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12月18日。加藤仁「一点突破で道は開けるんです」

加藤仁(1947年5月3日〜2009年12月18日 )は、ノンフィクション作家。

雑誌編集者を経て、作家として独立。3000人以上の定年退職者に取材するなど生活者の視点に立ったルポルタージュや日本人論を執筆した。著書に『宿澤広朗 運を支配した男』などがあり、私も若いころから本や雑誌記事などをよく読んだ。だが、圧巻はながく続けた定年退職者への取材をもとにした大量のルポだ。
『定年後―豊かに生きるための知恵』 『 人生、後半からが面白い 』。 『待ってました定年  定年後の8万時間に挑む』。『 生き場所死に場所―定年が見えてきた、さあどこに住むか 』。 『「自分史」を書いてみませんか』。『 定年前後の「自立」事始め 』。『 定年前後の「自立」事始め 』。『 人生を楽しむ―50歳からがゴールを決める 』。『 定年後の居場所を創る―背広を脱いだ61人の実践ファイル 』。『 たった一人の再挑戦―早期退職者55人行動ファイル 』。 『定年百景』。『 定年からの旅行術 』、、、。

『定年百景』には、「万葉集の歌碑巡り、青空の下で土を踏む楽しさ」というタイトルで園部達郎という元銀行マンが紹介されている。90代に突入した私の母が万葉歌碑巡りをライフワークとしているので興味を持った。70歳から本腰を入れた歌碑巡りは、江戸期から建碑された始めた歌碑943(平成3年まで)のほとんどを、10年後の80歳までにすべてをまわっている。万葉集4516基の歌のうち、もっとも多いのは山上の憶良の「しろがねもくがねもたまもなにせむにまされる宝子に如かめやも」である。「あとがき」で加藤は、定年で喪失しかけた「役割」を独自に獲得していった退職者の姿を描いたと語っている。紹介された67人に共通するのは「もうトシだから」と言わないことである。ふとした折に出会ったものにのめり込むことで新たな自己を形成していく人たちだ。

加藤仁は若くして「定年」というテーマにはまり、「定年後の教科書」を数多く書いて、多くの人を励ました。「定年後を充実して生きるヒントは?」とは、という問いに加藤は、「一点突破」ですね。つまり、自分がこだわりたいテーマに徹底的にこだわる事で、そこからすべてが開けてくると思います、と答えている。「定年後」というテーマは、「人生100年時代」という今日的な課題に直結している。加藤の本は今後も読まれ続けるだろう。

ここまで定年というテーマにのめり込んだのは、使命感もあっただろうが、自身の人生をどう過ごすかという面でヒントを得たいと思ったからであろう。その加藤は「取材をして書くという仕事を、できれば一生続けていきたい」と語っていた。自身は弱冠62歳でこの世を去って、豊かな老後には届かなかった。しかし「一点突破で」生涯を全うしたとはいえる。これも運命だろう。

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