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無料から始める歌モノDTM(第20回)【雑記編③コラボレーション作品『Table』】

はじめに

はじめましての方ははじめまして。ご存知の方はいらっしゃいませ。
ノートPCとフリー(無料)ツールで歌モノDTM曲を制作しております、

金田ひとみ

と申します。

前回より【調声編】を始めましたが、本編に移る前に少し寄り道でコラボレーション作品のご紹介をしておきたいと思います。
以前も一度コラボしました作詞者のSFTさまからのご要望で、今回はバラードに挑戦しております。

『Table』
作詞:SFT
作曲:金田ひとみ

浅く表面に浮かぶ灰汁 それ位しか知らない
深い層までは未知な 人生全うするつもり

幼い頃 ふわり描いた 固定概念に縛られた
将来のイメージとは 異なる歩みを進めた

これだから 君は面白いだなんて そんなしたり顔しない

何気なく特別でない 普段の会話繰り広げる
それだけでいいんだ 高尚なテーブルでなくていい

体幹と鋭さ失う現代人 でも各々に夢がある
青雲之志抱いてる 人生完遂予定

これだから 夢は手強いなんて 知ったかぶりしない

誰も知らない普通 そんな自分で居れる
それだけでいいんだ 優しい微笑み待ってるから

平等に流れる 時間というフォーマット 損益分岐点 珈琲で有耶無耶

何気なく特別でない 普段の会話繰り広げる
それだけでいいんだ 高尚なテーブルでなくていい

何気なく特別でない 普段の会話が出来る
此処から全てが始まる 料理が並ぶ そんなテーブルの上がいい

作品解説

このnoteは初心者向け作詞作曲技法も兼ねていますので、普段はあまりやらないテクニック的な観点からの解説を今回は試みてみます。
(初心者向けにしてはちょっと……いや、めちゃくちゃ難しいかもしれない……。)

曲全体について

今回も前作『切り札』と同様、歌詞改変はおこなっておりません
音数調整や雰囲気作りのために一部リフレインやスキャットは用いています。
SFTさまも私の記事を読んでいただいているようで、前回より構成などさらに意識されているのかなと感じましたので、特に改変をする必要はありませんでした。

構成としては典型的なABサビ曲。近年の日本人に一番馴染みのある王道ポップスバラードです。

イントロ→
Aメロ1
Aメロ2Bメロサビ
間奏→
Aメロ
Bメロサビ
Cメロ
→ギターソロ→
落ちサビ
ラストサビ
アウトロ

太字が歌詞で既に確定している部分。細字は私が作曲者として追加した部分です。
作詞時点でここまで構成がしっかり決まっていると、作曲者としては特に手を加えることはありません。
やや苦戦したところといえばサビにリフレインが無いため、1発で印象づけなければならない点でしょうか。
実は参考曲でいただいた曲はサビ全体が2回リフレインされている、要はサビ1→サビ2となっているパターンの曲でした。ですのでそのままでは応用できません。
それをどうクリアしたかを後ほど解説します。
ちなみに参考曲は某男性シンガーソングライターの超有名バラードです。個々のメロディーやコード進行などは別物ですが、全体として似た雰囲気になるように聴き込みはしています。オフィシャル動画だけでなくライブ版も参考にしました。
曲名は出さないでおきます。もし当てれたらスゴイ⁉(笑)

今回、最初は曲先でどうかとのお話もいただきましたが、またもや完全詞先でお任せしております。
私の場合メロディーが浮かんだ時点で歌詞やその元となる母音等の響きも同時に出て来ることが多々ありますので、歌詞決め打ちのほうが余計な情報が入らずに作りやすいです。これは作曲者によるでしょうか。

目指すところがあり、コンセプトや構成がしっかり練られているのであれば、メロディーやアレンジは自ずと絞られます。私が技術的に持っているいくつかの選択肢の中から選んでいるといったところです。
作曲自体は2日ほどで終わらせ、調声なしの仮歌状態で一度ご確認いただきOKをいただいたので、あとは微調整とアレンジ楽器を増やしていく作業。完成までメロディーにはほぼ手を加えていません。

前作と同様いただいた歌詞をすべてモーラに分解して、過不足分はメロディーとアレンジで違和感無いように当てはめました。
ですのでAメロ3つ、Bメロ2つ、サビ4つ、それぞれ実は違うメロディーです。拍の入り方や音程もほんのわずかずつですが変化を加えています。
単純な繰り返しではないので、カラオケで歌おうとすると激ムズタイプの曲。

