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1、『凡人のための地域再生入門』

木下斉(きのしたひとし)さんの『地元がヤバい…と思ったら読む 凡人のための地域再生入門』という本をご存知でしょうか? 

地域再生にかかわる方なら、目にしたこともあるかもしれません。これはもう読んで頂きたい。自分なりに感じて頂きたい。タイトルの通り「凡人」が「地域再生」に奮闘するお話です。小説仕立てではありますが、作者のコラムも充実しており、まさに「地域再生」の「はじめの一歩」の新しい教科書にしても良いのではないか、と思わせる名作です。

私も、以前のnote記事で紹介しました↓。

2019年5月30日のほうの記事でも引用しましたが、この本の中には、木下さんが「地域おこし協力隊」に言及している部分があるんですね。もう一度引用してみます↓。

地域おこし協力隊は、期間限定で非常勤公務員形式の若者を中心に、地方に入れる仕組み。国の交付税で100%賄われ、ひとまずタダで人を雇えるため、各地の自治体がこぞって受け入れている。しかし、他人の金で、しかも自分たちができないことを任せるので、目的が不明瞭であったり、来る人と呼ぶ地域との意図が異なっていたりするなど、問題は多い。何より、毎年何万、何十万人が都市部に流入している構造があるのに、国家予算をつけて全国で数千人程度を一時的に地方へ送り込んでも、今の地方の問題は解決しない。その場しのぎではなく、抜本的な問題解決策と向き合わなくてはならない。(P191より引用)

どうですか。ズバリではないでしょうか。

今回の記事は、この木下さんの意見を元に、もう少し具体的に、「地域おこし協力隊」の抱える諸問題とその改善点案を探っていきます。

その前に、木下さんのプロフィールをご紹介します。「ダイヤモンドオンライン」の記事のプロフィールからの引用です(氏名の読みがなとプロフィール内の太字は、筆者が付け加えています)↓。

木下 斉(きのした ひとし)
地域再生事業家。
1982年、東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業。一橋大学大学院商学研究科修士課程修了、修士(経営学)。 国内外の事業による地域活性化を目指す企業・団体を束ねた一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンス代表理事、一般社団法人公民連携事業機構理事を務めるほか、各地で自身も出資、共同経営する熊本城東マネジメント株式会社代表取締役、サッポロ・ピン・ポイント株式会社代表取締役、勝川エリア・アセット・マネジメント取締役なども務める。高校在学中に早稲田商店会の活動に参画したのを発端に全国商店街共同出資会社・商店街ネットワーク取締役社長に就任。その後現在に至るまで事業開発だけでなく地方政策に関する提言も活発に続けている。

◆「地域再生実業家」
◆「事業による地域活性化」
◆「高校在学中に商店会活動に参画」
◆「事業開発だけでなく地方政策にも提言」

このあたりから、「ただ好き勝手に空理空論を弄ぶ人ではなく、自分自身の経験を踏まえて、具体的な事業による現実的な地域再生を提言する人」だというイメージを持っていただければと思います。現場に根差した提言ほど、役に立つものはありません(現場を知らない偉い人の提言ほど、役に立たないものはありません)。

ガンダムで言うと、「偉い人にはそれがわからんのですよ」ですね。特に地域再生などの問題では、わかってない偉い人が色々言うことがあります。木下さんは、偉い人ですが「わかっている人」です↓。

2、協力隊の抱える諸問題

まず、どんな問題があるのか。木下さんのこの記事より↓。

要約すると、まず、次のような「問題」があるそうです。

◆地元の問題や可能性を見極め、挑戦してほしい領域を定めてから募集するべきなのに、そうせずに、ただ闇雲に募集している市町村も多い。
◆そのため、スキルを持って移住してきているのに、スキルがまったく生かされず仕事をしている隊員企画を提案しても否定される隊員も多い。
◆新たな事業を興そうとする若者たちを束ね、サポートするスキルが自治体側には求められるのに、考慮されずに担当者が選定されることもある。
◆そのため、協力隊員も公務員的な枠組みにはめられた動きしかできない
◆応募者の動機もそれぞれ、地域再生・起業を目的とする人もいれば、都市での生活に疲れた人がワーキングホリデー的な感覚で来ている人もいる。
◆そのため、単に人数ばかりを追い求めて都合のいい情報ばかりを宣伝している自治体は、行ってから「話が違う」とミスマッチが起こったりする。

