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喪失とノスタルジア 〜 エミルー・ハリス&ロドニー・クローウェル

(3 min read)

Emmylou Harris, Rodney Crowell / Old Yellow Moon

ひょんなことで(「ひょん」ってなに?)知ったエミルー・ハリスとロドニー・クローウェルのアルバム『オールド・イエロー・ムーン』(2013)。ナッシュヴィルで録音された、やっぱりこれもカントリー作品でしょう。グッと心に沁みる歌も複数あったので、書き記しておきます。

ロドニーは1970、80年代とエミルーのバック・バンドの一員でアルバムに名前もクレジットされていたので、つきあいは長いです。またデビュー・アルバムではエミルーがバック・ヴォーカルで参加していたりもしました。

アルバムで全面タッグを組んだ共作は2013年の『オールド・イエロー・ムーン』が初だったということなんでしょう。2010年代以後隆盛なアメリカーナ的というか、カントリーかポップスかジャズかロックかわからないそれらが渾然と溶け合った音楽というよりも、これは明確にシンプルで伝統的なカントリー・ミュージック。

そうした音楽って、実は日本でなかなか理解されきれてこなかった部分もあって、特に(名前を出すのはちょっとどうか迷うけど)中村とうようさんやその読者のみなさんが、ぼくもだけど、ブラック・ミュージックを称揚し、カントリーなんか目もくれなかったあたりの動向に如実に現れていたわけです。

しかしUSアメリカン・ミュージック最太の幹の一本であることは間違いなく、なんとか遅ればせながら心から共感・感動できるものがあるようにぼくはなってきましたので、最近ちょこちょこ聴くようになっています。共和党の大会でやっているような音楽、っていうのは偏見ですよ。

エミルー&ロドニーの『オールド・イエロー・ムーン』で特にいいなと感じるいまのぼくのフィーリングは、間違いなくおだやかなテンポでゆったりしっとりと歌われるバラード系の曲。3、4、7、9、12あたり。若かったころへのノスタルジアを込めてしんみりつづられるものなんかには激しく共感できるものがあります。

つまりもう失われてしまったものを想い、二度とこの手にとることなんてできないけれど、そんな深い喪失感が音楽美へと昇華されているサウンドを耳にするのはほんとうに救われる気分になりますよ。エミルーやロドニー同様、聴き手のぼくも歳とったんです。

(written 2023.3.13)

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