未発売映画劇場「ソルト&ペッパー2」

まずは順番として、「君は銃口/俺は引金」にふれなければならない。

1968年に製作され、日本でも翌年にちゃんと劇場公開された作品。原題の「SALT AND PEPPER」が示すように、ロンドンのソーホーでナイトクラブを経営するチャールズ・ソルトとクリストファー・ペッパーのお気楽コンビがスパイ戦に巻き込まれて大奮闘というコメディアクション。

そもそもはシナトラ一家の構成員であるサミー・デイビス・ジュニアとピーター・ローフォードが自分たちで製作・主演したもので、ほとんど内輪で遊んでいるような印象がある。ま、シナトラ一家のこの手の作品は「オーシャンと11人の仲間」など、だいたいそんな雰囲気で、そこがいいんだけど

黒人のサミーがソルト(塩=白)を、白人のローフォードがペッパー(胡椒=黒)を演じるというのがミソで、ひょっとしてそこだけ気に入った二人が悪乗りして作ったんじゃなかろうか。ちなみに最初のほうでこの白黒混乱のギャグがあるが、これは今では「政治的に正しくない」とか言われそうだな。

さて、この作品が好評だったのか、それとも当人たちが面白がったのか(たぶん後者)、1970年に続編が製作される。

こちらは「ONE MORE TIME」というタイトル。そのまんまだな(表題の邦題はオレ製です)

残念なことに(そうか?)日本では劇場公開されず、テレビで大規模にカットされたバージョンが放送されただけ。私は土曜日お昼の放送でたまたま遭遇したのだが、不可解なのはその日の夜に「君は銃口/俺は引金」が、別のチャンネルで放送されたこと。偶然だったのか、それとも狙ったのか。でも順番、逆だろ。

「君は銃口/俺は引金」は、のちに職人監督として名を成すリチャード・ドナーが監督していたので、それなりにスリルとサスペンスらしきものもあったのだが、この続編ではコメディアンとして超大物のジェリー・ルイスが監督したので、全体にコメディ色が濃厚になってしまった。映画全体のバランスを崩すほどにね。

例によって警察とゴタゴタしたソルト&ペッパーは高額の罰金を科せられ窮地に。ここでペッパーの双子の兄(前作では話も出なったが、いたんだよ。文句言うな。もちろんローフォードの二役)が登場。これがじつは貴族で資産家。さっそく無心に行くペッパーだが、その目前で兄は急死。そこで一計を案じて死んだ兄に成りすます。ところがその兄を狙ってる連中がいて……

後半は「ダウントン・アビー」みたいな貴族生活がネタになり、そこにアメリカ丸出しのサミーが絡む趣向。そういえばローフォードは実際に英国上流社会の出なので、ピッタリといえばピッタリ。舞踏会やキツネ狩りのシーンなど、なかなか見せることは見せる。

とはいえ、まぁベタ以外の何物でもないギャグストーリー。監督が監督だけに、コメディはお手の物ではある(ジェリー・ルイスはかつて大ヒットコメディの「底抜けコンビ」で一世を風靡した。ちなみにそのころの相棒がシナトラ一家の大番頭のディーン・マーチン)

ただ、いかんせんギャグセンスが(1970年の時点でも)かなり古臭い。なにかというとドカンと爆発したり、転んだりというギャグの連続で、ほとんどコントレベル。さらにはダジャレと顔面芸も盛りだくさんのうえ、それらのギャグ自体はストーリー上なんの必然性もない。こういうと気の毒だが、完全にスベってる

さらに厳しいことに、歌手として一級品のサミー・デイビス・ジュニアが当然のように歌を披露するシーンがいくつか挟まるので、その間ストーリーは進まず、見ていてイライラするかもしれない。

そんなことは気にせずに、テレビの「サミー・デイビス・ジュニア・ショー」でも見てる気になって、サミーの至芸を楽しめばいいし、そもそもそういう映画なんだろう。

ま、こういうものを好きな人は気楽に楽しめばよし、そうでない人は無理に見ることはない。そんな映画でありました。

ところで、前述したテレビ放送の際のタイトルは「罠にはまった二人/密輸ダイヤをひとり占め」というもの。やる気ゼロな感じだし、さっき私が慎重に避けたネタバレをモロにやってるじゃないか。いいのかそれで(笑)

そしてその際には(たぶん)カットされていたシーンに大きな見どころがあったことを、今回初めてオリジナル版を見て発見した。ここだけでも見て損はないかも。

それは、酔っぱらったソルトが屋敷の地下室に迷い込むシーン。酔いのせいか、そこで幻影を見るのだが、その幻がけっこう見せるのだ。

それは、なぜか地下室にモンスターたちが集結していてビックリ仰天という、そのものは意外としょうもないシーン。短いし。

しかし、なんとそこにクリストファー・リーのドラキュラ伯爵とピーター・カッシングのフランケンシュタイン博士のお姿があるのだ。一言ずつだがちゃんとセリフもある。おお、大英帝国ホラー映画を代表する二大巨頭の共演。これは(ムダに)豪華だ。かなりの怪奇映画ファンでもその存在を知らないかもしれない、わずか1分足らずのシーンだが、必見ですぞ(嘘)

ただその背景を考えると、うーん、当時は斜陽だった英国ホラー映画の両巨頭がハリウッド資本に使いまわされたってことなのかな。ちょっと不憫だったりして。

最後のほうは完全に楽屋落ちと内輪受けに終始するこの映画、ラストで二人が「続きは次の作品で」とか口走っているが、もちろんソルト&ペッパーのシリーズは、二度と作られることはありませんでしたとさ。

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