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ミスマッチングを防ぐ「3ゲキ理論」 ~SVR理論を置き換える~

1、SVR理論

就活スーツに身を固めた僕は、久々に旧友に会っていた。彼女は高校の同級生。大学は別のところだったので、長い間連絡を取っていなかったのだが、彼女も就活に苦戦しているという。元カノとか、気になっていた人だというわけではなく、ただクラスが同じだということで、それほど親しい間柄ではなかった。しかし、お互いに苦戦の最中に会うことは、砂漠の中でオアシスを見つけるに等しく、東京砂漠の中のスタバでこうしてアイスコーヒーを片手に、ひとしきり愚痴を言い合っているところだ。

「…結局、就活は運次第だよな…! 会って話してみないとわからないところが多過ぎる。会社の人は、説明会ではいいことしか言わないよ」

先日、好印象を受けたA社の説明会。楽しみにしていた僕を待っていたのは、予想外の圧迫まがいの面接だった。憤懣やるかたない僕は、面接官を空想上で血祭りに上げていた。彼女は僕の話を聞き、それなりに彼女のエピソードも話してくれる。タイミングのよい相槌、志望業界は違うが戦友であるという気楽さ、大学の人間関係のしがらみのない気軽さが、僕の口を滑らかにしていた。

「…ねえ、SVR理論って知ってる?」

お互いの経験談がひと段落したタイミングで、彼女は、聞きなれない単語を口にした。

「…VR(バーチャルリアリティ)の一種? あれ凄いよね、Sがついているというのは、スーパーバーチャルリアリティとか?」

面接を重ねた影響で、知ったかぶりとハッタリが反射的に使えるようになった僕は、とりあえず連想した単語を並べる。彼女は首を振った。

「違うよ。社会心理学者のマースタインって人の理論。出会いから結婚までの段階を3つに分けて、それぞれの段階で、お互いがパートナーにふさわしいのかどうか見極めるって理論だよ」

彼女は、心理学系の学部に通っていた。僕はガチガチの理系だ。

「ふーん、就活に役に立つ…のかな?」

就活は良く、結婚に例えられるでしょ。いいな、と思った会社が、よくよく話を聞いてみるとダメってことはよくあるじゃない。それは、就活生サイドだけでなく、企業サイドにとっても同じ。いいな、と思った学生に会ってみたら、価値観も何も全然合わなかった、っていうことはよくあるそうよ」

ミスマッチングってやつかな。確かに、お互いが合わないのに、もし就職してしまったら、お互いに不幸だよね…。結婚なら離婚の危機だね」

僕はA社の面接を思い出していた。最新技術を研究できる場を想定した僕は、ナニワ商人ばりの利益至上主義的な雰囲気に幻滅したのだった。何より、仮にも理系で研究部志望の僕を、最初から営業部に所属させる前提で話してきたのが、熱意に冷水を浴びせられたようでがっかりだったのだ。こんな会社に勤めても、すぐに辞表、離婚届を出すだろう。

「で、SVRって何?」

S=刺激、V=価値、R=役割。直訳するとね。SはStimulus、VはValue、RはRole。要するに、第一段階は刺激、あっ、ちょっといいなと思う感じかな。それを第二段階では価値、それぞれの価値観をすり合わせて共有できるか確認するの。で、第三段階で役割、お互いがお互いを補い合える関係になって初めて、結婚という共同生活に至るという感じかな。就活も同じだよね。説明会でいいなと思って、面接で価値観を確認して、役割をお互いこなせるかなと思ったら就職という共同生活、というか労働に従事する。…内定、まだ出てないんだけどね…」

(↓筆者注:SVR理論の参考記事はこちらから)

ここでお互い、「内定をまだ1つも取れていない」という自分たちの状況を思い出してしまい、僕たちは暗くなった。お互いに明日の就活もあるので、スタバを出て別れた。ワリカンでドライにお勘定を済ませてくれたことに、僕はホッとした。と同時に、もう会えないかな?とも思った。

2、食べ物で置き換え

…帰りの電車の中で、僕は彼女が言った「SVR理論」とやらを思い出していた。S…はなんだっけ? スーパー、じゃないよね。スティィミュゥラァス? 読めない。意味が解らない。スマホで調べる。ああ、刺激…だったな、なるほど。カタカナ英語になっていないから、すぐに思い出せない。Vはバリューで価値、Rはロールで役割。これはわかりやすい。バリューセットとロールプレイングゲームだ。このSが何とかなれば、わかりやすいのにな。

僕は帰宅すると、早速SVR理論を「置き換え」すべく、机に向かった。どこかの授業である教授が、「ぱっと出てこない単語は置き換えろ。脳内で変換しやすいように自分になじみのある単語にしろ!」と力説していたことを思い出したのだ。

食べ物で置き換えてみる。

◆S=刺激=スパイシー香辛料=カレー?

