見出し画像

真夏の夜の風物詩

ドシン!!

玄関先で大きな音がした。

ゴトッ……バタバタ……ガタン。

どうやら同じマンションの同じ階にテナントを構えていた企業さんが、転出のための引越しをしているようだった。

なんの企業かよくわからないが、観葉植物が何鉢も運び出されていく。
あまり換気の良さそうな環境に見えなかったが、それでも観葉植物は育つようだ。
そして、その後には転々とあるものが床に転がっていた。

それから数日が経ったある夜、遅くまでかけて港の画を水彩画で仕上げていた。

パレットには水色、赤、黄色の絵の具と、それが混じりあった青い水たまりが出来ていたので、そのまま乾かすことにした。

出来具合を確認しつつ筆を洗いに行き戻ってくると、パレットの青い絵の具の上に、あるものが貼りついていた。

黒くて大きな影。そう、ゴキブリである。

驚いたがそこは冷静に、忌避剤 兼 殺虫スプレーをかけた。
相手も然るもので、華麗に机の裏側に隠れた。

再度、スプレーを机の裏側にかけるとあっさり出てきて、またパレットの上の青い絵の具をペロペロしはじめた。

驚愕である。
こんなに不味そうな絵の具を、それも赤や黄色といった色ではなく、なぜ二度も青の絵の具に行ったのか。

生き物は、そこに存在する理由があるのである。
冒頭からの伏線は決して、無関係ではない。

観葉植物、肥料、淀んで湿った空気、転出した部屋。
色彩としての青と光としての青、絵の具とその成分。

出現する条件がそろったのである。
以下は、ワタシのオタク気質による予想である。

・管理が行き届いていない肥料の容器は、高い確率で巣窟になる。
・観葉植物は湿気と隠れる場所と保温性があり、好みの場所である。
・引越した時に転々と床に転がっていたものは、彼らのご遺体だったのだ。
・あまり換気されない湿気のある環境が好き。
・宿主が転出したことにより餌がなく空腹となれば移住する。
・弱視のため赤い色が見えずらく、青が一番見える。
・青い色が最も光を通過しやすく退色しづらい色の性質を持っている。
・現代の絵の具は人体に無害に作られており、成分に砂糖を含む場合があるため餌となり得る。

以上の理由により、青い絵の具に貼りついていたという、主観的な結論に達した。

もちろん、戦ったその個体は無事成仏し、それ以来出現せず今年で2回目の夏を迎えている。

殺虫剤も食器用洗剤も使わずに撃退した体験談もあるので、興味があるという方はスキを押して行っていただければ、またの機会に記事にしようと思う。