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マレー鉄道に乗ってみる(東南アジア乗り鉄記④)

 過去3回にわたって続けてきた東南アジア乗り鉄記であるが、今日はマレーシアでマレー国鉄に乗った際の記録を書き留めておくことにする。実はこの東南アジア乗り鉄記はアクセス数にしても「スキ」の数にしても数字が伸びているシリーズで、特に①と②は好評である。特に②の方はアクセス数こそ①に劣るものの「スキ」の割合がおよそ30%に到達する勢いで、訪問者の多くが満足してくれているらしい。考えてみると、他人が海外旅行でトラブルに巻き込まれた話を聞くのは楽しいものなので、そのあたりの心理が影響しているのかもしれない。
 ちなみに今後も海外旅行の予定が一つあって、二月にカンボジアとベトナムを訪問する予定である。ベトナムではホーチミンからハノイまで寝台特急で北上するという相変わらず常軌を逸した計画を立てているのだが、タイとベトナムの寝台特急事情の違いもそのうち記事にしたいと思っている。PCは「記事に死体と思っている」などと意味不明なことを言っているのだが、もはやどうしようもないというのが正直なところである。別にこの記事で誤字脱字があってもどうでもいい(よくはないか)のだが、偉い人に送るメールでこのような反乱を起こされるのには困っている。誰か私のパソコンに正しい日本語というものを教えてあげて欲しいと思う今日この頃だ。

連結器カバーが開いているような気がしなくもない

KTMBはすごい

 さて、そろそろ本題に入ることにしよう。なお、ここで「入ることにしたい」などと入力すればまた「入ることに死体」にされてしまうので、「しよう」と入力したのは私の知恵がPCに勝利したというわけである。それはさておき、マレー鉄道は電化された速達列車であるETS、クアラルンプール近郊を走っているKTM KOMUTER、非電化区間を走っている客車列車のKTM intercityという三種類に分かれている。今回の私の行程で言えば、タイとの国境であるPadang BesarからクアラルンプールのKL Sentralを経てGemasまではETSで移動し、Gemasからシンガポールとの国境であるJB SentralまではKTM intercityで移動することになる。なお、詳細な路線図や時刻表はKTMBのホームページから確認できる。筆者はとっても大変非常に親切なので、下にリンクを貼っておく。

 そして、KTMBは大変便利なことに、アプリからきっぷを買うことができる。私もアプリできっぷを買ったのだが、とても使いやすく、体感としてはえきねっとより操作性に優れているという印象だった。決済は当然ながらクレジットカードですることができ、改札機にQRコードをかざすとホームに入れる仕組みである。誰でもホームに入れるSRTとはこの点では異なっている。一つだけ難点を挙げるとするならば、先ほど述べた三種類をまたがるきっぷは発券できず、それぞれの区間を別々に買わなければいけないということである。私の行程で言えば、KL Sentral~GemasのきっぷとGemas~JB Sentralのきっぷは別々に買わなければならなかった。

運転台は新幹線のような感じである

Padang Besarでの列車待ち

 バンコクからPadang BesarまではSRTの寝台特急で移動してきた私は、当地でタイを出国しマレーシアに入国した。バンコクからの寝台特急でここまで来ると、どうしてもここで3時間ほどの待ち時間が発生してしまう。しかも、この駅は駅舎内に小さな売店があるだけで周りには何もないので時間の潰しようがないのである。仕方ないから駅舎をウロウロしていたら日本語が聞こえてきたので話しかけてみたら、日本人の旅行者だった。二人とも別々に旅行していたところで偶然出会ったので話をしていたらしい。所謂バックパッカーというヤツで、大きなリュックを背負っていた。みんな暇なのでこれからの予定や今まで行ってきたところなど、たまたまそこにいた香港からの旅行者と共に色々と話し込んでいた。わざわざ異国で寝台特急に乗るようなマニアックな旅行ばかりしている人同士、話が弾み待ち時間はあっという間だった。ちなみにここで会った日本人の一人と、数日後にマーライオンの目の前で再会することになる。縁というのは不思議なものである。
 一人は先に目的地へ旅立っていったので、三人で少し街の方を見に行っては「ちょっと雰囲気良くないかもしれないですね」と言って引き返したり、駅の反対側に出てみようとしたら扉が閉まっていて行けなかったりとウロウロしてみた結果、駅の売店に落ち着いた。ちなみにこの店はマレーシアのリンギットだけでなく、タイのバーツも通用する。店に両替所が併設されているが、ここのレートは最悪でお金が4分の3くらいになってしまうので、両替せずにバーツで払うのが得策である。ちなみにバーツで払った場合とリンギットで払った場合では値段はほとんど変わらない。ETSの中で食堂車を使おうとするとリンギットが必要になるが、ここで両替するなら車内で食べたいものは売店で買い込んで、リンギットへの両替はクアラルンプールでするのが良いと思う。パイを食べるついでにCCレモンが売られていたので買って飲んでみたが、日本で売られているものと違い、変な甘みがついていてあまりおいしくなかった。コーラが大体どこの国でもおいしいのと対照的である。

