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人の話が聞こえない。 Vol.4/宮田岳(ベーシスト、漆・木工作家)

こんにちは、新橋のOLラッパー・ノセレーナです。先日、東京民藝協会に入会しました。小鹿田焼が好きです。

この連載「人の話が聞こえない。」は、自分の世界を持ち過ぎているせいで人の話があまり頭に入ってこない。そんなメンバーが集まり、ユニークな生き方をしている人の話を聞きに行こうというインタビュー企画です。

第4回目のゲストは、2018年に活動休止となったロックバンド「黒猫チェルシー」のベーシストで漆・木工作家の宮田岳さんです。宮田さん行きつけの焼き鳥屋さんにて、お話を聞いて参りました。


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宮田 岳(みやた がく)
https://miyatagaku.amebaownd.com/
1991年2月1日生まれ。ベーシスト、漆・木工作家。2010年、黒猫チェルシーとしてメジャーデビュー。2018年秋、活動休止。筑波大学芸術専門学群、同大学院卒。木工・漆の研究室に所属し、2016年度修了制作が大学に収蔵される。2018年4月より、NHK Eテレ番組「シャキーン!」内でコーナー「がっちゃんのえんぴつ一直線」を担当中。


― 初めまして、ノセです。本日はよろしくお願いします!

よろしくお願いします!

― 宮田さん、黒猫チェルシーでベースを弾きながら漆・木工作家をされていたと知ってびっくりしました。小さい頃からものをつくるのがお好きだったんですか?

家にあった漫画『ザ・シェフ』の影響で、将来の夢はシェフになることでした。あと、小学生の頃、料理本で「よもぎ団子」の作り方を見て、道に生えているよもぎが料理に使えることにワクワクした思い出があります(笑)。

― そういう原体験があったんですね。ご両親も芸術関係の方なんですか?

父は教師で、母は助産師です。厳しい…というか、ちょっと変わった家でした。TVで流れるのは基本的にNHKとプロ野球だけ、みたいな(笑)。

― そこからバンドマンに育っていく想像がつきません…!

小学生の時に、兄が貸してくれたカーペンターズを聴いたらしっくりきて、音楽が好きになったんです。流行りのJ-POPにはピンと来てなかったですね。あ、でもCHEMiSTRYは「おっ」と思って聴いていました。

― へええ、カーペンターズ。

BSで流れていたカーペンターズのライブ映像を見たら、「雨の日と月曜日は」って曲の中にサックスのソロがあったんです。それで初めて「パート」として音が聴こえて。

― それでバンドを始めたんですか?

バンドを始めたきっかけは、黒猫チェルシーのギター澤ですね。

― 澤さんとの出会いについて教えてください。

澤は小さい頃からの幼馴染なんですけど、小学生の時にもうクイーンとかボン・ジョヴィが好きで、「音楽好きなやつ集まれー!」って学校で呼び掛けてたんですよね。僕もカーペンターズが好きだって話をしたかったから、自然と仲良くなりました。

― その出会いから黒猫チェルシーデビューの道へ向かうんですね…!

いや、澤は中学生の時にもう「俺はロックで東京に出るんや」みたいなことを言っていたんですけど、自分は「勉強して大阪大学に行くんや」と言ってるような冷静な人間だったから、付き合いきれないなーと思って。一度疎遠になりました(笑)。

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― ええ!? 温度差があったんですね。

自分は進学校に行っていて、澤と別の高校だったんです。

― そこからどうやって黒猫チェルシー結成に至るんですか?

高校2年生の時にベースをやらないかと、澤から声をかけられました。何度も断ったんですが、どうしても!というので「1回だけライブをやって辞める」という条件でやってみることにしました。

― 最初はしぶしぶ、だったんですね。

そうなんです。そっからですよね、僕の人生おかしくなったの(笑)。

― あはは。その1回目のライブはどうでしたか?

実は、黒猫チェルシーのギター澤とドラム岡本は小学生からバンドをずっと続けていて、高校生の頃には地元公認のバンドになっていました。それで「さくらまつり」っていう自治会主催のイベントに出ることになって、演奏してみたら思ったより面白かったんです。何か扉が開けた感じがして。

― 漫画みたいです!

それで、高校2年生の時にバンドコンテストみたいなTV番組に出たら、メジャーデビューが決まりました。阪大に行くつもりだったのに、大学受験をしなくてもいいことに(笑)。

― ええー、すごい。

でも、せっかくだし記念受験だけでもしておくかとセンター試験を受けました。そしたら、筑波大学の芸術学部に受かったんです。

― えーーー!

誰も思わなかったですよ、僕が大学に受かるなんて(笑)。

― 秀才ってこわいです…。

あはは。それで、大学入学と同時にメジャーデビューしました。大学1~2年生の間で半分の単位しか取れませんでしたが、バンドが忙しくなってきてレコーディングやライブの時間を割くために、2年間休学しました。

― メジャーのバンド活動と学業の両立は難しそうです。

そうですね。でもせっかく入れた大学なのだし、卒業まで頑張ってみようという気持ちで、23歳の時に復学しました。

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宮田岳さん(左)、筆者(右)

― 復学して、大学生活はどうでしたか?

それが、大学で特にやりたいことがなくて。唯一興味を持った先生が木工と漆をやっていたんです。その先生は、伝統工芸を網羅しつつ、有名なファッションブランドとコラボしたり、作品の見せ方がうまい人で。どうせ何もやりたいことがないんやったら、あの先生が気になるしやってみるかなーと、先生の元でまず漆の勉強をはじめました。

― はじめてみてどうでしたか?

