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白い頭のハエ

昼寝をしようとウトウトしていたら、ズボンに一匹のハエが止まりました。

これがまた、じつにあざやかな黄色のハエ。ハエというと害虫っぽい「負」のイメージしかありませんが、蛍光イエローをまとったこのハエくん、けっこうオシャレでした。いったいなんという種類のハエだったんでしょうか。

さてハエといえば、「20世紀に書かれたもっとも恐ろしい物語」が思い出されます。ジョルジュ・ランジュランという作家が書いた短編小説で、タイトルもそのものズバリ「蠅」

巨大なプレス機に上半身を潰された科学者の死体が発見されます。自殺と思われますが、プレス機のボタンは離れた場所にあって、自分では押せないはず。関与を疑われた科学者の妻は……という発端から、悪夢のような物語が展開し、これ以上ないような悲劇的な結末を迎えます。

著者のランジュランは両親ともイギリス人ですが、パリで生まれ、英仏両国を行き来して育ったバイリンガルだったらしく、この「蠅」も、最初はたしかフランス版「プレイボーイ」に掲載されたはず。戦時中はフランス軍に従軍したとかで、本人のアイデンティティはフランス人だったのかも。「蠅」が出版されたのも、1957年にフランスででした。

で、この短編小説が知名度を得たのは、映画化されてから。

その「The Fly」は、1958年のアメリカ映画。

なぜか日本では劇場未公開のままでしたが、その後テレビで放送され「ハエ男の恐怖」のタイトルで知られました(ソフト名は「蠅男の恐怖」)。

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頭部のみが巨大なハエと化した怪物みたいなビジュアルが有名ですね。ヘビ女とかワニ男とかゴリラ男とか、こうした「動物との合体怪人」は映画の世界ではけっこう古くからあり、それこそ仮面ライダーの改造人間にいたるまで、無数の怪物が登場していますが、映画の出来ばえと恐怖度で、この「ハエ男」を上回るものはありません。

日本では劇場未公開でしたが、本国ではヒットし、今ではクラシックのひとつになっています(ただし、そのヒットで調子に乗って作られた続編「蠅男の逆襲」、さらにその続編「蠅男の呪い」は、それほどの評価は得ていません)

時は流れて1986年にはリメイク版として「ザ・フライ」が製作され、そちらの続編として「ザ・フライ2/二世誕生」(1989年)も作られています。ハエ男、人気者ですね。

さて、お話しは元々のオリジナルに戻ります。

短編小説「蠅」と映画「ハエ男の恐怖」がそこまでポピュラーになったのは、物質電送装置という仕掛けや、科学が招く悲劇といった作品テーマも一因でしょうが、なんといっても、ラストの戦慄に負うところが大です。というか、このラストを考えついた時点で、作り手側の「勝ち」。

それこそネタバレになるので詳しくは書きませんが、小説でも映画でも、最後は一匹のハエで締めくくられます。

映画のラストは、けっして忘れることができない、あの叫び声。「助けて……助けて……」

そして小説はさりげない一言。「その蠅の頭は、真っ白だったんですよ」

どちらも、いま思い出しても、背筋が寒くなるようなラストです。映画はDVDが発売されていますし、短編小説も短編集『蠅』として翻訳刊行されています(早川書房刊)ので、ぜひ一度「20世紀最大の戦慄」を味わってみてください。


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