幽玄のサクラガワ修正

1、思秋

9回目になります。6年ごとに世代を考える一連の記事。前回の43歳から48歳の記事はこちらから↓。

49歳から54歳の世代。いよいよ50歳ですね。

いくら元気な方でも、肉体的に20歳の若者と同じパフォーマンスをするのにはキツい年齢です。もちろん、50歳でプロ野球一軍のマウンドに上がった山本昌選手もいますし、水島新司さんの『野球狂の詩』に出てくるピッチャー岩田鉄五郎も50歳以上。サッカーの世界でも、キング・カズこと三浦知良選手は、50歳過ぎてもなおピッチに立ちます。しかし、これは「生きる伝説」級の彼らだからこそ成しえる、ギネスブック級の「事件」であり、たいていの方は、肉体的な衰えを感じる世代です。

思秋期(ししゅうき)という言葉があります。思春期(ししゅんき)と対にして生まれた言葉と推測されます。秋を思う。人生を四季に例えれば、春は過ぎ夏も過ぎて、落ち着いた秋となり、冬も近づく。歌手の岩崎宏美さんには『思秋期』という歌がありますが、これは18歳~19歳の時に、あとから思春期を振り返るという歌詞です。「無邪気な春の語らい」「はなやぐ夏のいたずら」は、秋になってこそ思うことができる。

というわけで、この世代のテーマは「思秋」です。

ちなみに、タイトルの「人間五十年」(ヒトを差すときはにんげん、世の中を差すときはじんかんと読むそうです)は、織田信長が好んで舞ったと言われる「敦盛」の一節です。織田信長は奇しくも約50歳で世を去りました。ですが、よく誤解されますが、人生が50年で終わるという意味ではありません。こちらのCHEVY WALKERさんのブログ記事をご参考までにどうぞ↓。

2、更年期の壁

肉体的な衰え、という観点で避けられて通れないのが「更年期」ですね。

特に女性に顕著ではありますが、男性にも「更年期障害」があるのはご存知ですか? TV番組「クイズダービー」の解答者として名を馳せた、故はらたいらさんも、男性の更年期障害に悩まされていたと言います↓。

生き物である以上、肉体が変わっていくのは必然です。「老化」は避けては通れない。カブトムシのように、幼虫からさなぎ、成虫になるように、そもそもの形が変われば周囲の理解もより深まるのかもしれませんが、「アンチエイジング」「美魔女」などの言葉が躍る昨今では、外見だけではなかなか理解されない部分がある。ましてや、肉体的な衰えに連動する「心理的な衰え」までは、なかなか外からはわからない。「健康診断」などでは、「要再検査」や「検査項目の増加」などが、容赦なく現実を突きつけますが…。倦怠感、絶望感、何に対してもやる気が出ない、という迷路に入ってしまう例もしばしばです。「早期退職」のワードもちらつきます。

そんな内面なのに、外からの重圧は増えることが多い。

職場では責任が増えて、指導的・管理的な仕事も出てくる。家庭では介護と子育てのサンドイッチ状態がさらに強まる。もし仕事や子どもがなくても、地域社会での役割、社会全体での役割は、否応なく期待されています。選挙に出てくる候補者も、50歳くらいであれば適度な「重さ」が出て来ますよね。若過ぎると軽く、高齢者過ぎると重い。心身内面は「危機」が迫っているのに、徐々に「重鎮」としての役割を担わなければいけないという矛盾が、アラフィフを襲います。

さて、どのような心構えで、過ごすべきなのでしょうか…?

例えば『課長島耕作』などで有名な、漫画家の弘兼憲史さんは、このような本を出されています↓。

50歳すぎたら、「まあ、いいか」「それがどうした」「人それぞれ」でいこう。…このタイトルが、全てを物語っていますね。たいていの困難は乗り越えられる3つの魔法の言葉、だそうです。というか、このような達観をどこかで持たないと、色んな重みを背負うのは難しいのではないか。押しつぶされてしまうのではないか。

アラフィフにもなれば、若い頃から追い求めてきた理想は、目に見える現実となり、あるいは遠い夢で終わっており、自分自身の特質も、だんだんと分かってくる頃だと思います。「人それぞれ」なのです。

もちろん、人生はいつでも「逆転満塁ホームラン」はあり得るのですが、そのためには、まず満塁になっていないといけない。ランナーがいない状況なら、いくらホームランでも1点止まりです。嫌いなもの、自分に向かないものは斬り捨てる。積み重ねてきた分野に関連付ける。狙い球を絞り、時にはスクイズや犠牲フライで1点を取る。良い意味での「老獪なテクニック」や「断捨離」が求められていく世代ではないでしょうか。

3、秋のコーディネイト

そう考えていくと、逆に「自由」なアラフィフライフを送れるケースも多いかもしれません。断捨離すれば、軽くなりますから。「まあ、いいか」「それがどうした」と考えれば、行動に制限がなくなる。

