見出し画像

痛そうな映画

映画ってのは、人間の五感のうち「視覚」と「聴覚」しか使っていない。無声映画のころも、活弁があったり音楽をつけたりしていたから、音は使っていたんだよね。トーキー映画の開発以降にも、カラーの普及からCGまで数多くの新技術が映画に取り入れられてきたが、使用する感覚は依然として「視覚」と「聴覚」だけなのだ。

ただし、残る感覚のうち「触覚」のひとつ、「痛覚」というのは、映画でも比較的伝わる。いや「伝わるような気がする」だけだが。

もちろんそのほとんどは、伝わりにくいだろう。爆発で吹っ飛ばされるとか、日本刀でズンバラリンと斬られるとか、高層ビルから落っこちるとか、銃弾喰らって悶絶とかいった「痛み」は、たぶんほとんどの人には伝わりにくい。そんな「痛み」は実際に感じたことがないからだ。

一方で、日常のちょっとした「痛み」の拡張版は、伝わりやすい。観ていて思わず、顔をしかめたくなるものだ。

名作「大脱走」のクライマックスのひとつ、スティーヴ・マックィーン扮する米軍捕虜ヒルツ大尉のバイク逃走シーン。疾走するバイクでスイスとの国境線突破をはかるあの場面のラストは、何度観ても「いてて」と顔をしかめたくなる。

国境線のバリケードに突っこんだヒルツ大尉が、有刺鉄線にからめ捕られて傷だらけになる、あのシーンだ。

チクチクと針が刺さるあの「痛み」は、誰しも小規模には体験しているだろう。それの超拡大版。どんな「痛み」かは、想像がつくものだからね。痛い痛い。

この有刺鉄線というやつ、最近はあまり町では見かけなくなったが、むかしはよく空き地などの柵に使われていて、けっこう日常的に目にしたものだ。

いまはプロレスのデスマッチで使われることが多いので、そっち方面で目につく。

そもそもはあの大仁田厚がFMWを旗揚げした当時、金網デスマッチをやろうとしたがカネがなくて金網を買えず、仕方なく安価なベニヤ板に有刺鉄線を取りつけただけで「有刺鉄線デスマッチ」をやったというのが、たぶん世界最初だろう。やってみたら、金網にぶつかるよりも「痛み」が伝わりやすかったのだろう、大ヒットし、その後世界中のプロレス団体に広がったのだから、何が幸いするかわからないものだ。痛い痛い

ダイ・ハードでも伝わりやすい「痛み」がある。

孤立無援の高層ビルのオフィスのなか、テロリストと壮絶な銃撃戦をくりひろげるマクレーン刑事(ブルース・ウィリス) その足を封じようと敵がやるのが、仕切りのガラス板に銃弾をぶち込むこと。床一面に飛び散るガラスの破片。そう、マクレーンは靴を履いていない裸足なのだ。裸足でガラスのかけらを踏む。これは痛そうだ。

もっとも、映画ではガラス片を踏んづけて走るマクレーンの姿は画面に映らない。キラキラ光るガラス片の海の中にべっとりとついた血塗れの足跡で描かれるのだ。これは痛そう。

その後、その場を逃れたマクレーンが、血だらけの自分の足から、突き刺さったガラス片を抜き取るシーンもある。これもまた痛そうだ。最初に見たときは、思わずひえーとか言いそうになったもんだ。痛い痛い

そういえば、このガラスも、最近はデスマッチのアイテムに多用されている。大日本プロレスは、大きなガラス板をリングにセットしたデスマッチもよくやるし、最多使用の蛍光灯デスマッチも、考えてみたらガラス片が凶器になってるよな。痛い痛い

鉄条網とガラスは、映画でもプロレスでも、「痛み」が伝わりやすいアイテムってことなんだな。痛い痛い

【画像のリンク先はamazon.co.jp】

映画つれづれ 目次

プロレス・ワンダーランドへようこそ 目次

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?