね。ところがこれはイマイチはっきりしません。なぜならアルバムに収録されている三曲の有名スタンダード「How Incensitive」「I Thought About You」「Polkadots and Moonbeams」も史花自作となっていますから。

はっきりエミリーの曲とぼくでも知っているものだって同じで、アルバムの全曲がこれ。このへんはちょっとダメだなあ。サブスクに登録する際、会社の担当者がテキトーいい加減にやっちまったということでしょうけど、おかげでこれ知らない曲だけどとてもいいねと思ったって自作とのクレジットが信用できず。

それはそうと、テナー・サックスが参加する6「Go to Bed」もカッコいいファンキー・チューンで、ぼくは好き。1960年前後ごろのハード・バップ・ムード横溢のブルージーさ。こういうのはスタイルが古いとかレトロとかいうんじゃなくて、すたれない王道、エヴァーグリーンってことですよ。

あまりにも美しかったウェス・モンゴメリーのがジャズ・ギター・ヴァージョンではよく知られているであろう8「Polkadots and Moonbeams」での史花は、やはりはっきりウェスを意識したような演奏ぶり。特に前半を無伴奏ソロでつづるあたりのリリカルさは特筆すべきみごとさで、聴き惚れます。

(written 2023.6.14)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?