見出し画像

未発売映画劇場「探偵マイク・ハマー/ガールハンター」

ハードボイルドの歴史は1927年に発表されたアーネスト・ヘミングウェイの短編小説「殺人者(The Killers)」に始まるといわれる。おお、来年で90周年なんだね。

長編小説にこのスタイルを定着させたのがダシール・ハメット(『マルタの鷹』など)であり、レイモンド・チャンドラー(『ロング・グッドバイ』など)であり、ロス・マクドナルド(『動く標的』など)で、彼らをハードボイルド・スクールの御三家といったりする。

いっぽうで、1947年に『裁くのは俺だ』でデビューしたミッキー・スピレーンは、ハードボイルドに暴力とセックスを持ち込み、センセーションを巻き起こし、ベストセラー作家となった。

その代名詞ともいうべき存在が、主人公の私立探偵マイク・ハマー。そして映画界はこの男を見逃さなかった。

1953年の「I, the Jury(裁くのは俺だ)」でビフ・エリオットが演じて以来、ブライアン・キースやラルフ・ミーカーが演じているが、意外に日本で公開されたものは少ない。ダレン・マクギャヴィン、ステイシー・キーチらが演じたTVシリーズは日本でも放送されていたが、さほどのインパクトは残していないのが実情。私の記憶にあるのは1982年にアーマンド・アサンテがハマーを演じた劇場映画「探偵マイク・ハマー 俺が掟だ!」くらいだな。

1962年に刊行された『ガールハンター』を原作とした本作(「The Girl Hunters」1963年)も、日本では劇場未公開、未ソフト化なのだが、ほかの諸作と大きく違うところがあるので、かねてよりミステリファンの間で、作品そのものの存在は知られていた。

はい、ここでタフな私立探偵マイク・ハマーを演じるのは、ミッキー・スピレーン。原作者その人であります。

そりゃあ原作者ほど主人公のキャラクターを知り尽くすものはいないだろうし、作家はその主人公に自らの姿を投影するともいうから、まあ原作者が演じていけない理由はない。ただし演技者としてきちんと芝居ができればの話だから。

その点、このミッキー・スピレーンは、本作の前にも1954年の「恐怖のサーカス」というサスペンス映画で主役を演じた経験がある(作家ミッキー・スピレーン本人がサーカス一座で起きる連続殺人事件に挑むという内容) 顔つきも、タフなマイク・ハマー風だし。この一手を思いついたプロデューサーは、してやったりの思いだっただろう。

その期待に応えて(?)スピレーン先生、そう大きなボロは出さずに、主役のハマーを演じきっている。

秘書のヴェルダを失って以来(このへんは小説の前作『燃える接吻』に書かれているのだが、特に説明はなし。当時はベストセラーだったから、みんな読んでるだろうってことか)酒浸りだったマイク・ハマーだが、瀕死の老判事から彼女は生きているという意外な言葉を聞く。彼女が助けを求めていると知ったハマーは、ふたたび立ち上がるが……

前にもちょっと書いたが、ミステリ小説の映像化はけっこうむずかしい。事件が起きたあとは、ひたすら捜査と推理に終始せざるを得ず、非常に地道なものになりがちだからだ。

それは、ハードボイルド・ミステリでも同じで、主人公の探偵は事件関係者にひたすら聞き込みをして歩くだけ。これを指して「巡礼型」なんて言いかたがあるくらいだ。次から次へと関係者に話を聞いて歩くからだ。

じつは本作もその「巡礼型」の域を出ていない。帽子とコート姿のハマー探偵ことスピレーン先生が、歩きまわる姿がやたらと出てくるのは、そのせいだ。なるほど、これならそんなに演技力は問われないよな。

まあでも、途中に殴り合いなどのアクションもあるし、そう退屈な映画ではない。

いやそれどころか、モノクロの画面構成、ムードのある音楽、そして妖艶なシャーリー・イートン(「007/ゴールドフィンガー」)の魅力などが楽しめて、なかなか良く出来た映画なのだ。1960年代のハードボイルド映画の中でも上出来のほうだというと、褒め過ぎかな。

ソフトに収録されていた予告編の冒頭にあるように、スピレーンの小説は当時ベストセラー。しかもそのなかでも人気のマイク・ハマーものは、10年近くの空白を経て、この『ガールハンター』が久々の復活編だったのだ。

当然、空前のヒットとなって、予告編によれば一気に400万部を売り上げたそうだ。その翌年の映画化だから、映画も大ヒットが見込める。だから予算も人材も豊富に使えたんだろう。出来栄えがいいのも道理だ。

なんとも謎なのは、なぜこの映画が日本で未公開なままだったのか?

映画が作られてアメリカでヒットした1963年には、すでに日本でも原作が翻訳紹介されていたのだから、不可解だ。すぐに公開されても、まったくおかしくない。当時の日本の洋画会社では賄えないほど権利が高かったわけでもないだろうに。

それどころか、その後も、テレビ放映もされず、VHSもLDもまったく発売なし。アメリカではちゃんとソフト化されているのに、日本ではいまだにDVDもブルーレイも出されていないまま。いったいどうしたわけなんだろう? 何か権利上のトラブルでもあるのだろうか?

どなたか事情をご存知の方、お教えください。

画像1

ついでにどこか、この幻の映画、日本でもソフト化しませんか?

  未発売映画劇場 目次

映画つれづれ 目次


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?