実際にやってみると、一筋縄じゃないんすよね。漆って、塗るのが単純に難しいっていう。少し話はそれますが、僕は小学校でサッカー、中学で吹奏楽部をやってました。吹奏楽で女子の世界を見て「もうイヤや!」と思い、体力に自信はあるし大丈夫だろうと高校でラグビーをやってみたことがあって。そしたら筋肉の世界で大変過ぎて、半年で辞めたことがあるんです。

― 宮田さんがラグビー部でタックルしてる姿、想像つかないです(笑)。

あはは(笑)。その経験があり、自分は中途半端な人間なんじゃないかとトラウマになっていました。大学はそうしたくなかったから、技術を突き詰めたいと思いました。

― トラウマをバネにしたんですね。大学の卒業制作は何を作ったんですか?

「乾漆」っていう技法で作品をつくりました。仏像に多いやり方です。

乾漆(かんしつ)
漆工の技法の一つ。また東洋における彫像制作の技法の一つで麻布や和紙を漆で張り重ねたり、漆と木粉を練り合わせたものを盛り上げて形作る方法。(引用元:Wikipedia)

― む、むずかしそう…。

在学中、この技法をずっとやっていましたが、2年じゃ足りないぞ!と思って大学院に入りました。10時間くらい人と喋らなくても集中して作業ができるという自分の特性に気づきましたね(笑)。

― すごい集中力です。大学院はどうでしたか?

大学院の2年間は、僕の人生の中で圧倒的に大切な時間になりました。

― 印象的なエピソードがあれば教えてください。

漆を使った作品を制作していて、ある時ハッと「人の手で作り出したものは必要ないかもしれない」と感じたことがありました。一般的に、漆は“自然由来のものだから美しい”と思われているんですけど、それを使って作品をつくるのって、既に美しいものに人の手を加えるという、無意味なことをやっているように感じたんです。

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― なるほどー。

人が生み出すよりよっぽどスマートなものが自然の中に沢山ありますから。そう思ったのが大学院1年の頃です。それであえて、人工的な作業である木工をやりだしました。

― どんなものを作ったんですか?

棚とか楽器置きとか、そういう実用的なものをひたすら作りました。無理に自然の美しさに寄せようとせず、人間らしいなって。

― 確かに。

人間がやることなんだから、自然の美しさに勝つ必要はないんです。それで、自然の美しさを持つ漆、機能性が求められる木工、この2つが融合したら面白いんじゃないかと思うようになりました。「自然の美しさを、人間の視点でどう切り取るか」この考え方がいまの僕の生き方のベースになっています。

― 実用的、という話でいうとご自身で新しい楽器をつくろうと思わないんですか?

自分がステージ上でやっているのは西洋音楽なので、その中でやるときに何百年も残っている楽器はやっぱり理由があって。だから、自分で新しい楽器をつくろうとは特に考えませんね。

― そうなんですね。では、音楽の話も伺っていきたいと思います。ベーシストは誰がお好きですか?

鈴木勲さんを1番尊敬しています。

― ベースのどんなところがお好きなんですか?

ベーシストは、アンサンブル(調和)が楽しめる人なんですよね。バンドの要になりますし。結構面白いですよ、ベース。ドラマーは変人です! だって耳の周りでシンバルの爆音を聴いているんですよ(笑)。自分でリズムを叩き出さないと音楽が始まらないっていうのもヤバいと思います。

― あはは、確かにおっしゃる通りです(笑)。最近はどんな音楽を聴きますか?

最近聴く音楽…うーん。例えば、寿司職人が家に帰って寿司食わないですよね。そんな感じでロックはあんまり聴かないです(笑)。聴いてビートルズですね。

― オススメの音楽があれば教えてください!

1930年代のジャズやクラシックはいいですよ。何がいいかというと、その当時に残されている音楽は、歴史に残さないといけない音楽だから圧倒的なんです。パブロ・カザルスとか、デューク・エリントンとか。

― わあ、聴いてみます。ちょっと踏み込んだ質問なのですが、黒猫チェルシーが休止してから、どんな心境ですか?

ありがたい事に色んな人が期待を込めて仕事をくれているので、充実してます。

― 音楽を仕事にするってすごいです。

今はコントラバスの練習を柱に、いくつかバンドをやったり、NHKの番組も含め、色々やってます。好きな事しかやってない人生ですから、親の心配事は「ソレで食べていけるのか?」未だにそれだけです(笑)。

― 将来のイメージはありますか?

イメージというより、ひとつひとつ丁寧に応えていく事です。ベースで人に呼んでもらってお金になれば最高だし、美術は、続けてれば何か良いことがあるんじゃないかって思ってます。

― 最後に、この「人の話が聞こえない。」は生きるのがあまり上手くない人に勇気を届けたいという想いで始まった企画なのですが、そんな読者の皆さんにメッセージを下さい!

とにかく、死ななければ大丈夫ですよね。何か好きなモノや人が1つでもあれば幸せ。生きていて、1つでも気になるものがあればいいと思います。

― ありがとうございました。今後のご活躍も応援しています!

こちらこそ、ありがとうございました!


***人の話が聞こえた。編集後記***

取材中、宮田さんは笑顔が溢れる和やかな人という印象でした。ところが、お店を出てメインの写真を撮影するためにカメラに向かって身を構えた瞬間、隣で「バシッ」とキメるスイッチが入る音が聞こえたのです。びっくりしました。本物のロックスターでした。

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(取材後、上野アメ横にて)

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Editor:ノセレーナ(OLラッパー) 
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