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巨大化生物跋扈す

私たちが子供のころ、「放射能を浴びた生物が巨大化する」というのは常識みたいになっていた。怪獣映画やテレビに出てくる怪獣たちのかなりの部分が、こいつらだった。放射能で巨大化した怪獣。

そもそもそんな誤解というかウソ情報がどこから出たモノかは知らない。放射能の影響で遺伝子がウンヌンという文言が独り歩きしたものか。広島でも長崎でもスリーマイル島でもチェルノブイリでも福島でも、現実にはそんな現象は起きなかったので、怪獣マニアとしてはちょっと残念な気がする(笑) だいたい「放射能を浴びる」ってのがすでに正しくないね。「放射線を浴びる」んだよね。

放射能怪獣の走りは何かというと、たぶん1953年の「原子怪獣あらわる」だろう。「ゴジラ」に影響を与えたともいわれる怪獣映画の古典のひとつだが、ここでは恐竜リドザウルスの生き残りが原爆実験のおかげで目覚め、放射能を帯びた体でアメリカに殴りこんでくる。ね、こう書くと、「ゴジラ」のあらすじと固有名詞が違うだけでしょ。

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1960年代には空中核実験が世界中でガンガン行なわれていたんだから「原爆実験の影響」という設定は説得力充分だったんだよ。なにしろオジサンたちは子供のころ、「放射能の雨にあたると、大人になってから禿げるぞ」と脅され、雨の日は帽子をかぶることを強要されていたんだから。実際、当時はプルトニウムとかもガンガン日本列島に降り注いでいたそうだし。誰も放射線量とかベクレルとか、そんなの観測してなかっただけ(禿げるってところはひょっとしたらホントだったかも、と鏡を見て今は思うけど)

そんなぐあいに「日常的に」放射能が意識されていたから、怪獣映画でそれが出てきても、不思議でもなんでもなかったわけだ。

ただし「原子怪獣あらわる」の恐竜は、恐竜なのでもともとデカかったわけで、「巨大化」はしていない。じゃあ、「放射能で巨大化した生物」第1号はなんだろう?

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私はずっと1955年の「水爆と深海の怪物」に出てきた水爆ダコが最初だろうと思っていた。特撮の神様レイ・ハリーハウゼンが手がけた巨大ダコがサンフランシスコに殴りこむ怪獣映画の古典。ちなみにこのタコ、予算の関係で足が6本しかなかったというのはけっこう有名な話。ところが、これよりも前に「放射能で巨大化した生物」映画があった。そいつが同じ6本足だったのは歴史の偶然(笑)

はい、1954年の「放射能X」がそれ。

ここで登場する巨大アリの群れは、まさしく「放射能で巨大化した生物」だった。製作年度も公開年度もこっちが先なので、たぶんこのアリくんたちが巨大化生物第1号なんだろう。これもネバダあたりの砂漠地帯で、空中核実験がガンガン行なわれていた時代ゆえの産物だ。

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ほかにもっと古いのがないかと、邦題に「原子」とか「放射能」「原爆」「水爆」のつく映画をざくっと調べてみたんだが、じつは意外に少ないことに気づいた。おまけにそいつらはほとんどが、核や放射能とは無関係だったりするのだ。

たとえば「吸血原子蜘蛛」「原子怪獣と裸女」「原子人間」は、いずれも原爆とは関係なかったり巨大化しなかったりだし、「放射能」「水爆」が邦題につくのは、さっきのふたつ以外にはない。「原爆」はこの手の映画ではなく、ボブ・ホープの喜劇に「腰抜けと原爆娘」というのがあるくらい。「原爆娘」って、なんだ?

1950年代のアメリカ映画には、核の影響で巨大化した怪物が襲ってくる映画がいっぱいあるっていうのは、どうも誤解っぽい気がしてきた。ただ日本未公開映画が多いので、一度ちゃんと調べてみないといかんかな。

ちなみにこうした「放射能で巨大化した生物」の最高傑作というか、もっとも印象に残っているのは、巨大バッタの群れが襲ってくる「Beginning of the End」というやつ。なかなかいいタイトルだし、主演は「スパイ大作戦」のピーター・グレイブス(売り出し前。1957年の作品だもの)だったりするが、日本では劇場未公開のB級(以下)映画。なにが強烈かって、その特撮のスゴさだ。

ミニチュアセットに本物の生物(トカゲや虫)を入れて大怪獣に見せるのは、よくある手だが、これはそれ以下。ミニチュアすら作らず、どう見ても2次元のビルの写真の上にフツーのバッタを放しただけ(!)とても巨大バッタにゃ見えないが、そんなことは百も承知の上だろう。なかにはビルより上の空を這い回るバッタ怪獣までいるのに、おかまいなしだし。そりゃミニチュア作るよりも安いだろうけど

こんな映画でもDVDが発売されていて、邦題は「世界終末の序曲」 笑わせんなよ(笑)

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と、あれからちょうど70年という日にそんなことばかり考えられる程度に、日本は平和なのだよな。

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