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1、金銭は軽蔑すべきものではない

田中芳樹さんの小説『銀河英雄伝説』では、このような会話の場面があります。主人公の1人ヤン・ウェンリーが、父親に進路の許可をもらう場面です。部分的に引用してみます↓。

彼が一六歳になる数日前、父親のヤン・タイロンが死んだ。宇宙船の核融合炉に事故が生じた結果である。息子はハイネセン記念大学の歴史学科を受験することに決めて、父親に承諾をえたばかりだった。

「……まあ、いいか。歴史で金銭儲けをした奴がひとりもいなかったわけじゃない」

そういう表現で、父親は息子が好きな道を歩むことに承諾をあたえた。

「金銭はけっして軽蔑すべきものじゃないぞ。これがあればいやな奴に頭を下げずにすむし、生活のために節を曲げることもない。政治家とおなじでな、こちらがきちんとコントロールして独走させなければいいのだ」

このあと、彼(ヤン・ウェンリー)は、金銭的な理由で、ある学校に進むことになるのですが、気になる方はこちらをどうぞ↓。

2、歴史で食っていく職業の模索

歴史は実用的なものです。にもかかわらず、歴史で食っていく(生業とする)となると、あまりイメージがわかない。理由の1つとしては、歴史は「教養」「勉強」「間接的」なものであるというイメージが強くて、歴史で食っていくロールモデルがぱっと思い浮かばないからです。

これが地理だと、もう少し実用的なイメージがあるのではないでしょうか。例えば「観光」、例えば「気象」、例えば「貿易」、例えば「都市問題」。各地の観光資源を開発したり、気象予報士になったり、商社で活躍したり、公務員や政治家、はたまた地域おこし協力隊として街づくりや地方創生に従事したり。地理的な要素は「現在の各地の状況」とリンクするために、地理そのもので食っていく(生業とする)というのとは少し違うかもしれませんが、地理を土台としたロールモデルは思い浮かべやすいんです。『ブラタモリ』などの番組もそうですね↓。

歴史だと…どうですかね? まずは「研究・教育系」から。

①歴史研究者。これが一番王道でしょう。つまり、大学などの教員。好きなことを突き詰めて研究して、それが認められて教授にまでなれば、まず生活は安泰。研究者や学生向けだけでなく、一般の読者層に向けて書籍を出したりもできます。しかし、この道を進むためには、たぐいまれな学識(学歴も?)と研究実績が必要で、なおかつ、人文系の予算が削られている昨今、針の穴を通すようなイバラの道となっています。文系オーバードクターの生活(結婚)についてはこちらから↓。

②歴史の教員。これはイメージしやすい。つまり、小中高の教員。「歴史の先生」ですね。しかし、高校では「地歴」がセットなので、地理も教える。「地歴公民」の場合も多いので、公民も教える。そもそも小中では「生活科」とか「社会科」ですから、分離せず全部やる。歴史だけではない。しかも、担任や課外活動などの他の業務ももれなくついてくるため、「歴史だけで生活」とはとても言えないのでは。非常勤講師で歴史の授業だけ行うケースもありますが、それ1本で生活は苦しいでしょう。

③予備校講師。これもイメージしやすいのでは。つまり、「〇〇の世界史 実況中継」などの世界ですね。ただ、国語の「今でしょ」の林修先生レベルの、いわゆる成功者にまでなれるのは、それこそ針の穴を通す確率。少子化のご時世に食っていけるのかどうか、少し不安です。さらに、予備校講師は「大学受験に合格させる」という大目的があるため、「受験のための歴史」を教えることが必須となります。ご参考までに「受験世界史専門塾」である「ゆげ塾」のホームページはこちらから↓。「ゆげ塾」の書籍も、とても面白いものばかりですのでぜひ。

④学習塾講師。つまり、小中(高)相手の講師。非常勤講師ならありえますが、学習塾の講師で、単独の科目のみを教えるというケースは少ない。つまり、文系なら英語や国語、果ては理科や算数・数学まで教えていることも多い。進路相談の面談や生徒募集活動も業務のうちです。歴史だけで食っていく、とは言い難いのでは…。

次に「クリエイター系」を見てみましょう。

⑤歴史小説家。つまり、司馬遼太郎さんなど。田中芳樹さんもこれに当たるでしょうか。これは、歴史もさることながら、小説の腕次第ですね。ペン一本(PC一本?)で食べていければベストですが…。

⑥その他クリエイター系。全部挙げていくときりがないので、すみません、まとめてしまいました…。歴史漫画家とか、歴史ユーチューバーとか、歴史アイドルとか、歴史系専門俳優(時代劇俳優)とか、大河ドラマのプロデューサーとか、色々と考えられます。歴史というよりも、漫画家やユーチューバーなどとしての素質が問われますね。

