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作庭私論 「旅の中」 ③

これは2008年・平成20年9月1日発行 庭 No.183 建築資料出版社で取り上げて頂き、作庭私論のコーナーで書き留めた、自論というよりも自身を組み上げてきた成り立ちのようなものを書き綴ったものです。
それをnoteに分割して引用します。一部固有名詞など隠す場合があります。


土佐のイゴッソウ

その数年後、私は大阪の造園会社に勤めていましたが、会社の方向性が変わったので旅に出ることにしました。九月半ばの夕暮れどき、大阪の南港に立った私は、大きなナップザックに刈込みバサミを結びつけ、フェリーへと乗り込みました。

ついさっき、ヤキトリ屋のおばちゃんにもらったサーターアンダーギーを食べながらゆっくりと離れていく波止場を眺めていました。波を引っ張りながら陸が遠くなっていく、「ああ今から旅が始まるんだ、それにしても庭って何だろう、凄い人にたくさん会いたい」、そう思ったことは今でもはっきり覚えています。

翌朝着いたのは高知です。向かった先は、高知市一宮の庭園センターです。ちょっと遊びに来たつもりがあまりにも楽しくて、一日一日と過ぎ、気がついたら七ヶ月も社長の家でお世話になっていました。

昼は庭園センターで仕事をして夜は酒を喰らう、これが高知での本格的な毎日で、社長が家にいるときはほとんどご一緒させていただきました。庭の話や夢の話を大変熱く語られていて、それを聞くのがとても楽しかったです。そこでは庭だけでなく、魚のさばき方、サシミのおろし方も教わりました。

カツオのタタキなんて大変です。桂浜の近くで大きなクロマツが松くい虫にやられ、伐採する仕事の時です。枝がどんどんさばかれ、周りは一面にオトコマツのパリッとした赤っ葉が広がっていました。さっきから近所の人が一人二人とその松葉を拾いに来るのです。「何にするんですか」とたずねてみました。「タタキに使うがで、ホラ」さっそく私もその松葉を持ち帰り、カツオのタタキをしてみました。タマネギ、セイソウ、ニンニクを散らして、醤油と柚の酢をかけてペロッと・・。とにかく大変なのです。

近くにあるものを利用する。それが味わいになっている。町では松葉は使わないそうです。たしかに桂浜の近くではワラより松葉の方が簡単に手に入りそうです。カツオのタタキじたい個性的で美味いのに、さらにその中にまたいろいろあり、土地の人々の知恵に触れられたのは貴重であり、何より美味かったです。

庭園センターでは、石を組み池を打つ庭を得意とされ、初代の親方は脇に日本刀を置き、「水が漏れたら腹を切る!」という、「イゴッソウ」だったらしいです。もちろん演出でしょうが、その自分の仕事に対する誇りに庭づくりを目指す私はすっかり心惹かれました。

そしてある日、庭づくりの仕事がはいりました。ドキドキしました。「三人分働くので、どうしてもその現場に入れて下さい」社長に頼みこんだところ、手元としてその現場に入れて下さいました。池を打つ方法はその土地ではハンダと呼び、セメントを使いません。一生懸命手伝いました。しかし腹を切る覚悟がつくには相当な修業が必要そうです。

つづく

次回『旅の中』④は、 情熱の塊 



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