◆V=価値=僕が好きなもの=ラーメン?

◆R=役割=朝食に欠かせない=味噌汁?

この置き換えはいい感じだ。カレーの匂いをかぐと、特に空腹時はカレー一択になる。恋に浮かされる若者のようだ。しかし徐々に恋は冷め、愛に変わる。『あすなろ白書』のあとがきにあった通りだ。自分が好きな価値を確かめ合う。ラーメンなら何がいい、味噌だ醤油だとんこつだ。相性ってもんがあるからな。そして実際に生活となると、毎日カレーやラーメンだと、お腹にもたれる。やはり偉大なご飯の脇役、味噌汁だろう。結婚生活にもフィットするし。「僕の味噌汁つくってください!」とか言うしな。

題して「カレーラーメン味噌汁理論」! ちょっと名前が長いか? ま、意味さえわかればいいか!

僕は、SVR理論を脳内変換できたので、奇妙な満足感に浸って、寝た。

3、ゲキで置き換え

…帰りの電車の中で、私は彼に言った「SVR理論」を思い出していた。…ちょっとドヤ顔で言い過ぎたかな? 私も心理学の授業で聞いたばっかりの話をつい言ってしまったんだけど。Sのところで、スティィミュゥラァス? 読めない。意味が解らない。って顔をしていたよね。私もバリューとロールはすぐわかったけど、「刺激」って、すぐには訳せなかったもんな…。

私は帰宅すると、早速SVR理論を「置き換え」すべく、机に向かった。心理学の教授が、「ぱっと出てこない単語は置き換えなさい。脳内で変換しやすいように自分になじみのある単語にすると、しっくりくるわよ!」と力説していたことを思い出したのだ。

自分のなじみのある言葉。私は演劇サークルに所属していた。劇…。役割だよね。じゃあ、最後のRは「演劇」でいいかな? 人生は舞台だっていうしね。最初のSはスティィミュゥラァス?だと意味がわからないから、そのまま「刺激」。Vは…。「価値」。ゲキ・ゲキと来たから、ゲキで統一したい。なんかバリューでゲキと読めそうな言葉ってないかな?

私はスマホを操る。ゲキの読み方で漢字を検索する。すると、「檄」という感じが出てきた。檄…。檄文? 実は私は「隠れ三国志オタク」で、横山光輝『三国志』も、王欣太・李學仁の『蒼天航路』も読破していた。最初のあたりの黄巾の乱では、「みんな、立ち上がれ!」とスローガン、つまり「檄文」を出すんだよね。よし、Vは、価値を共有してともに立ち上がる、という意味で「檄文」にしよう。

◆S=刺激(ふつうではない感情の揺れ):一目ぼれ? 説明会?

◆V=檄文(価値観を共有してともに行動する):デート? 面接?

◆R=演劇(役割を演じて共有生活を始める):結婚生活? 就職?

「刺激檄文演劇理論」では長すぎるから、この置き換えを「3ゲキ理論」と名付けるか。この段階を踏まないと、ミスマッチングという「惨劇」が起こるからね…。

うまくオチがついた。

私は、SVR理論を脳内変換できたので、奇妙な満足感に浸って、寝た。

4、まとめにかえて後日談

僕はLINEを見た。彼女からだ。

「SVR理論を『3ゲキ理論』に置き換えたよ!」

3ゲキ理論…? 僕は返信する。

「こちらは『カレーラーメン味噌汁理論』に置き換えたよ」

少し間をおいて、もう1回送る。

「…この前のスタバで、コーヒーでも飲まない?」

…さて、いかがだったでしょうか? 就活中の男女の物語風にして、SVR理論の置き換えをテーマに記事を書いてみました。この2人、もしかして恋が始まるかは、今後の展開次第ですね…。男の方は少し鈍感っぽいですが、2人の価値観は合ってそう。

VとRはすぐ思い出せるんです。Sがスーパー?とかサイダー?とか勝手に訳されてなかなか思い出せない。スティィミュゥラァス?って、カタカナ英語になってなくて、普段使わないですから。というわけで、「食べ物」と「ゲキ」で置き換えて、脳内変換しやすくしてみました。

ちなみに、今回の記事でSVR理論を取り上げたのは、福本真士さん(@sfkmt)のこれらのツイートを見かけたからです↓。

SVR理論は、結婚に至るまでの心理上の理論なのですが、就活にも応用できるのではないでしょうか。

なお、『蒼天航路』では、曹操が「蒼天已死」の4文字を流布したことになっています↓。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

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