1、目的と戦略と戦術を混同しない
現在は戦国時代ではありません。しかし、命の取り合いはなかなかなくても、経済的には戦国時代と言えるかもしれません。
ましてやフリーランスなどの働き方をされている方は、いかに食っていくか、頭をフル回転して考える必要があります。なぜなら、お金は無限ではなく有限だからです。限りあるお金を取り合う戦国時代。しかも見えない敵「競合他社(他者)」を相手にして…。となると、「作戦」が必要です。別の言葉でいうと、「戦略」「戦術」が必要です。しかしこの2つ、いったい何が違うのでしょうか?
ということで、この記事では、よくコンサルタントが言う「戦略」「戦術」という言葉について考えてみたいと思います。
まずは多田翼さん(@countand1)のツイートより引用します。多田さんは、マーケター×プロダクトマネージャー×コンサルタントをされている方です。
戦略と目的、戦略と戦術
戦略の上位には目的があり、下位には戦術がある。
戦術は、戦略で決めたやることの具体的なアクション内容。
目的・戦略・戦術の関係は、
目的:成し遂げたいこと [Why]
戦略:目的を達成するために、やること・やらないこと [What]
戦術:戦略の具体的な実行プラン [How]
Translate Tweet 11:24 AM · Jun 7, 2019 · TweetDeck
ここで大事なのは、戦略よりも戦術よりも、まず「目的」が先に来ることです。考えてみれば当たり前ですよね。なんのために戦うのか? それがはっきりしていないと、戦略も戦術もただの「ごっこ」に過ぎません。目的があってこその「手段としての」戦略や戦術なのです。
言葉を言い変えると、こういうことですよね。
目的=何のために 戦略=何を 戦術=どうやって
3つの関係を示してみると、こうなります。
目的>戦略>戦術
このことをまず押さえる。そうしないと、戦術で目的を考えたり、戦術で戦略を補おうとしたり、細かいところに目を奪われて「はて俺は何のためにこれをやっているんだっけ?」と途方にくれたり、ただの単純作業で「何かすごいことをやってる」と錯覚して満足してしまったりします。手段であるにすぎない戦略や戦術が、いつの間にか目的にすり替わっていることもあります。
2、『孤独のグルメ』で例える
上記したことを落としこむために、他の作品で例えていきます。つまり、違う表現で言い換えていきます。
『孤独のグルメ』という漫画をご存知でしょうか。ドラマ化されたので、そちらでご存知の方も多いかもしれません。一言で言うと、空腹の主人公が、店を探して、店でご飯を食べる(だけの)作品です。
その「食べるだけ」を、ここまで良質の物語にしたことに、驚きを禁じ得ません。作品の内容の詳細については、これは漫画を読むなりドラマを観るなりして頂くとして、早速この物語の構成(主人公の行動)で、「目的・戦略・戦術」を例えてみましょう。
◆目的=なぜ=空腹を満たすために
◆戦略=何を=店を探して
◆戦術=どうやって=メニューを選んで食べる
となります。
『孤独のグルメ』では、目的は原則決まっています。空腹を満たすこと。そこで、その目的を達成する手段としての戦略として、「店を探す」ことになります。「俺の腹はいま、何腹なんだ」と自らに問い、「中華にするか…いやいや洋食もいい…でもここの和食のお店もいい感じだ」などと逡巡し、店に入るのです。戦場を設定するようなものです。どこで戦うかを決めます。そして入店したら、どうやって食べるのか、戦術を考える。「この黒板の一番下に小さく書いてあるのは隠れメニューっぽい…いや、あの客が食べているあれも美味そうだ…しかし最初は麻婆豆腐を食べたくてここに入ったんだ…」というようにメニューに悩み、いざ食事がテーブルに届いたら、食べる順番やご飯の量を考えたりしながら食べるのです。
ここで大事なのは、目的や戦略の間違いを戦術で補うことはできないということです。あまりお腹が空いていないのにガツ盛りのお店に入ったら、これは悲惨です。ラーメンが食べたいのに洋食屋に入ったら、ちょっと挽回できないでしょう。もちろん、戦略を見直す=店を出て他の店を探す、という手もありますが、実際には「店に入っておきながら注文せずに出る」ということはしづらい。ドラマ版では実際のお店を扱っているのであまりないのですが、原作の漫画では、戦略の失敗=店選びの失敗が尾を引いて、戦術でどうにかしようとするけど結局失敗する、というパターンもあります。店長とケンカしてアームロックをかけちゃったり…。
なお、『孤独のグルメ』は、基本的に「飲食店に入って食べる物語」なので、戦略は「店を探して」にしましたが、よくよく考えると「空腹を満たすために」という目的を達成するためには、他の戦略を取ることもできますよね。例えば「弁当を買って」とか「自炊をして」など。1つの目的に対して、取れる戦略は無数にある。1つの戦略に対して、取れる戦術は無数にある。このような柔軟な認識も必要かと思います。どうしても失敗しそうな場合は、思い切って「戦略の見直し」や「戦術の見直し」をすることも大事です。店長とケンカしてアームロックをかけるよりも…。
ちなみに、この『孤独のグルメ』の原作者である久住昌之さんが、和泉晴紀さんと2人の漫画家コンビ「泉昌之」名義で作っている別の漫画『食の軍師』では、そのものズバリで戦略と戦術を語っています(三国志の諸葛孔明風に)。特に1巻に収録されている焼肉回は圧巻。こちらもお勧めです↓。
3、『山登り』で例える
次に、山登りで例えてみます。
◆目的=???
