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熟練のマロヤ・ビートに乗るアマチュアっぽい声が魅力 〜 クリスチーン・サレム

(3 min read)

Christine Salem / Mersi

レユニオンのマロヤ歌手、クリスチーン・サレム。その最新作『メルシ』(2021)に触れる機会がありました。たぶんエル・スールのHPで見かけてちょっと気になったんでしょうね。ここ三年ほどそういう出会いがあると即Spotifyで検索する癖がすっかり身に付いていて、あればそのまま聴く、印象に残れば書く、というルーティンが定着しています。

クリスチーンは、もとはギター弾き語りで英語のブルーズなんかを街角で歌っていたらしいんですけれども、島のマロヤに出会って転向したみたいですよ。でも『メルシ』を聴いてもブルーズ歌手という痕跡はみじんもなく。根っからのマロヤ歌手に思えます。一曲、英語で歌うもの(9「Why War」)が収録されていますが、それだってどこもブルーズじゃないです。

だからもとからの全面的マロヤ歌手として扱っていいのでは。このアルバムでのクリスチーンは、ヴォーカルとギターだけでなく、カヤンブとハーモニカも演奏しているそう。そこかしこに聴こえるこのカヤンブのサウンドはクリスチーン自身ですか。ハーモニカは3曲目で大きくフィーチャーされています。

アルバム1曲目、いきなりア・カペラで歌い出したかと思うと(ハリのある堂々とした声)、突然ロックなエレキ・ギターが轟音で鳴り、そのままマロヤのリズムに突入してグルーヴしていくという、そんなつくりになっているわけですが、マロヤの、あの独特のハチロク・ビート(6/8拍子)は、ほとんどの曲を統べる一貫性となっています。

サウンド・メイクはだれかプロデューサーがいるんじゃないかと思いますが、マロヤの伝統リズムはそのままに、それを現代的な意匠でくるんだグルーヴが心地よく、かなりの腕前の音楽家だなと想像できますね。ホントだれなんだろう、この音をつくったのは?Spotifyで出るクレジットになにも書いてないんですよね。

多くの曲でジャジーなヴァイオリンがそこそこ目立っているというのもサウンド上の特色。パーカッション・アンサンブルの色彩感もさすがですね。主役クリスチーンの声は、上でも触れましたが堂々としたハリのある立派なもので、やや重たいかなと思わないでもないです。でも独特の憂いというか陰影があって、なかなか味ですね。

あまり手練れのプロっぽい感触がないというか、ややアマチュア的な素人くさいフィーリングもこの歌手の持ち味で、そこがかえって魅力につながっていて、悪くないですね。そういう発声なだけかもしれませんが、ちょっとした特徴でしょう。サウンド・メイクには熟練のつくり込んだ味わいがありますから、そのニ層が重なって、二つとない独自のマロヤ音楽に仕上がっていると思います。

(written 2021.6.23)

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