座席はリクライニング付きである

いざ、乗車。クアラルンプールに向かう。

 列車を待つこと数時間、ようやく列車に乗り込むことができた。車両はいたって綺麗で、問題があるとすれば座席の向きが固定されていて回転させられないことくらいである。適当に座席を選択したせいでクアラルンプールまで5時間半、後ろ向きが決定してしまった。車両の真ん中向きに座席が配置されている車両と外側向きに座席が配置されている車両があるので、どちら向きの車両が来るかというのはおそらく運である。ちなみに一応全車指定席ということになっている。
 一応と書いたのは、車内で座席移動が常態化しているからで、検札の時に「あっちが寒いから移動してきた」とか「席が逆向きだから移動してきた」とか説明すれば「OK、本来の人が来たら移動してね」で終わりである。あとで人が来たので移動しようと思ったら元の席に誰か座っていて、その辺の適当な席に座っておく、くらいの適当な指定席だった。たまに新幹線に乗って「指定席に誰か座ってたんですけど!!!」とかTwitterで騒いでいる変な人がいるが、これくらいの大らかさを見習った方がいい。途中から乗ってきたインド人らしき子どもが靴を履いたまま座席で飛び跳ねていたのはさすがにどうかと思わなくもないが、日本人は細かいことにうるさすぎるのである。
 ETSはタイと同じように軌間が1mちょうどのメーターゲージだが、列車はタイ国内の倍くらいの速度で走って行く。車内のモニターに速度が表示されるようになっていたが、大体130km/hくらいで走っていた。日本の新幹線も320km/hで走るし、インドネシアのウッスは350km/hくらい出るらしいのでそれと比べたら大した速度ではないが、メーターゲージであることを考えたら上出来である。揺れもそれほど大きくなくて、快調に走って行く。
 トイレはタイで乗った寝台特急の10倍くらい綺麗である。もっとも発車時点においては、であるが。マレーシア人がどういうトイレの使い方をしているのかよくわからないのだが、途中でトイレに行ってみたらトイレ中がびしょ濡れになっていた。おそらくトイレに備え付けられているシャワーをウォシュレットのように使っているのだが、それにしてはトイレ中がびしょ濡れなのである。床も壁も、なぜか濡れていた。トイレの中でシャワーを浴びる人でもいるのだろうか。
 景色を眺めたり昼寝をしたりして過ごすこと5時間半、列車はクアラルンプールに到着した。クアラルンプールにはKL SentralとKuala Lumpurの二つの駅があるが、おそらくどちらを使ってもそれほど変わらないと思う。どちらもメトロが通っているのでその後の移動も大した手間ではない。ちなみにクアラルンプールのメトロはVISAのタッチに対応していないので、トークンを買って乗る必要がある。

ペトロナスツインタワー、ちょい見せ

次はシンガポールへ向かう

 クアラルンプールで一泊して、翌日の午前中にクアラルンプールを観光してからシンガポールに向かうことにした。たった半日の観光ですら変な人に絡まれたわけだが、顛末が気になる人は乗り鉄記②を読んでみてもらえれば幸いである。この先もGemasまではETSで向かうことになる。また座席指定に失敗して後ろ向きだったのだが、それはまた別の話である。

