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函館ハーバー・センティメント 〜 美咲の「アキラ」を聴く

(4 min read)

岩佐美咲 / アキラ

去る10月6日にCD発売された岩佐美咲の新曲「アキラ」。ようやくSpotifyなどサブスクでも聴けるようになったのがつい四日前の同月20日。二週間もかかったのはやや問題ですが、まずはよかった。これでいつでもどこででも美咲の「アキラ」を聴けるようになりました。

それでくりかえしなんども聴いたので、ちょこっと短い簡単な感想をメモだけしておきましょうね。通常毎年春ごろには新曲を出してきた美咲、今年はなかなか出なかったので、今回はナシなのかとあきらめかけていた夏にアナウンスがありました。

「アキラ」の舞台は函館。半年暮らしたそこで恋をして、別れ、いまは同地を去って東京でひとり暮らしているものの、函館でのアキラとの恋が忘れられず未練をひきずり、ときどき同地を訪れているという女性が主人公です。

美咲の歌う曲って、こうした失恋・悲恋・苦恋ばかりなのにはなにか理由があるのかな?ということはずっと前にも書いたことがあります。こうした悲哀の心境をつづった歌詞が演歌系の楽曲ではよく映えるということなんでしょうね。美咲もすっかり歌い慣れているといったフィーリングを、「アキラ」を聴いていると感じとることができます。

曲はちょっと古い感じのステレオタイプな歌謡曲で、ここのところ「恋の終わり三軒茶屋」(2019)、「右手と左手のブルース」(20200)と、やや演歌から離れた歌謡曲系のメロディと楽想が続いています。美咲にはこうしたライト・ポップスのほうがド演歌より似合っているよなあとぼくは感じています。

「アキラ」はかなりシンプルな構造の楽曲ですが、聴いていていちばん痛感するのは美咲の声の落ち着きですね。アイドル界から卒業してもう五年、一部ではまだまだアイドル路線の延長線上じゃないかと見る向きもあるようですが、「アキラ」でのこの声を聴いていると、すでに大人の歌手に脱皮したなあと思いますよね。

聴き苦しいキンキンした若手女性アイドル的な発声は「アキラ」のどこにもないし、むしろしっとりとした陰影を感じさせる中低音域を中心にじっくり歌いこなしているという印象です。もちろん「アキラ」という楽曲がそういうメロディのつくりになっているから、というのはあるでしょうけど、落ち着いて淡々と歌える美咲の歌手としての成長を感じとることができますよ。

考えてみれば、「アキラ」のレコーディングは夏前の六月か七月ごろだったはずで、そのあたり、美咲もコロナ禍でなかなか苦しい思いをしていました。ひとまえで歌う機会などほぼゼロに等しくなってしまっていたせいで、喉や腹筋がやや衰えて、たまのネット配信歌唱イベントでも「あれっ?」と思う瞬間が多かったです。

そんな時期にレコーディングされた「アキラ」なのに、そんな様子がみじんもみえないのはさすがはプロの歌手だけあるという成長を示したものと言えましょう。もちろんスタジオ録音であるがゆえ、録音後の微調整をコンピューターでやっているでしょうけど、ここまでしっかりしたトーンで歌えているのは本人の実力です。

10月6日の発売前後から、「アキラ」はネット・イベントを中心にどんどん歌われています。メロディ構造のシンプルさがかえって歌詞の世界をよく表現している名曲とも言えるので、今後も歌い込んでいけば、歌唱表現にさらに落ち着きや深みを増し、ファンを惹きつけていき、新規ファンを増やすこともできるのではないでしょうか。

(written 2021.10.24)

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