一言で言えば「ミスマッチ」です。とりあえず募集する市町村、とりあえず応募する応募者、これでは「話が違う」となりがちです。そりゃそうだ。

先日の記事でも取り上げましたが、長崎市への小島健一さんの提言のように、「ちゃんと考えてから協力隊員を入れてほしい」となります↓。

とにかくお互いに「事前の情報収集」が必要。行ってからは「現場に即した調整能力」が必要。野球のピッチャーと同じで、試合前にはできる限りお互いの情報を得て、試合中にはその時々の良い球悪い球を見極めて、良いなら良いなりに、悪いなら悪いなりに試合を組み立てていく必要があります。でも、試合中に突然技術がレベルアップするわけではない。「練習9割、試合1割」なのです。事前準備が圧倒的に必要なのです。

地域おこし協力隊という制度自体に、そもそも根本的な矛盾がある、と木下さんは言います。再び要約です↓。

◆人口問題でいえば、毎年全国で何万、何十万人が都市部に流入しているマクロ構造があるのに、国家予算をつけてたかだか数千人程度を地方へ送り込むだけでは、問題は一切解決しない
◆常勤で務める公務員が解決できない問題を、より薄給で、かつ期限付き公務員として雇う若者に解決してもらおうという発想がおかしい
◆地域おこし協力隊が問題なのではない、地元の人間がやるべきことをやらずして、地元が変わるはずはない。

まさに正論です。地域おこし協力隊は、特効薬ではないのです。スーパーマンでもないのです。どちらかというと、体質を少しずつ変えるきっかけとなる漢方薬に近いのかもしれない。それを、抗生物質か何かと勘違いして、飲めばすぐに治ると期待しすぎる市町村の、何と多いことか。

逆に、協力隊員のほうも、何とかしなきゃ、特効薬にならなきゃと、暴れまわって逆に副作用を呼ぶこともあるかもしれません。「地元の問題は、解決しようとすればするほど、既存住民との対立が発生することもある」「逆に、地元の人たちが、外の人が入ってどんどんかき回すことを歓迎すれば、できることはもっとあるのではないか」とのことです。

冷静に考えてみれば、その通りですよね。地元の問題は、地域おこし隊員だけ、市町村の行政だけで、解決するはずがない。地元の人たちの活動や度量が重要です。地元の人たちが「歓迎するか」「拒否するか」によって、隊員のパフォーマンスは変わってきます。「何とかしてくれるだろう」と丸投げにして、住民の反発を呼んだから事なかれ主義で隊員に責任を押し付けて、やらせることがないから草むしりでもさせておけでは、あまりにも悲しいことではないでしょうか。

3、協力隊を活かす改善点

木下さんは、協力隊を活かすために5つの改善点があると提言します↓。

もちろん、これさえやっておけば完璧というものではなく、あくまで最低限これはやっておいたほうが良い、というものだそうです。

1、兼業規程は全国一律でOKにすべし
2、「特技」(手に職)がある人を優先して採用すべし
3、募集側も一定の事業想定を持ち、人を探すべし
4、地域おこし協力隊業務と「地元民間メンター」との相互管理をするべし
5、集落支援業務は分離すべし

詳細は記事を読んでいただければなのですが、要約すると次の通りです。なお、※は筆者(私)が、要約していて感じたことです。

1、兼業規程は全国一律でOKにすべし

1、兼業を許可しない自治体は「任期付き公務員だから兼業はできない」ことを理由とする。しかし、1〜3年の期限付き雇用で、その後は自分で仕事をつくり住み続けてほしいという制度なのに、任期中は「副業もするな」とは、あまりにもブラック。任期後も、先月まで協力隊としての仕事だけをさせておいて、「任期が切れたから起業してください」というのは、あまりに当人にリスクを負わせすぎ。「あの地域に行ったら儲かった」と、地域おこし協力隊に言わしめて、後に続く人をつくることこそが大切

※属人的な一過性な個人に頼ったものではなく、継続的な「稼げる仕組み」を作れるかどうかが大事ですね!

