見出し画像

コタツ記事

先週のTBSドラマ『不適切にもほどがある』の第8話で、興味深いストーリーがありました。

まぁ、このドラマの人気の高さは皆さんご存じの通り。わりとバズってるんで解説は省きますが、第8話では、不倫して現場から干された男性アナが復帰を果たすという場面がありました。
ところが、「このテレビ局は不倫アナを出すんだ」的な? たった2件のSNSへの批判投稿がWebライターの恰好のネタになり……。その2件の投稿を取り上げただけの、薄っぺらいコタツ記事「A」が、さらにSNS上でコピペされ、拡散され、その書き込みを見た別のWebライターのコタツ記事「B」に形を成して、ネットはますます炎上していくという負のスパイラルが描かれていました。

クドカンさんの脚本ってやっぱすげーですよ。絶妙すぎる。
「コタツ記事」には、さまざまな弊害を呼び寄せてしまう何かがあるものの、氏はコタツ記事を否定してはいないんです。
仲里依紗さん扮する渚(なぎさ)という登場人物に、クドカンさんは「薄っぺらいコタツ記事」と言わせていました。奇しくも、この放送の5日くらい前に書いた稿料の話で、わたしも薄っぺらくてコンビニエンスなコタツ記事を批判しました。ただそれは、記事の薄っぺらさが悪ということであって、コタツ記事が必ずしも悪いといいたかったわけじゃなくて。きっとクドカンさんも同じことを考えていたと思います。この場合のコタツ記事は、物語を展開させるガジェットであって、むしろSNSで拡散されたマイナスの感情が、膨大な人々を巻き込んでいって、やがて巨大な呪いの渦を巻いてしまう社会のしくみってどうなのよ? そっちのほうの比重が強かったという印象を受けますね。


わたしはコタツ記事、別にいいと思っています。

ただ、昨今よく目にする、テレビ番組ウォッチャー的なコタツ記事には、目に余る酷いものがたくさんあります。あんなのは世間話や床屋談義でしかない。

定義の仕方にもよりますが、一般的にコタツ記事は、取材や調査を経ることなく、ネットから漁った2次情報や伝聞でつくるもの。あるいは、テレビ番組を視聴したり他人の記事を引用して何かを評論したりするもの。2時間くらいでできちゃうくだらない書き物も、皮肉的・揶揄的にコタツ記事といわれるそうで、総じてコタツの中でヌクヌクしながら書けちゃう記事ということです。

でも、そういう意味でいえば、わたしも結構コタツ記事を書いちゃってますね。例えば、海外イベントの後パブ(こんなイベントがこないだ催されました系)を書かなきゃならん時は、主催者から送られたプレスリリースなんかを参考に、過去に自分で取材した時の経験・知見を交えながら、テーマに合わせてまとめちゃいます。もちろん関係者の方々や、実際に現地で撮影をしてきたカメラマンさんから肌で感じた情報をうかがって、それをストーリーに組み込むこともありますけどね。ウチにコタツはありませんが、デスクワークで完結しちゃうんで、コタツ記事といわれても弁明できません。

あと、随分前に旅行系のネットメディアか何かで、世界中の都市をアーカイブ化して、その特徴や見どころといった情報を、ひたすら書きまくるという仕事もありました。さすがに、日本を出国したことがない人に「サンフランシスコを見てきたように書け」といっても無理なので、できるだけ当地に渡航経験のあるライターさんと分担したり、もしくは滞在している関係者にヒアリング(つまりは裏取り)したりして世界ウン十都市のガイドを作ったことがあります。

当然、ネットの情報を参考にすることも多々でした。誰にも頼めなくて宙ぶらりんになったところはわたしが引き受け、その国の行政サイトや政府観光局の情報を参考にしながら書きました。読者からクレームが入ったら一大事ですから、細心の注意を払って情報を取捨選択し、個人的な感想やら事実関係が怪しい伝聞は徹底排除。そんな感じでリソースが限られていても書かなきゃならない。コタツ記事を否定したら、回らない現場はたくさんあると思います。

かつて、ナンシー関さんという、消しゴム版画家であり、コラムニストでもあった方が、独特の観察眼でテレビ批評を繰り広げるエッセイを書かれていました。あれがめっぽう好きでしてね。

彼女は、見えるものを見て、感じたことを感じたままに書くわけですけれども、物事の本質を探るために番組制作者に取材をしたり、裏を取るためのフィールドワーク(一時期コンサートなどを取材する仕事はされていたようです)は、それほどしていなかったと思います。いいんです。あれは正確性が求められる報道やレポートではなく、自分の考えや気づきを述べるエッセイなんだから。

とはいえ、憶測混じりのフェイクが独り歩きして、世論を変な方向にミスリードしちゃうのができちゃうこの時代。書き手には相当の配慮が求められます。アクセス数稼ぎで意図的な炎上を狙ったコタツ記事は断罪されてもしょうがない。もし副業で、薄っぺらいほうのコタツ記事や、質の悪いコタツ記事を書かれているライターさんがいたら、この業界の先行きを暗くしていることにも思いを致してくださいませね。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?