見出し画像

未発売映画劇場「暗殺 サンディエゴの熱い日」

世界中では、たくさんの映画が作られている。だから、日本劇場未公開の映画も数多くある。そのうえ、国内でビデオやレーザーディスクやDVDやブルーレイで発売されない映画も多い。というか、そうなった映画のほうが、多い。500円映画だって、じつは出てるだけマシなのだった……

最初にこの作品を見たのは、たしかNET(現・テレビ朝日)の「土曜洋画劇場」だったと思う。そのときすでにこれがテレビ用のTVムービーだったことは知っていた。1972年の作品だから、そのあとくらいの時期だったか。のちに小説『ジュラシック・パーク』を書いたマイクル・クライトンの初監督作品だということは、見たあとで知ったような気がする。当時のTVムービーは秀作が多く、下手するとそうとは知らずに劇場映画だと思って見ていることも多かったもんだ(もちろん500円映画クラスの作品も多かったが)。

もうちょっと後になって、クライトン自身がジョン・ラング名義で書いていた原作小説『サンディエゴの十二時間』も邦訳されたので買って読んだ。映画の原題は「PURSUIT」だが、原作は「BINARY」だ。

物語は、極右の大富豪が大統領暗殺を企て、軍から強力な毒ガスを盗み出し、それを大統領候補指名の党大会が行なわれるサンディエゴの町に持ち込むことから始まる。彼の動きを監視していた国内情報機関は、ただちにマークするが、チェスの名手のごとく捜査機関の先を読む犯人に翻弄され続ける。主任捜査官は犯人の行動のさらに裏を読むことで徐々に追いつめるが、とあるマンションの一室で、実に奇妙な対決をする羽目に追い込まれる。

暗殺サスペンスものは、映画、小説を問わず数多いが、この作品はそうした中でも珍しい「理科系」サスペンスになっている。数々の伏線が緻密に張り巡らされ、それを頭脳的に解いていく仕組みになっているからだ。さすがは自らも医学博士にして理科系のマイクル・クライトンだけあって、アクションに頼る「体育会系」ではないのだよ。

この「暗殺 サンディエゴの熱い日」は、今のところ、テレビ放映以外は日本で見る機会はまったくない。アメリカではDVDが発売されているが、国内版が出る予定もなさそうだ。でも、原作小説は比較的入手しやすい(文庫版も出ている)ので、小説を読めばいい。そうすれば、ほぼ映画版を見たのと同じ味わいを感じることができるだろう。原作者自らが脚色して監督しているのだから当たり前だが、映画と小説に、ストーリー上の大きな違いはなく、手ざわりも味わいもほぼ同じなのだ。こういうのも珍しいよね。

とはいえ、これはけっこうな傑作だと思うので、ぜひとも国内発売を実現してもらいたいものだ。

監督兼原作者のマイクル・クライトンは、この後に劇場映画にも進出し、「ウエストワールド」(1973年)を皮切りに、「コーマ」(1978年)、「大列車強盗」(1978年)、「ルッカー」(1981年、日本劇場未公開)、「未来警察」(1985年)と計5本の映画を監督した。その後は原作者、脚本家、プロデューサーとして、前述した「ジュラシック・パーク」やテレビの「ER/緊急救命室」など多くのヒットを残したが、監督作品は上記5作品とこの「暗殺 サンディエゴの熱い日」しかない。そういう意味でも貴重品。

といいつつ、彼のフィルモグラフィを見ると、1988年に「証人を消せ/レンタ・コップ2」という監督作品が掲載されている。バート・レイノルズ主演の刑事アクションで、劇場公開もされた作品なのだが、どうも冴えない映画だ。他の監督作品がいずれもクライトンの「理科系」っぽい映画なのに、これだけはまるっきりの体育会系のB級アクション。どうにもこうにもクライトンらしくない。

じつは来日したクライトン氏にこの映画のことをこっそり訊いてみたことがある。「知らないよ」というあっさりした返事だった。あれは自らの意に染まない失敗作に関する照れ隠しだったのか、それともこの映画の背後には何らかの闇が隠されているのか?(笑)

画像1

  未発売映画劇場 目次

映画つれづれ 目次

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?