サビの印象付け

今回は主にサビの作曲技法について解説します。全部やると莫大な記事になるのと、サビが曲の顔であり、そこにほとんどの技術が詰まっているからです。

さて、サビを一発で印象づけるためにやったのが、歌詞に無いリフレインです。
改変とまではいかないのですが、元歌詞をそのままなぞっていない箇所があります。

サビ3つの「それだけでいいんだ」とラストサビの「此処から全てが始まる」の部分です。
それぞれ、「それだけでいい それだけでいいんだ」と「此処から全てが 全てが始まる」とリフレインさせています。

この部分もロングトーン化で一応作曲出来るのですが、モーラ数的に少なく間延びしてしまうのと、いただいた参考曲と違ってサビ全体ではリフレインしていないため、メロディーに乗せた時、高音・ロングトーンばかりが多くなって”もたついて”しまいます。
そこで印象を残そうとするなら、リフレインが対比的に一番効果が高いと考えられます。
つまりサビを印象付ける高音・ロングトーン・リフレインの3要素を分配したということです。

詳しく見ていきます。ちょっとガチ目の解説。
例えば1番サビは以下4つのパートに分けられます。
()括弧内の数字はモーラ数です。

①何気なく(5) 特別でない(7) =(12)
②普段の会話(7) 繰り広げる(6) =(13)
③それだけで(5?) いいんだ(4?) =(9)
④高尚な(5) テーブルでなくていい(5+5or8+2 =10) =(15)

サビは小節頭より前のめりでメロディーを乗せています。
一応、小節頭より遅らせたバージョンも試しました。
しかし遅らせサビだと歌い出しの音が取りやすいので安定感は増すのですが、そのぶん感情表現的にどっしり・ゆったりしたものになってしまい、ちょっと古い歌謡曲っぽくなってしまうので前のめりサビを選択しました。
参考曲も前のめりサビですので、そこは合わせました。
イントロ・Bメロ・サビが前のめり、Aメロ・Cメロが遅らせで作っています。

さて、サビのモーラを分割すると上の①②③④のようになっています。
④つ目のパートの後半は10でカウントしていますが、「テーブルで+なくていい」(5+5)or「テーブルでなくて+いい」(8+2)に一応分割できます。いずれにしろ他と比べて長いので、次の間奏に被せるか1~2小節間を挟む前提になります。最終的には間奏に被せています。

そして各パートのモーラ数を比べてみると、12、13、9、15となっていて③だけが短いことが分かります。もし③をロングトーン化すると間延びするのはそのためです。
特にこの数え方だと③後半が4モーラしかなく明らかに足りない。
「い~い~ん~だ~」みたいなダレた感じになってしまう。それまでのリズムが壊れて、もたついてしまいます。

「それだけでいいんだ」という歌詞そのものは平易な言葉ながら印象に残りやすい、いわばコンセプトを体現する山場の部分です。しかしそこが間延びしてしまってはサビとしては失敗です。
前のめりにしたことによるトレードオフと考えられます。あっちを立てればこっちが立たずというやつです。

そこで、細分化したときの各パートに改めて役割を持たせることにしました。
4つに分けられるということは、私の過去記事を読まれた方なら勘付かれるかもしれませんが、この短い中でも起承転結構成を使えるということです。

パート①は低音域から連続して一気に高音域に駆け上がる。その際リズムを繰り返してサビの土台を作る。声に出して読んでみると分かりやすいのですが、作詞の時点でそのリズム感がありますのでそれほど難しくはありません。ここが「起」に当たります。
パート②は①の上がり方とリズムを引き継いだままさらに最高音域に到達させています。「起」を引き継いでいるので「承」です。

そしてパート③に求められる役割は「転」
そこで③は①②のように連続して高音域に駆け上がるのではなく、半音を取り入れたいわゆるエモい」感じの上がり方をさせています。
ここまではあっちこっちの解説動画なんかで見かけるありがちな作曲テクニックでも一応クリアはできます。
ただコード進行がちょっと変わり種で、解釈によって変わりますが
[G→Gm6onF#→F♯m7onB→E7onG#]
とかそんな感じ。
私はそれほどコードから作曲するタイプではないので正直どう解釈しようがなんでもいいです。2コード目のギターは6弦から[F♯,A,E,B♭,D,G]とかいう親指まで使ったコード表にも載ってない押さえ方で、[Em7♭5]といったハーフディミニッシュでの解釈もできるかと思います。6個も別の音程を使ったら普通ただの不協和音なのでコード表には載ってません。
コード進行としてトニック/ドミナント/サブドミナントのどの機能を果たしているかのほうがまだ意味を持ちます。一応ドミナント機能です。
コード進行丸暗記からの作曲法だとこういった音になかなか辿り着けないのもあって、私はコード進行解説はあまりしていません。
まずは構成ありきです。