 多くの日本人にとっては電車は時間通りに来るものだろう。日本の鉄道は不気味なくらい時間通りに走っていて「20秒早く発車してしまいました」などと私の理解を超えたニュースが飛び交っているほどである。その一方で、海外に出てみると列車が時刻通りに来ないどころか時刻表すらなかったりする。ドイツに行ったときには「次の列車が何時何分発か」が書かれておらず、「次の列車が何分後に来るか」が表示されていたのだが、それも「5分後」が突然「20分後」に変わるという素敵な仕様だった。ではマレーシアはどうかというと、おおむね定時運行が実現されているようであった。前日の列車は時刻表通りに走っていたし、Gemas行きの列車も5分遅れくらいでほとんど時間通りに走っていた。
 クアラルンプールではイスラム美術館を訪問して美しい展示品を眺め、KL Sentral駅に向かった。例によって時間ギリギリで、メトロを一本逃していたらETSにも間に合わなかったのだが問題はそれだけでなく、なんと改札に入るQRコードがうまく読み込まれずゲートが開かなかったのである。この時点で列車が来るまで3分くらいしかなかったので近くにいた駅員に事情を説明したら、「焦るな焦るな、のんびりやろうや」みたいなことを言ってきた。相変わらずである。「でも電車が3分後なんだけど」と言ったら「おお、ほんとだ。でもその電車は遅れてた気がするで♨」などと言ってくる。「気がする」のはいいのだが、この列車を逃すと次の列車は7時間後という素敵な状況になってしまう。おそらくその先の乗り継ぎがないのでそうなったらクアラルンプールからシンガポールまで空を飛ぶしかない。それでは今回の旅の目的が達成できないので困ってしまう。どうするのかと思っていたらたまたまツアー客の一団が改札の横のゲートから入っていくので「これについていっていい?」と聞いたらなぜか「いいよ」という返事だったのでついていくことにした。なぜいいのかよくわからないが、そのあたりも含めて相変わらずである。

今度は連結器が閉じていた

 何はともあれ列車に乗ることはできたので、あとは流れに身を任せるだけでGemasまで連れて行ってくれる。後ろ向きのまま車窓を眺めているとゴムのプランテーションが行われている農地が増えてきて、赤道に近づいていることを実感する。ETSは快調に走り続け、Gemasに到着した。なお、Gemasは「ゲマス」ではなく「グマス」と発音するらしい。まあ、そのあたりは向こうが察してくれるので心配しなくてもいいだろう。
 Gemasにはなんとブルートレインが止まっていた。見覚えのある青色の車体が見えたので「あれ?」と思ってよく見たら「B寝台」「スハネフ14-6」などと書いてあったので、本当にブルートレインだった。車両の端はオレンジ色に塗られていたし、青い部分もボロボロになっていたので運用に入っていたのか定かではないが、日本で活躍していた車両を遠く海外で見ると感慨深いものがある。

こう見えてブルートレインである

 さて、ここから先はKTM intercityである。つまり、高速列車とはここでお別れになり、あとはディーゼル機関車に引かれてのんびり旅行することになる。別に急ぐこともないので終着のJB Sentralまで4時間半、列車は田舎町を走って行く。なお、例によって後ろ向きである。さすがに運が悪すぎると思う。車内は冷蔵庫かというくらい冷え切っていたので、デッキとキャビンを行ったり来たりして体温を維持することにした。もちろん私も一応人間なので恒温動物ではあるのだが、その能力を超えた車内温度だったのである。ちなみにデッキはドアが開いたり閉まったりするので暖かい。ドアがパタパタしていると言っても、常にドアが全開(というか付いていない)のタイ国鉄よりはマシである。
 ETSとKTM intercityには食堂車がついていて、サンドイッチやドーナツ、お菓子などが売られている。食堂車に行くと車掌がTikTokを眺めて呑気に休憩しているところはさすがであるが、おなかが減ったら行ってみるといいだろう。私はこのGemasからJB Sentralに行く途中に利用した。なお、次の日に腹痛を催したので利用は自己責任である。この腹痛の原因はここで食べた、見るからに健康に悪そうなドーナツか、翌朝に屋台で食べた120円の朝食かのどちらかだろう。
 そういえば、ETSには自動放送が付いているが、KTM intercityにはついていない。ではどうするかというと、「車掌が大声で次の駅を言って歩く」という超アナログ方式である。KTM intercityの車掌はTikTokを見ながら検札に来たり、食堂車で弁当を広げていたりとどう見てもサボっていたのだが、次の駅の案内だけは必ずしていた。なかなか面白い人である。目が合うと話しかけてくる親切なオジサンだった。

KTM intercityは少し(かなり)ボロい

 そうこうしているうちに列車はJB Sentralに到着した。ここで電車を降り、マレーシアを出国する。海峡を跨いだ反対側はシンガポールで、本当ならここからシンガポール側のWoodlandsという駅まで列車で行くことができるのだが、予約しようと思ったら満席だった。KTMBには立ち席という概念がないので、満席になったらきっぷを売ってくれないのである。私はバスで行くことにしたが、その話とシンガポール滞在記はまた今度ということにしたい。なお、PCは相変わらず「今度ということに死体」である。

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