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岩佐美咲の脱フィジカル

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去る8月13日に中野で開催された岩佐美咲10周年コンサートは、DVDやBlu-rayなどの円盤化はされないとのことで。配信リリースだけっていう。この発表が公式ブログであったとき、ちょっと意外な感じがしました。いままでぜんぶ円盤化されてきていましたからね。

これはちょっとした予告、予兆じゃないかとぼくは解釈しているんです。

今後は美咲のコンサートは円盤物体を発売しない方向に進むんじゃないか、今回のこれはその第一弾ということじゃないかということです。そして、将来的にはひょっとしたら楽曲のCD販売もやめて、全面的に配信リリースだけにしていくということかもしれませんよね。

美咲がCDもDVDも発売しない、配信(ダウンロード、ストリーミング)だけでやるっていう日が来るかもしれないなんて、現時点ではだれも予想していないし、いままでの歩みからしたらありえないことのように思えるかもしれませんよねえ。ファンの一部からは悲鳴があがるかも。

でも、これからはそういう時代ですよ。いまや全世界的にみて音楽業界の総売り上げの八割がサブスクリプション型サービス(Spotify、Apple Musicなどストリーミング)の収入によるものなんですからね。この傾向は今後どんどん進みこそすれ、ふたたびフィジカル販売がもりかえしてくるというようなことはありえません。

演歌・歌謡曲の世界は、この点でもやや時代遅れになりつつあって、サブスク対応が著しく遅れている歌手や事務所、レコード会社もあります(氷川きよし、水森かおりなど)。それに演歌界はファン層が高齢化していて、インターネットが苦手であると堂々と宣言しては物体購入に走るというかたがたもいます。

さらに、CDやDVDなどのフィジカルは、握手会や特典会などのチケット代わりとして使われてきたという面もあります。現場でCDを一枚買えば、それで握手一回分ということになるっていう、この手の接触ビジネスは、しかしもはや終わりつつあるのではないでしょうか。特にコロナ禍でイベントじたい実施できないということになって、このビジネス・モデルの終焉はいっそうあぶりだされています。

コロナ時代にあぶりだされている終焉しつつあるビジネス・モデルとは、握手券商法だけじゃなく、そもそもCDやDVDなどのフィジカル販売に寄りかかる姿勢というのもふくまれているように、ぼくには見えているんですよね。

もちろん、コロナ禍が収束すれば(といっても何年後?)美咲のリアル歌唱イベント、キャンペーンのたぐいも再開できるでしょうし、そうなれば現場でいくらかのお金を払って握手権、2ショット写真撮影権を買うという手法が復活するでしょう。しかしそのとき、それはもはやCD販売ではなくなっている可能性があると思います。

もうそういう時代なんです。CDを買って聴くという時代は終わっています。サブスクで聴く、これがもうみんなの音楽聴取手段になっています。そんなこと、もうみんなもわかっているんでしょ?

もちろん美咲サイドがCD販売をやめて、全面的にサブスク・モデルに移行するためには、いままでCDで発売してきた全楽曲をサブスクに乗せないといけません。現状、シングル表題曲の九つしかありませんから、これではお話になりません。シングルのカップリング曲もアルバム曲も入れないと。

美咲がサブスク・モデルに移行することにはメリットも多いです。たとえばムリして新曲のカップリング曲を選ばなくてよくなります。以前も書きましたが、シングル曲にカップリング曲を入れるっていうのはA面B面があった45回転ドーナツ盤時代の名残にすぎませんから。サブスクだと、みんながすでにそうしているように、新曲一個だけリリースすればOK。

各種イベントやコンサートなど現場に曲を持ちはこぶことも容易になります。いままでファンは、CDをまずパソコンにインポートして、それ経由でスマホや携帯音楽プレイヤーに入れていたと思うんです。そんなメンドくさい手間が消えます。サブスクに楽曲があれば、いつでもどこででもどんなディヴァイスでもアクセスできますから。

それはそうと、昨2020年7月1日にサブスク解禁になった美咲のシングル表題曲は、どれくらい再生されているのでしょう?ちょっとSpotifyだけ覗いてみたら、やはり最新楽曲の「右手と左手のブルース」が1万8千回でトップ。これは理解しやすいことです。

「無人駅」「もしも私が空に住んでいたら」「ごめんね東京」が約9千回、「鞆の浦慕情」8千回、それ以外は3〜5千回といった程度の再生回数です。だいたい予想どおりというか、「ごめんね東京」の健闘にはやや驚きましたが、それ以外はCDでも評価の高い楽曲が数多く聴かれているようです。

10月6日発売予定の美咲の新曲「アキラ」も当然サブスクに乗るはずですから、どこまで再生回数が伸びるか、楽しみにしたいと思っています。

いずれにせよ、AKB48という握手券付きCD販売で一斉を風靡した世界出身で、しかも別の意味でCDに寄りかかっている演歌界にデビューした岩佐美咲のような歌手ですらも、今後はフィジカル頼みをやめて、配信リリースを中心にやっていかないと、早めにそのビジネス・スタイル移行をやらないと、時代に取り残されてしまうことは明白です。

ファンも、そんな時代についていかないと。

(written 2021.9.11)

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