2、「特技」(手に職)がある人を優先して採用すべし

2、地域活性化に必要なのは「平均的に高い成績を取り、高い偏差値の大学に入る能力」とは別物。経験でいえば、学生時代に300人規模のイベント開催を自分で取り仕切った、飲食店を経営していたとか、そういうことのほうが役立つ。しかし、採用側は公務員なので、一般的な能力を問われる経験がこれまでの人生で多い。そのため、この「特技」の重要性を理解できにくい。短期間でやれることが具体的にイメージできる人に来てもらうべき。

※「特技」を持った人を、「特技を持たなくてもよい」公務員が採用するとう矛盾…。尖った人にパフォーマンスをしてもらうためには、尖った人を理解できる苦労人(野獣使い?)が採用やサポートにあたるべきでは…。

3、募集側も一定の事業想定を持ち、人を探すべし

3、募集要件として明確に事業想定を持ち、それを担える人材を募集して、3年間でしっかり事業を軌道に乗せることで生活基盤が成立する、という目算をしてから募集すべきである。「若者よ地方へ」のようなフォーカスの定まらない話をしていては、お互いに勘違いを産んで不幸になる可能性が高まるだけ。マッチングを運任せにしている現状は良くない。

※どんな人に来てもらいたくて、何をしてもらって、任期後はこうやって生活基盤を成立させてほしい、と「事業想定」すべきですよね。というか、それなしで雇って、あとはご自由に、なんて民間企業じゃ考えられない…。

4、地域おこし協力隊業務と「地元民間メンター」との相互管理をするべし

4、地域で事業を立ち上げる際には、様々なネットワークなど人的資源が必要になる。しかし、事業を立ち上げたことのない役所だけが主体となって進めるのは無理。事業を立ち上げるなら、民間側で、地元で事業実績がある、若くて意欲的なメンターが必要。行政の色の濃い、地元商店街や町内会などの組合や公社だと失敗する。民間の独立独歩の人材でないとメンターは務まらない。協力隊員の気合と根性に頼るのではなく、彼らをしっかりと支える仕掛けがないと、若者たちの力を生かせない。

※この「地元民間メンター」の存在があるかどうかで、任期中も任期後も隊員のパフォーマンスが変わってきますね。隊員も、任期後は、原則として民間側になるわけですから。他の市町村の協力隊員同士のネットワークや情報交換の機会や仕組みも必須。隊員が孤立無援では精神的にやられます…。一見仲間のように見せかけていて、実は「行政の論理」だけで動く人だったと分かったときの絶望を味わうと、もう精神的に立ち直れません…。

5、集落支援業務は分離すべし

5、事業立ち上げを要求されている一方、集落支援に関する業務もやらされているような事例がある。集落支援を中心にするのであれば、地域おこし協力隊の制度を活用しないほうがいい。それらの問題に対する集落支援員制度は別にあるから。将来の常勤雇用候補者のお試し雇用なのか、それとも事業を立ち上げる人材の初期スタート支援としての雇用なのかを明確にして区別すべき。それによって、職能や3年の時間の過ごし方もまったく違う。現状はそのあたりが混在しているので混乱している。

※「地域おこし協力隊」と漠然とした枠組みだけで採用するのは間違い。集落支援なら、その専門員として雇う。適材適所。現状のごちゃごちゃを例えて言えば、お医者さんと看護師さんを同じカテゴリーで雇うようなもの。そりゃお医者さんも看護はできるけど、他にもやるべきことがある。看護は看護のプロフェッショナルがやるべき。それと同じ。

以上、木下さんの「5つの改善点」を要約して紹介し、そこに筆者(私)なりの感想を加えてみました。

4、もっとリアルな認知度を上げる

いかがでしたでしょうか?

私も正直、この木下さんの記事で初めて考えたトピックも多かったです。一番の問題は、このような細かい(なのに大事な)リアルな問題点や改善点案が、世間にじゅうぶんに伝わっていないことです。下手すると、協力隊を募集しようとする市町村内でも周知徹底されていないのではないか。協力隊員応募者も知らない人がいるのではないか。

となれば、こちらのヤマダイ監督のプロジェクトのような「地域おこし協力隊」のリアルを描く映画製作が、1つの方法かもしれません。山崎豊子さんの「白い巨塔」で、大学医学部の内情の一端(教授選など)が世間に知れ渡ったように、世間に内情が知られるような作品がまだまだ少ないことが、問題の一端であるように思うのです。

ちなみに、7/31までのクラウドファンディング募集ですので、まだ支援は間に合いますよ! ヤマダイ監督本人に直接支援する形でも、代理購入できますので大丈夫だそうです↓。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

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