いかがでしょうか。すぐに思いつく「研究」「教育」「クリエイター」の分野で考えてきました。「研究」ならば、歴史を学んで考察して、論文などの形で表現する。「教育」ならば、歴史を学んで咀嚼して、授業などの形で表現する。「クリエイター」ならば、歴史を学んでコンテンツ化して、それぞれの表現方法で世に問う。

自分の脳内だけで自己完結させるなら、外に出す、つまり表現する必要はありません。しかし「食っていく」のであれば、表現して、それが「需要があり」「お金を出してもらう価値がある」ものでないといけない。それが他の分野に比べて、「歴史」では成立しにくいイメージがある。なぜなのか? それは、歴史というものが原則的に「物語る」ものであり、主観的にならざるを得ない部分がある、つまり、客観的に「需要があり」「お金を出してもらう価値がある」ものとはなりにくいからではないか、と思うのです。読み書きそろばんのように、誰もが認める「必要なもの」ではないのではないか? 歴史を知らなくても、生活していけるのではないか? 高校受験や大学受験の受験科目としてしか必要なものではないのではないか?

でも、と私は声を挙げたい。それでも歴史は実用的なものであると。たとえ万人に受け入れられるものでなくても、客観的に「需要があり」「お金を出してもらう価値がある」ものになりえるのだと。私自身、そう言い切れる説得力のあるコンテンツをまだ制作できていないので申し訳ないのですが、note記事などを通して、少しずつ自分なりに構築していきます。

3、歴史で食っていく事例の紹介

さて、切り口を変えて、歴史で食っていく事例、言い換えると、客観的に「需要があり」「お金を出してもらう価値がある」ものにされている実際の事例を、ご紹介していこうと思います。

①原一六四さんの事例

原一六四さんは、副業として、イベントや動画制作を通して「城跡の魅力」を紹介されています。そしてそれを、見事に収益につなげておられます。参考記事はこちらより↓。

この記事から、一部引用します。

「ようやく、城跡好きな人たちとつながることができました。これから先は、イラストレーターさんとコラボしてキャラクター販売、ハンドメイド作家さんと組んで歴史関連グッズの販売、城跡DVDの販売、講演会の実施、歴史モノ人形劇の制作など、すべての夢を叶えて、地元史跡の観光資源化にも貢献したいと思っています」

②渡辺武尊(渡辺康一)さんの事例

渡辺武尊さんは、京都で一夢庵株式会社を経営されている方です。「武家ようかん」をはじめ、歴史にかかわる様々な商品やコンテンツを生み出してきました。ご経歴の紹介はこちらより↓。

著書も紹介します。ずばり『これからは歴史で稼ぎなさい!』↓。

③ほりなるみさんの事例(休止とのことで修正しました)

ほりなるみさんは、「せかいしけいえい」というイベントを主催されていました。「世界史×経営」という切り口にて、歴史を一気に実用的なものへと昇華され、2019年現在で現役の大学生という若い方ながら、着実に実績を積み上げられていました。イベントの様子の動画なども配信され、とても刺激的で参考になります。残念ながら、せかいしけいえいの活動は休止されるとのことですが、この視点は他でも広く活かせると思います。記事はこちらから↓。

(筆者追加修正:ほりさんの「世界史×経営」の切り口での活動は、記録に残しておくべきと思い、この項目立ては残しております。なお、進退についての考察は、こちらの記事も書きましたので、ご参考まで↓)

4、「〇〇を通して、何がしたい」ですか?

いかがでしたでしょうか? この記事では「歴史で食っていく」をテーマに、職業を模索したり、事例を紹介したりしました。「名詞ではなく動詞で考える」と考えると、結局は「歴史を通して何がしたいのか」に帰結するような気がします。

まとめにかえて、冒頭の『銀河英雄伝説』からの一節を、もう一度引用させていただきます↓。

「金銭はけっして軽蔑すべきものじゃないぞ。これがあればいやな奴に頭を下げずにすむし、生活のために節を曲げることもない。政治家とおなじでな、こちらがきちんとコントロールして独走させなければいいのだ」

歴史で食っていくためには、金銭が必要になります。行き過ぎた拝金主義者になるのもいかがなものかと思いますが、金銭を軽蔑するのもまたいかがなものかと思います。あなたの「〇〇で食っていく」は、何ですか? 

いや、名詞ではなく、動詞で考えると、こう聞いた方が良いですね。

「〇〇を通して、何がしたい」ですか?

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

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