むしろ歌詞をどうやって印象付けるか。こっちのほうがよほど難しい。
そこで歌詞そのものを読解します。

しっかり読んでみると③が他のパートと違うのは、他パートが文語調書き言葉)なのに対して、「~んだ」の部分だけが口語調話し言葉)であるということ。
他パートと語調を合わせるなら「それだけでいい」でも意味は通じます。
この辺が作詞の”妙”みたいなものだと思います。こういった些細な部分に感情の表出を読み取れるかというのが分析力が試されるところ。
「それだけでいいんだ」という言葉が本来持つ”相手に語りかけるような”あるいは”自身に言い聞かせるような”雰囲気を、リフレインさせることで強調できるのではないか、と私は考えたわけです。

モーラ数でカウントし直した場合、
③それだけでいい(7) それだけでいいんだ(9) =(16)
となり音数が詰め込まれるため、「①②の高音・ロングトーン」対「③のエモい半音・ショートトーン・リフレイン」の対比が生まれます。
これなら「転」の役割をしっかり果たせそうです。
12、13、16、15とモーラ数でカウントした時の山場の流れも自然なものになります。

最後のパート④中低音域に降りていって「結」
1番サビのここではもう大きなメロディーの変化はさせません。それはラストサビに取っておきます。
曲の一部だけではなく全体の構成で捉え直した時のバランスです。

ラストサビでは曲中の最高音をパートの②に当てています。
そして③がそれまでと歌詞が変わって「此処から 全てが 始まる」に変わっています。真ん中の「全てが」を分割できないのでモーラ数で4、4、4=12
これを「此処から全てが」(4、4=8)と「全てが始まる」(4、4=8)に分割し直して8、8=16。③全体で他のサビの③と同じモーラ数16に合わせています。

あとラストサビの特徴として最後の「高尚なテーブルでなくていい」の部分が「料理が並ぶ そんなテーブルの上がいい」になっています。
「料理が並ぶ」の一文が追加されています。ここを活かしつつ「そんな」の部分まで含めてメロディーを変化させ曲全体の結末に繋ぐタメを作れます。

もうひとつ、最初歌詞をいただいた時は「テーブルの上”で”いい」だったのですが、後日わざわざ「テーブルの上”が”いい」に修正版を送ってこられたので、それを活かす形で「うえがいーいー」と強調しています。
実はこの部分だけハモの変化があります。
それまで基本3度下ハモで通していますが「テーブルの」はユニゾン、「上がいい」は3度上ハモです。まぁ、まさに「上がいい」ってことで(笑)。ちょっとした遊び心です。
薄く重ねているので音としては集中して聴かないとほとんどわからないようにしているのですが、無意識に感じる響きの明るさが変わってきます。

最後はスキャットを入れたアウトロで、上がり切った感情の余韻を残すために入れました。これは参考曲をオマージュしています。
またアウトロのピアノの伴奏は「テーブルの上がいい」のメロディーとユニゾンで弾いたあと、そのまま他のイントロ間奏より1オクターブ上をキープして弾いています。これも響きの明るさを出すためです。
最後の右手の高音和音と左手の低音ルート音はピアノの全音域のほぼ最高音とほぼ最低音で、実際に演奏した時に広く手を広げたような終わり方で締めくくっています。テーブルいっぱいに両手が広がっている感じですね。曲のコンセプトを表現するアイデアの一つです。

サビ周辺だけでこれくらいはテクニックを突っ込んでいます。
うん、まぁ作曲って書き出してみると案外大変ですね。

結び

こんな感じで私の作曲法は、これまでの記事で書いてきたような自分なりの理論やテクニックで構築しています。
コンセプト、構成、印象的なサビ、言葉の意味と音、スキャットなど各回で取り上げた話題が活かされているかと思います。
アレンジやハモについてはこれまであまり触れていませんが、ハモは今後の【調声編】でも取り上げる予定の話題なので先に少し触れておきました。

私は勘やセンスだけで作っているわけではありません。自分の持っている理論やテクニックのうちどれを選ぶかという点に私なりのオリジナリティーを出しています。
引き出しが多いに越したことはないでしょうが、どれを選ぶかというのは人それぞれですのでこの作曲法が正しいというものはないと思います。
ただし何事も一朝一夕で自由自在に操れるようになるわけではないので、こればっかりは積み重ねです。
その積み重ねに私の記事が少しお役に立てれば幸いです。
(……といっても今回はいつも以上に難しかったかもしれない。慣れれば、まぁ(汗))

最後にSFTさまの記事へのリンクを張っておきます。

次回予告

次回は【調声編】本編にちゃんと移ります。
書き進めてはいるんですが、図解とか増やそうと思っているのでしばしお待ちを……。

それではまた。
Thank you for reading!

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