ここでもう1つ、インテリアカウンセラーとして活躍されている、磯ヶ谷ふき子さんのこの記事をご紹介します↓。

「ナチュラル~あるがまま~」というキーワードを大切にして、「その人らしい価値観やライフスタイル」を反映するコーディネートを提案される磯ヶ谷さん。この記事によると、「50歳からは自分にも他の人にも過度な期待がなくなり、気持ちが楽になってきます」とのことです。少し長いですが、ブログの文章の一部を引用します↓。

◆「ようやく肉体的な衰えを認め感じることが出来るようになります」。

◆「40代までのようになんでもかんでも全力でやることが効果的ではないことに気づきます。衰えを認めることで、自分の出来ないことや弱さを受け入れやすくなり、自分の内側の変化に気づくようになります」。

◆「本当は40代の内に気がついていたかもしれませんが、50歳を迎えるともう気がつかないふりが出来なくなってくる。自分にも他の人にも感じていることを感じないふりをすること、誤魔化すことが難しくなっています」。

◆「自分の弱さを受け入れることで、周囲の人のサポートや家族や友人の存在そのものに、心から感謝できるようになります」。

(太字は、私が入れて強調して引用しました)

確かに、40歳代までは、子どもや部下の視線もありますし、肩肘張って見栄を張って、自分の能力以上のことを行う、やらざるを得ない、やるべきだ、そんなケースも多かったことでしょう。しかし、心身の衰えが見えるアラフィフで、今までと同じやり方で無理をし過ぎると、伸びたゴムがぷつんと切れるように病院行きという危険性がありますよね。

やり方を変える。気が付かないふりをしない。あるがままを受け入れて、自分の弱さも受け入れて、自分の内面と語る。こころを成熟させていく。

こころの成熟に大切なことは、自由さ、柔軟さ、好奇心、そして無邪気さ。
いい意味で自分勝手でいい加減な人になっていくことです。

このように磯ヶ谷さんは、記事の中で勧めています。

好奇心のまま、新作のラーメンを食べたければ食べる(もちろん健康には気を遣いつつ)…。今までやろうとして時間がなくてできなかった、ハンドメイドの世界に挑戦してみる(自分が楽しむことを忘れずに)…。これまでの積み重ねは積み重ねとして尊重しつつ、良い意味で「ふっきれて」、自分勝手でいい加減にしていくべきではないでしょうか。逆説的ですが、捨てるからこそ得るものも増えていくように思います。

秋には、色々な一面があります。実りの秋、食欲の秋、運動の秋、読書の秋…。秋は、冬そして再びの春や夏の前段階でもあります。冬には冬の楽しみが待っているでしょう。ただし、夏のようにノースリーブや半袖では寒くなってきます。秋のコーディネイトを楽しみつつ、愉快なアラフィフライフを過ごすべきかなと、書いていて思いました。

4、疾風の娘たち

いかがでしたでしょうか? 今回の記事では「秋」を意識しながら、アラフィフの世代について考えてみました。

漫画を2つご紹介しましょう。まず男性版。大和田秀樹さんの『疾風の勇人』です↓。

2020年には東京オリンピック・パラリンピックが開催されます。1964年にも開催されました。その時の内閣総理大臣が池田勇人(いけだはやと)。彼の戦後まもなくの頃の活躍を描いた漫画です。残念ながら鳩山一郎内閣が成立した時点で連載は終わりましたが、私は密かに再開を期待しています。

池田勇人は、大蔵省(現在の財務省)の叩き上げ、病気療養で休職もしていますが、官僚のトップである事務次官の地位までのぼりつめます。ここまで来てしまえば、無理せずに悠々自適の生活を過ごすこともできたでしょう。しかし戦後、吉田茂のいわゆる「吉田学校」に入学し、1949年に初めて衆議院議員選挙に出馬、当選してなんと1年生議員で大蔵大臣に就任します。これが50歳前後のことです。はたから見るとすごいチャレンジです。

おそらく彼は、これまで積み上げてきた税務・財政・経済についての知識と実績をとことん自覚し、しかも「いい加減」で「ふっきれて」「断捨離をして」、政治の世界へと飛び込んだのでしょう。この魅力と実力を兼ね揃えた人物を放ってはおけないと、師匠の吉田茂、盟友の佐藤栄作をはじめ、支援の輪が徐々に広がっていき、最終的には総理大臣まで務めることになるのです。興味を持たれた方は、こちらの作者のインタビューもどうぞ↓。

次に女性版を。よしながふみさんの『愛すべき娘たち』です↓。

『大奥』や『きのう何食べた?』で快進撃を続けるよしながふみさんの、珠玉の連作集です。繊細な心理描写にかけては随一の作者。50歳を過ぎてガンになり、「ふっきれた」母親が、歳の差のある年下の奇妙な青年と再婚するところから、話が始まります。…これはネタバレは野暮ですね。実際に読んで味わっていただくしかない! 母親とは、娘とはいったい…?

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

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