◆戦略=「どの山を登るのか」を考えて決める
◆戦術=「どうやって登るのか」を考えて決める
となります。
目的によって、戦略と戦術が変わるのは一目瞭然ですね!「そこに山があるからさ」という有名な登山家さんであれば、より高い山を目指すかもしれません。「家族でピクニックがてら楽しむ」のが目的ならば、子どもでも登りやすい低い山を選ぶほうが良い。「良い景色を見たい」なら、絶景が楽しめる山を、「運動」が目的ならそれなりの勾配のある山を、「ロッククライミングがしたい」なら岩山を選ぶことが多いでしょう。
繰り返しになりますが、目的や戦略の設定の間違いを、戦術で補うことはできません。エベレストにピクニックに行く人は、まずいないでしょう。能力や技能を見誤って、高い山に挑んでしまったら、下手すると全員遭難死します。「これはまずい」と思ったら、戦術で何とか挽回するのではなく、ただちに下山=戦略の見直し=違う山を選ぶ という選択肢を取るべきです。ただし、中腹まで登ってしまったら下山するのも大変です。順番としては、まず目的と戦略を明確にして、その上で戦術を考える必要があります。
4、『銀河英雄伝説』から考える
最後に、田中芳樹さんの小説『銀河英雄伝説』にて考えてみたいと思います。この小説は「スペース・オペラ」というジャンルで、宇宙を舞台に三国志のような戦いが行われています。
この小説では、ずばり「戦略と戦術の違い」について書かれています。いくつか引用してみましょう。まずは6巻より。
"戦略とは状況をつくる技術。戦術とは状況を利用する技術"
この一文が端的に違いを示していますね。次は5巻より。
戦術レベルでの勝利が戦略レベルでの敗北をつぐないえないというのは軍事上の常識だ。
もう1ついきましょうか。少し長いですが、1巻より。ストーリーのネタバレになるといけないのでぶつ切りに引用しますが、一言でいうと「目的も戦略も曖昧なのに遠征についての会議をしている」場面です。
「…まず、この遠征の戦略上の目的が奈辺にあるかをうかがいたいと思う」…「大軍をもって帝国領土の奥深く進攻する。それだけで帝国人どもの心胆を寒からしめることができましょう」…「では戦わずして退くわけか」「それは高度な柔軟性を維持しつつ、臨機応変に対処することになろうかと思います」…「もうすこし具体的に言ってもらえんかな。あまりに抽象的すぎる」「要するに、行き当たりばったりということではないのかな」…
こんな感じで会議が行われて、まさに行き当たりばったりの遠征が決行されてしまいます。主人公はこの会議の中で、このように心中で毒づきます。
戦略構想そのものがまともでないのに、実施レベルにおいて細かい配慮をすることに、どれほどの意味があるだろうか…
現実世界でも、特に会社などの仕事においては、「目的も戦略も曖昧なのに、戦術ばかり追求している」ケースは多そうですね…。
なお、Webマーケティングのスペシャリストである、アナグラム株式会社の代表取締役の阿部圭司さんも、以下のような記事の中で『銀河英雄伝説』をおすすめされています。ご参考までに↓。
ちなみに、小説を読むのは時間がない…という方は、道原かつみさんと藤崎竜さんがそれぞれの画風で漫画にされていますので、漫画で読んでも良いかなと思います。原作が長編なので、どちらの漫画もまだ完結はしていませんが…(2019年現在)↓。
誤解を恐れずに言うならば、道原かつみ版(トクマコミックスのほう)は「少女漫画風」、藤崎竜版(ヤングジャンプコミックスのほう)は「少年漫画風」かなと解釈しています。これ以外にも、アニメや舞台(演劇)にもなっていますので、ぜひどうぞ。
5、実用地歴提案会ヒストジオの「目的・戦略・戦術」
まとめにかえまして、弊会(実用地歴提案会ヒストジオ)の「目的・戦略・戦術」を、改めて分析してみました。
◆目的=「使える地歴のコンテンツ」を制作して広めたい
◆戦略=まず「地理分野」で「市町村」を題材にする
◆戦術=「擬人化」と「ゲームブック」の手法を使って制作する
目的に対して、戦略は無数に選べます。戦略が決まれば、戦術は無数に選べます。まず地歴のうち「地理分野」を扱っていますが、「歴史分野」を扱うとまた異なるでしょう。この戦略と戦術を取る、という選択肢が正しいのかどうか、中途で結果が出ていないのでまだわかりませんが、常に振り返りをしつつブラッシュアップしていきたいです。なぜ「市町村」? なぜ「擬人化」? についてのnote記事はこちらから↓。
もちろん、これは「コンテンツ制作」についての戦略や戦術に過ぎません。「何をどうやって広めるか」という広告戦略・戦術を煮詰めていく必要があります。「何をどうやって売るか」という販売戦略・戦術も必要ですね…。『要するに、行き当たりばったりということではないのかな』とか『戦略構想そのものがまともでないのに、実施レベルにおいて細かい配慮をすることに、どれほどの意味があるだろうか…』などと言われないように、気を付けようと思います。
さて、皆さんはいかがですか? 実施レベルの「戦術」ばかりを追求していませんか? いま自分が取り組んでいること、これから取り組もうとしていること、これまでに取り組んできたことを、「目的・戦略・戦術」の観点から、改めて分析してみてはいかがでしょうか?
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
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