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先頭誘導員に関する補足的事項

競輪の先頭固定競走で一定の距離、競走選手の列の先頭を走っているのが先頭誘導員です。先頭誘導員になるための試験を受け、資格のある現役選手が走っています。競走選手の列の先頭を走る先頭誘導員には、競走選手の風よけになり、一定のペースを保ち隊列を安定させるといった役割があります。

先頭誘導員は無線レシーバーをつけており、周回タイムは伝えられますが、時計やストップウオッチ・速度計などの計測器を一切持たず、自分の感覚だけで時間を正確に把握して基準タイム通りに周回しなければなりません。その誤差はプラスマイナス1秒とシビアなものです。

一般的に説明されている先頭誘導員の技術的なお話しはここまではないでしょうか…。今回は、タイムきっちりで走るということはどういうことか、というところに踏み込んでみます。

先頭誘導員

本題の前に参考になる最近の話題

本題に入る前に、選手の風よけになるという事、隊列とは何か?について、なんとなくわかるところにたどり着いたところで、競輪というとついつい「ライン」というのがあってね~、という人情的な要素多めの話になりがちです。隊列を組むことで何が良いのか、目安となる数値のある、ちょうどいいニュースがありました。トラック隊列走行実験の話題です。

・重要な部分を引用します。

隊列走行には、さまざまなメリットが期待されています。先行車からの操作制御により車間距離を短くすると、空気抵抗が減るほか、車両速度が一定になり速度変化が減少するため、単独でトラックが走った場合に比べて燃費消費の改善※が見込まれます。
※先行研究によると、隊列走行による燃費消費の改善率は、車間距離2mで約25%、4mで約15%と報告されています。
(引用元:ソフトバンクニュース 2020-03-06  URL https://www.softbank.jp/sbnews/entry/20200306_01

これは、車の話になりますが、燃費がこんなに違うんですね。競輪(自転車競技)だけでなく、競馬でも、先行してぶっちぎりだった馬が最終的には後方からきた集団に飲み込まれるというレースをよく目にします。先行して逃げ切るというのは、余計にパワーのいることなんですね。空気抵抗というのは競技に大きな影響がある、そのための先頭誘導員であったり、ラインであったりする、というのが競輪を考えるうえでとても重要なことになります。
ライン人情話についてはまた別の機会に(*´ω`*)

数値に出ない先頭誘導員の技量とは?

やっと本題です(*'ω'*) 先頭誘導員は、風よけとなって競争選手の負担を軽減し、隊列を安定させるために、一定のペースで、内外線間の中央を走るように指導されています。

・振り返ってはいけない…

内外線間は、決して広い幅ではありません。この幅の中央を一定ペースで安定して走る、というだけでも技術のいることです。そのため、競争選手は後ろを振り返って後方を確認することがありますが、先頭誘導員は自身の走行ラインを乱さないために、振り返ってはいけないのです。

内外線

上の写真の白線が内圏線・外帯線(内外線)です。先頭誘導員は内外線間の中央を走ってますね!
参)走路(バンク)内の各部名称についてはこちら(KEIRIN.jp)もどうぞ。
 ⇒ http://keirin.jp/pc/static/beginner/basics/rules.html

・風を読む

屋外バンクは風の影響が大きく関わってきます。例えば、ホームが向かい風のとき、バックは追い風コーナーは横風になります。向かい風で踏み過ぎると、追い風ではスピードが乗りすぎてしまいます。先頭誘導員と最後方の選手とでは距離があるため、それらを考慮してペダルを踏まないと後ろに続く選手の隊列が伸びたり縮んだりしてしまうのです。風の変わり目があるところでは、より注意しないといけません。

・ペースを作る

また、先頭誘導員は、誘導退避にむけて少しずつ徐々にペースを上げていく必要があります。(プロスポーツの感覚ですのでこの「少しずつ」とか「徐々に」というのは一般的な感覚よりもかなり微細なものになると思います。)競走選手は先頭誘導員の退避に向けて動き始めるので、先頭誘導員はその時にスムーズに退避できるようにするためです。先頭誘導員の退避後、レースが一気に動きはじめます!

・退避のタイミング

先頭誘導員動き出す

レシーバーから後方の状況が知らされます。「はい、後ろ並走!」ときたら、レースが動き出す時。先頭誘導員にも緊張が走ります。退避のタイミングが来ると「退避!」と指示があり、振り返らずにスムーズに退避する…ここまでが先頭誘導員の役目です。

・思いっきり退避?!

先頭誘導員は、かならず、規定の位置で退避するというわけではありません。レースの動きによって、早めに「退避!」の指示が来ることもあります。コーナーの中ほどでこの指示を受け取るとき、雨で走路が濡れている、風が強い…そんな中、「退避!」って「ここで~!?」という事も正直あったそうです(笑)。レースが急に動き始めたようなときは「退避!退避!思いっきり退避!」という指示があったとか(笑)。突然の退避指示にも安定して素早くレースに影響を与えることなく退避しなければいけません。なかなか大変なお役目です。

数値に出ない計算されたものを体現しているのがプロ

先頭誘導員は基準タイムに合わせて走る、というとそれだけですが、これには繊細な技術が必要で、正確な時間感覚距離感覚状況判断のもとに、一定のペースを作って走っている!。というのが、お伝えしたかったことです。一定のペースで走るということと、一定の速度で走るということは違う技術なんですね。

基準タイムという結果を出すものには諸要素ある。時間距離状況によって導き出されたものがペース感覚、先頭誘導員はこれを体現して基準タイムを出している。数値に出るものはタイムだけですが、諸要素が瞬時に選手の中で計算されているんですね。そう思うと、人間の能力って、すごい!とも思います。目に見えないものを見る力、というのは、オカルトやスピリチュアルなことを想像しがちですが、見えている一つの要素から、プロは何を見ているのか。予想以上に計算された何かなのかもしれません。

実はこの先頭誘導員に必要な感覚が菊池仁志の現在の指導のお仕事にも活きています。このことについては別記事にて触れます。