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ビートルズのどのヴァージョンよりニック・ケイヴの「レット・イット・ビー」が好き

(3 min read)

Nick Cave / Let It Be

映画サントラの『i am sam』(2002)が好きだったんですけど、サブスク中心の音楽生活になって以後はサービスに入らないもんだから、CDからインポートしたiTunesファイルでずっと聴いていました。

でもこないだApple Musicにあるぞということを発見したんですよね。いやあ、うれしかったなあ。ぼくの使うメイン・プラットフォームのSpotifyにはあいかわらずないけれど、それでもちょっと一安心。

いまのぼくの気分でこのアルバムを聴くと、ラストに収録されているニック・ケイヴの「レット・イット・ビー」がすべてだという気がします(極私的意見)。これが好きなんだというのは以前からなんどか書いていることですが、あらためて再認識します。ほんと沁みる。

きれいに力が抜けたおだやかで落ち着いた平坦な安閑感がいいってことですが、これがリリースされた2002年にはまだそんな静かな音楽はトレンドになっていなかったはず。ちょうどノラ・ジョーンズがデビューした年で、その後流れがどんどん大きくなっていくようになりましたが、意識されるようになったのはほんのここ数年のことじゃないですか。

ニック・ケイヴの「レット・イット・ビー」はそんな流行を先取りしていたかのように思えます。おだやかな音楽がこんなにも好きになったと自覚するようになるずっと前からニックのこの「レット・イット・ビー」は大好きだったから、流行というよりなにか普遍的な説得力があるんでしょう。

ピアノとアクースティック・ギターとスネア・ドラムを軸に据えた淡々としたサウンドも最高で、そしてぼくにとってのいちばんの癒しはニックのこの声と歌いかたですね。ポール・マッカートニーの書いた歌詞の世界をよく吟味咀嚼して、それをエモーショナルにではなく、ただひたすら淡々とクールに、ぼそっとつぶやき落とすように、ささやくように、戸惑いまごつくように、無感情にしゃべっているのが、この曲にとっては強い説得力を放っています。

人生の終末期に来てささやかで安らかなあきらめとともに日々暮らすようになった人間にとって、このニック・ケイヴの「レット・イット・ビー」はあらゆる意味で完璧な伴侶であり理解者、ヒーラーですよ。それをますます強く実感するようになりました。

(written 2022.7.14)

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