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仄暗くひそやかに 〜 レイヴェイ

(3 min read)

Laufey / Everything I Know About Love

お気に入りシンガー・ソングライター、レイヴェイ(アイスランド出身在USA)。以前のアナウンスどおり最初のフル・アルバム『エヴリシング・アイ・ノウ・アバウト・ラヴ』(2022)が出ています。先行EPの段階で言いたいことは書いたのでもうなにもないかと思いましたが、聴いていたらやっぱちょっと手短にメモしておきたくなりました。

7曲目でフランク・レッサーの「アイヴ・ネヴァー・ビーン・イン・ラヴ・ビフォー」をカヴァーしていますが、それ以外はすべて自作か共作。グレイト・アメリカン・ソングブック系のクラシカルでドリーミーなポップ・ソングを書くレイヴェイの能力は天才的で、そういったところにもぼくはすっかり惚れちゃっています。

あちこち見ていると本人には欲みたいなものがないように思え、ただひたすら自分の好きな世界を自分好みにつづっているだけだっていう、そんな個人的でプライベイトな日常感覚をたたえているのも特色。(まるで十人並みみたいに一瞬思えてしまう)身近でインティミットなフィーリングでつらぬかれていますよね。

ちょっと前まで(いまでも?)ティン・パン・アリーなスタンダード、っぽい曲は大編成オーケストラを伴奏につけることも多かったと思うんですが、そうした野外とか大ホールを思わせるムードから、こじんまりしたサロン・ミュージックへと趣向をチェンジしているのもレイヴェイ的っていうか、これは現代の若手の多くに共通しているトレンドですけど。

低音域を中心に落ち着いて仄暗くややハスキーに歌うレイヴェイのヴォーカル・スタイルだって、ちょっぴりチェット・ベイカーを思わせる退廃感もあって、あ、8曲目のタイトルが「ジャスト・ライク・チェット」ですが、そういえばInstagramではチェット・ベイカー(その他)の作品にときおり言及しているのでした。

あきらかにあのへんがレイヴェイの音楽的インスピレイション源に違いありません。本作では広がりと密室性を同時に香らせている音響もすばらしく、この歌手を聴いているとまるでぼくのためだけに歌ってくれているんじゃないかというひそやかな夢見心地に落ちて、気持ちいいんですよね。

(written 2022.8.31)

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