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失われた「さくらの唄」〜 門松みゆき

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門松みゆき / さくらの唄

第七世代の一人に数えられる若手演歌歌手、門松みゆきの新曲「彼岸花咲いて」(2022)が五月末に出ましたが、そのカップリングで同時リリースされた「さくらの唄」が暗くて悲しくってすばらしく、惚れちゃいました。もちろんぼくはサブスクで聴いているんです。

個人的にはみゆきのこのヴァージョンではじめて出会った曲だったんですが、ひょっとして?と感じるものがあって調べてみたら、初演は美空ひばり(1976)です。その前に曲を書いた三木たかしみずから歌ってレコード発売しているらしいので、正確にはひばりのもカヴァー。

作詞がなかにし礼で、曲ができた経緯についてはウィキペディアでぼくも読んだだけですから、どうしてここまで絶望に満ちた陰鬱な歌なのか?気になるかたはぜひ検索して読んでみてください。

三木たかしヴァージョンはサブスクはおろかYouTubeでも見つからず。ですからひばりの二つのヴァージョン(76、2016)と今回のみゆきのと、それからSpotifyで曲検索をかけたら加藤登紀子と香西かおりが出てきましたから、計五つ、プレイリストにしておきました。

そもそも「さくらの唄」というのがあるということを、2022年、演歌歌謡関係者以外いったいどれだけが憶えていたでしょう。ひばりの76年オリジナルだってまったく売れず、そもそもカヴァーをレコーディングし発売するというのはこの歌手にとって前例がなく難色を示したそうです。

死後の2016年になって、ひばりがギター伴奏のみで歌唱する別バージョンの存在が初発見され、オリジナルもふくめEPとして再発売されたんですが、やはり話題にならなかったはず。つまり「さくらの唄」というのはだれにも存在を認められていない失われた曲というにひとしいわけです。

それを門松みゆきサイドは今回どうしてとりあげようと考えたのでしょう。もちろんそんなことは想像もつかないことですが、ひばりのギター・ヴァージョンに基本則しながら、+ピアノ+ベース+パーカッション+チェロでサウンド・メイクされているように聴こえます。

2ヴァージョンともおだやかでふくらみのある笑みすら声にたたえて歌っていたひばりに比べ、みゆきの「さくらの唄」にはある種の気高さすら感じるきびしさとシビアさに満ちていて、いずれがいいか好みはそれぞれでしょうが、個人的にはスティール弦アクースティック・ギターの響きもふくめみゆきのが好きです。

これで、どうでしょう、ひばりみたいな存在が歌ったにもかかわらず一般のファンはもはやだれも憶えていない、存在しなかったも同然の曲だった「さくらの唄」が甦り、(はじめて)命を吹き込まれ世間に認知されるということになるでしょうか。その可能性は低いと言わざるをえませんが、ぼくには忘れられない一曲になりました。

(written 2022.6.8)

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