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COVID-19時代の音楽 〜 HK

(3 min read)

HK / Petite Terre

秋にリリースされた、フランスで活動するアルジェリア系音楽家、HK(アッシュカー)の新作『Petite Terre』(2020)は、ほぼ全体的にレゲエ・ビートを基調としながらも、そこにアルジェリア系楽器やシャアビ的な作法も混ぜ込んで、哀感たっぷりに聴かせるポップ・アルバム、とでもいったらいいでしょうか。

そんなところ、1曲目のアルバム・タイトル曲から鮮明です。音楽的にはポップ・レゲエ・ナンバーですが、HKのばあいはいつものことながらこのアルバムでも歌詞が社会派ですから、フランス語ゆえ聴解できないとはいえ、それなりの内容はともなっているんだろうと思います。

サルタンバンク名義のアルバムでもソロでも、レゲエ・ビートに政治家批判など社会派リリックを乗せ、わりかしシリアスに聴かせることの多いHK。だからボブ・マーリーやそのフォロワーたちのアティテュードを継承しているのかもしれませんね。HKの音楽そのものはもっと明快でポップですけれども。

『Petite Terre』2曲目からはアルジェリア色が出てきます。これ、たぶんウード、あ、いやマンドーラか、使ってありますよね。それでもってシャアビなめくるめくフレーズを演奏していて、いいなあこれ。でもフランス語で歌っているし、シャンソンでもなくシャアビでもないんですよ。HKにしかできないコンテンポラリー・ポップスっていうか、独自の世界ですね。

そして、これはアルバム全体がそうですけど、わびしい感じ、さびしい感じがとても強く出ています。曲調も快活にグルーヴするものがあまりなくて、ミディアム〜スローで寂寥感を表現しているものが多く、72分間を通して聴くとちょっと沈鬱なっていうか重苦しい空気を感じないでもありません。

それで、たぶんこれが2020年という時代の空気感じゃないかなとぼくは思うんですね。COVID-19の全世界的パンデミックによって、フランスなんかも特に閉塞的な状況が続いているじゃないですか。そう、世界の閉塞感、それをサウンドにしたのが今回のHKの新作『Petite Terre』じゃないかという気がするんですね。

そんな重苦しい閉塞感を音楽で表現するのに、レゲエの沈むこむようなビート感はまさにピッタリじゃないかと思います。+シャアビふうな哀感とわびしさ、フランス的な諦観+退廃があわさって、このアルバムのHKの音楽をつくりあげているのかなと、そう思います。

COVID-19時代の音楽だ、それ以外のなにものでもないな、というのが率直な印象ですね。つくづく、大衆音楽は時代の鏡です。

(written 2020.12.6)

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