2人のタブー

 2年近く付き合っていた恋人がいた。お互いの仕事の休みは合わなくて、会うのはいつも日付が変わる時間帯。たまに行くデートも毎回同じ場所で、いつの間にかいつもと違うことをするのは2人のなかでタブーになっていた。

 お互いの好きな音楽、食べ物、嫌いなもの。ほとんどのことは知っていた。本当は知らないことのほうがもっと多いはずなのに、知っているつもりになっていた。お互いのことはお互いがよく知っている。そんな誤解が2人の溝を深めていった。

 いつもの時間、あの場所でいつものように恋人と会う。だけど何かが違う。いつもと違うことは2人の中でのタブーだったのに恋人はいつもと違った。

 「別れよう」恋人はそう言った。私は「わかった」と返す。お互いのことを知り過ぎている、これ以上知りたいことはない。お互いに興味がなくなった。これが2人で出した答えだった。

 それから3年くらい経って、ラインのタイムラインにかつての恋人が新しい恋人と楽しそうに笑っている姿が目に留まる。冷たいものが嫌いだと思っていた、かつての恋人がかき氷を美味しそうに食べている。

 2人で過ごす時間が長くなればなるほど、お互いのことを知っているつもりになる。特に約束したわけでもないのに、暗黙のルールみたいなものができてしまう。長く関係を続けるためにはこの暗黙のルールみたいなものについて話し合う機会を設けるのがいいのかもしれない。

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