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しくじり商品研究室:パーカー・5th

商品を企画する際に、ヒットに導くのは難しいのですが、反対に失敗要素を極力減らしていくことなら比較的実行しやすいです。
ここでは、失敗した商品の原因を知ることで、失敗要素を減らす参考になればと思います。
(トップ画像引用元:https://www.watch.impress.co.jp/docs/news/1392638.html

パーカー・5thの例

パーカー・5thとは

イギリスの高級文房具ブランドである「パーカー」が製造・販売する筆記具です。実は私、初任給で買ったのがパーカーの万年筆で、パーカーは大好きです。
パーカーは2011年に新しい筆記具のシリーズ「インジェニュイティ」を発売します。パーカーではこの商品に使われた技術を”第5世代”の筆記具と位置付け、「5th」と呼びました。
いったい、何が第5世代なのか・・・?

パーカー5th。一見、万年筆のようだが、水性ペンのようなペン先からインクが出ている。
(引用元:https://www.pen-house.net/item/34585.html)

パーカーによると、筆記具は、
・第1世代:万年筆
・第2世代:ボールペン
・第3世代:ローラーボール(水性ペン)
・第4世代:シャープペン
と進化し、それらを超えた「奇跡の書き味」「万年筆でも、ボールペンでも、ローラーボールでも、シャープペンでもない、まったく新しいペン」がこの第5世代の「5th」だ、ということです。
当時、私も試し書きを行いましたが、独特な書き味だったことを覚えています。

さて、この5thの特徴をまとめると下記になります。
・万年筆のようにしなり柔らかな書き心地である。
・ペンの先端が削れることで、自分の筆記角度にあった形になじむ。
・書いた後のインクの速乾性が高く、かすれない。
・ボールペンと同じインクリフィル交換式でメンテナンス簡単。

パーカー5thの特徴
(引用元:https://www.ippitsukan.com/parker/parker5th/)

万年筆の良さを受け継ぎながら、従来の筆記具の良い点をプラスした、といった印象です。
2011年の発売から10年以上たった今も販売はされているので、失敗した、とまでは言えないと思いますが、一時増えたラインナップも今では基本2ラインナップに減っていますし、登場時は5th専用だった「インジェニュイティ」シリーズも万年筆やボールペンといったラインナップを加え、バリエーションの一つになっています。なかなか上手くいっている、とまでは言えないのではないでしょうか。

しくじり要因

5thと銘打つほど先進的でありながらも、それまでの筆記具に取って代わることはできなかった理由はなんでしょうか。
ベンチマークしていたのが、万年筆だったことが要因だと思います。

改めて、5thの特徴を見ながら、第4世代までのペンと比較してみます。
・万年筆のようにしなり柔らかな書き心地である。
 ⇒万年筆で達成されている。
・ペンの先端が削れることで、自分の筆記角度にあった形になじむ。
 ⇒万年筆で達成されている。
・書いた後のインクの速乾性が高く、かすれない。
 ⇒一部のボールペンや水性ペン、シャープペンで達成されている。
・ボールペンと同じインクリフィル交換式でメンテナンス簡単。
 ⇒ボールペンで達成されている。
つまり、従来の筆記具の良さを混ぜ合わせたものと言えるでしょう。
ところが「ペンの先端が削れることで、自分の筆記角度にあった形になじむ」については、インクリフィル交換式としたことで、一定期間ごとにリセットされます。万年筆の場合は、ペン先の金属がすり減ることで自分に合うので、一生ものの変化になり、リセットされません。
つまり、従来の筆記具の良さを混ぜ合わせた結果、万年筆の良さは一部損なわれていることになります。

ペン先を自分にあった形に育てるのも万年筆の楽しみの一つ

しかし、違う見方では、従来の筆記具の良さに、万年筆の要素を付け加えた、とも言えるはずです。
ところが、商品の立ち位置がそうはなっていません。
まず、万年筆を意識したデザインです。万年筆のペン先のようなデザインを採用しています。
次に、価格です。1万円から2万円前後と、パーカーのエントリークラスの万年筆が買える価格帯で、少なくともボールペンやシャープペンの延長とは言い難い価格です。
これらは、情緒価値を高め、高価格で販売するために、万年筆の要素を取りいれた結果だろうと思います。
こうしてできあがったものは、まったく新しい筆記具ではなく、インクリフィルでお手入れが簡単な万年筆、いわば「セカンド万年筆」になってしまったのが5thの本質だと思います。セカンド万年筆が万年筆と同様の価格帯で売られているので、なかなか広がらないことは想像に難くありません。

掛け合わせ商品は難しい

なぜ、パーカーは5thを万年筆と同等価格で出してしまったのか、考察すると、万年筆よりも速乾性やお手入れ性の機能性が勝っているために、同じ価格ならむしろ万年筆よりもお買い得である、と考えたのでしょう。
ところが、掛け合わせ商品は往々にして、良いところどりあり、悪いところどりになり、中途半端な商品になることが多いです。
そもそも、今回の5thも「まったく新しい筆記具」を標榜していたのに、これまでの筆記具の良いところどりを目指した商品開発になってしまった点で、コンセプトのズレが生じています。
もっと踏み込むと、パーカーの言う万年筆⇒ボールペン⇒ローラーボール⇒シャープペンという”進化”も本当に進化なのでしょうか?今も現存していることを考えると、それぞれに違う価値、用途があり、筆記具の選択肢が増えているだけだと感じられます。こういった前提条件の分析の甘さも、中途半端な商品に繋がっているのだと思います。

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