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未発売映画劇場「狂気が見つめてる」

1997年の香港返還までの約10年間、香港映画は凄い輝きを放っていた、と思う(個人の感想です)。そこに引きつけられたわけでもないが、うちの夫婦はその時期、やたらに香港に通っていた。年に2~3回、二泊か三泊で香港へ行って、ショッピングや映画館通いをしたもんだ。

その時期は、日本でも香港映画のブームが巻き起こって(局地的だったかもしれんが)、多数の香港映画が日本の市場に流れ込んできていた。ご存じジャッキー・チェンやチョウ・ユンファをはじめ、ファンタスティック映画と呼ばれたSFXやホラー系、香港ノワール、香港ヌーヴェルバーグなどなど。なかには、今では誰も覚えてないようなマイナーな映画もあったが。それらが、映画館や、当時隆盛を誇っていたレンタルビデオ店で「公開」されたのだ。今では考えられないような本数だった。

しかし香港映画おそるべし、それだけ大量の作品が流れ込んできていても、まだまだ日本未公開の作品がたくさんあったのだ。そうした映画を現地の映画館で見てくるのも、香港旅行の楽しみのひとつだった。

さて、1993年の3月に香港を訪れた際に、たまたま夫婦で見たのが、この映画。

「觸目驚心」 (Insanity)というタイトルの意味が分からなくても、ポスタービジュアルを見ただけでどんな映画なのかは、すぐにわかった。サスペンス・ホラーだ。まあ香港の映画はけっこうストレートなつくりが多いので、たいていはパッと見で内容までわかっちゃうんだけど。

ストーリーの細かいところはよく覚えてないが、要するに新興開発中の郊外住宅地に引っ越してきた若夫婦の家に、精神を病んだ刑事がやってくる。なんだかんだと言葉巧みに家に入りこみ、居座り、じょじょに狂気を発し、ついには殺人鬼に変じていく。このころに流行っていた、実際の事件を題材にした「奇案片」や、香港でも大ヒットした「羊たちの沈黙」を真似たサイコサスペンスの流れの上にあった作品。

謎の男が「奇案片」の立役者の一人だったサイモン・ヤム、若夫婦がレイモンド・ウォンキャシー・チョウと、それなりの有名俳優が出ていた、この映画だが、とうとう日本には入ってこなかった(タイトルにした邦題は私が勝手に作りました)

香港のこうしたサスペンスやホラーものは、アメリカはもちろん、日本のものとも違う妙な怖さがあって、ビビらされることが多い。日本でもちょっと話題になった「八仙飯店之人肉饅頭」(1993年)とか、けっこうな迫力だったよね。そうした迫力の一端は、この映画でも十分に味わえた。ラストは、よく考えると「ギャグか!」と思うようなシロモノですが、映画館で見ると問答無用の説得力があったような気がする。

そういえば、この時期までの香港の映画館は、一種独特の雰囲気があって、日本の映画館とはずいぶん違った。タバコは吸い放題だし(劇場によっては喫煙席と禁煙席がザックリとわかれていた)、おしゃべり自由、携帯電話が鳴り響くのなんかしょっちゅう、子供はわいわい言うし、飲食もご勝手にどうぞだったっけ。神経質な人はとても耐えられないだろうが、でもそんな中で映画を見るのは妙に楽しかった。

ところで問題は、怖いのが苦手で、ホラー映画がキライなウチの奥さんが、なんで見るからにホラーなこの映画を見ようといったのか? やはり香港独特の磁場に、引きつけられたんですかねえ。

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