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ミッキーに救われた支援員の話

知的障害者の施設で働いていた時、宿泊行事で東京ディズニーランドに行った。
当日は雨で、私はまだ仕事に不慣れで、班の利用者さんはみな浮き足立っていた。
絶えず声をかけたり手を繋いだりしていないとどこかへ行ってしまうにちがいなく、しかし傘をさしかけてやらねば濡れてしまう。
半分パニックだったけれど、班別行動だったので頼れる人はなかった。

ひとりの利用者さんが「ミッキーに会いたい」と言った。
やれなんちゃらマウンテンだ、ショーだパレードだとてんでんばらばらのことを言う利用者さんたちをなだめすかしてミッキーの家へ向かった。

並んでいる間も濡れないように、機嫌を損ねないように、どこかへ行かないように気を配って、順番が来る頃にはくたびれきっていた。
ついに対面の時、みんな大喜びでミッキーにかけよった。
なんちゃらマウンテンに乗りたがっていた人も大はしゃぎでハグをした。
私は邪魔にならないよう、壁際に下がってその様子を撮っていた。

ひと通り利用者さんとの触れ合いを終えたのか、ミッキーが利用者さんに手を振る。
ああ、そろそろ次の人の番なんだなと思った。
利用者さんに「行きますよ〜」と声をかけてその場を離れようとした時、ミッキーが私に手招きをした。
何か不手際でも、と慌てて近寄った次の瞬間。
ミッキーは私を抱きしめて、頭と背中を優しく撫でてくれた。

きっといろいろな人を見てきたんだろう。
大変な仕事だ、なんとか労いたいと思ってくれたんだろう。
でも当時の私はこの間に利用者さんがどこかに行ってしまいはしないかと気が気じゃなくて、あわててその腕から抜け出した。
ありがとうって、あの時の私は言えただろうか。

嬉しかったなあ、と思い出せるようになったのは最近のことだ。
テーマパーク嫌いだった私はあの時、生まれて初めて、たしかにひとときの夢を見たのだ。

今更こんなところでごめんね。
ありがとう、ミッキー。

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