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谷本真由美「世界のニュースを日本人は何も知らない」ワニブックス 書籍レビュー

 みなさんは、夕方のテレビニュースが、ワイドショーのように、グルメ情報であったり、視聴者が投稿したあおり運転の画像を繰り返し流していることに違和感を感じていないだろうか。

 本書は、著者の谷本真由美氏が、日本人が世界で起きている重要な情報に触れていない状況を認識し、日本人が世界の中で生き抜いていくための視点を提供する事を目指した書籍である。

 初めに著者の谷本真由美氏に触れる。谷本氏は、1975年、神奈川県生まれ。アメリカで大学院を修了後、民間企業、国連など、日本、イギリス、アメリカ、イタリアなど世界各国で就労した経験を持つ著述家であり、現在はロンドンを拠点に、著作、SNSを通じ、情報発信を行っている。本著は「世界のニュースを日本人は何も知らない」シリーズの一作目、シリーズとしては、累計37万部を突破している話題作である。

 著者は、はじめに、日本人が置かれている状況を述べる。

 日本は島国です。そして島国は世界で少数派といえます。
 ドイツやイギリス、フランスなどの約二倍の人口規模を有する比較的大きな国であるにもかかわらず、その国民の大半が同じ言葉を話し、同じような文化背景と宗教を共有するというきわめて特殊な国でもあります。(中略)
 現代はコミュニケーションコストが各段に下がったインターネット時代です。通信技術だけでなく輸送やさまざまな科学技術の発達により、グローバル化が著しく進んでいます。ヒト・モノ・コトの往来を阻む壁は、わずか三十年前と比べてもかなり取り払われているわけです。(中略)
 このように「世界はひとつ」の時代にもかかわわず、日本人は世界から取り残されつつあるのです。通信技術が発達し、さらにいえば日本は政府による検閲もなく、表現上の規制も世界最小限の国のひとつであるのに、他国との情報の往来にはいつまでも透明な障壁が存在しています。(中略)
 ひとつは日本のメディアが非常に閉鎖的であるということです。(中略)
 もうひとつの問題は、そもそも日本人は海外のニュースに興味を持っていないということです。(中略)
 日本人は自国が世界からどのように評価されているかということすら知りません。少子高齢化で下り坂を転げ落ちつつある国だた酷評されていることも、失われた二十年間で十分予想できた課題への対策を怠った国として、他の先進国からたいへん厳しい視線を送られていることもです。
 事実を直視せず重要なことを見逃している日本は、ぬるま湯のゆでガエルです。じわりじわりと熱せられていき、やがて熱湯になったころには跳躍する力を失っているでしょう。たくさんの選択肢を失い、膨大な損失に苦しめられるのは目に見えています。
 この本は、そんな危機的状況におかれた日本のみなさんに日本の外からの視点を提供し、さまざまな気付きのヒントを得てもらうための指南書です。

谷本真由美「世界のニュースを日本人は何も知らない」ワニブックスより

本書は、
〇日本人はなぜ世界のニュースを知らないのか
〇世界の「政治」を日本人は何も知らない
〇世界の「常識」を日本人は何も知らない
〇世界の「社会状況」を日本人は何も知らない
〇世界の「最新情報」を日本人は何も知らない
〇世界の「教養」を日本人は何も知らない
〇世界の「国民性」を日本人は何も知らない
〇世界の重大ニュースを知る方法
の構成で、世界の状況を紹介している。

この中で、他国、日本を理解する上で、ポイントとなる点を、以下に紹介する。

〇日本人はなぜ世界のニュースを知らないのか
 
現代はインターネットの普及により、望めば、誰でも、簡単に、世界中の情報に触れることが可能である。日本人の多くが、世界のニュースを知らない、または関心が低い理由を、筆者なりの考察を述べている。

 アメリカとイギリスのクオリティペーパーのトップニュースには国内外の政治経済のトピックスが多く、日本のようにスポーツ選手や芸能人の話題なんて一切登場しないし、ましてやラーメン屋やイノシシに関するニュースなんて出るはずもありません。(中略)日本の感覚からするとたいへんお堅い内容だと思ったことでしょう。しかしアメリカやイギリスではこういった内容のニュースを読むことが当たり前なのです。(中略)
 ではなぜ、日本人が求める情報はこれほど偏ってしまうのでしょうか。
 まず、日本の国内市場がある程度大きいことがあげられます。国内市場だけで食べていけるので海外のことを知らなくても困りません。(中略)
 次に、日本は”隔離”された島国であることから、在留外国人比率が全人口の三%にも満たないなど、国内がほぼ均一であることがあげられます。(中略)つまり近所にほとんど外国人がいないのですから、海外の情勢など自分とはまったく無関係。興味を持つわけがありません。
 もうひとついえること。日本人は「長いものには巻かれろ」体質の人が多く、自分の人生にシビアな目を持って向き合わず、危機感を抱くことがない。実はこれがもっとも憂慮すべきことかもしれません。

谷本真由美「世界のニュースを日本人は何も知らない」ワニブックスより

〇世界の「政治」を日本人は何も知らない
 世界の先進国と言われる国々では、格差社会、移民問題による分断が、大きな政治課題であることを述べている。日本でも少子化を前に、移民の受け入れが話題になることが多いが、他国の実情を理解すると、単純な話ではなさそうである。

・アメリカ人のほとんどが貧困層という現実
 米国の十八歳以上になる成人の半数以上が、1000ドル(約11万円)以下の貯金しかなく、引退するのに十分な資産を持った人はごく少数です。
 このような厳しい経済環境に置かれたアメリカの一般市民のなかに、人種や性別、民族などによる偏見や差別を防ぐ政治的正しさという概念、いわゆる「ポリティカル・コレクトネス(略称:ポリコレ)」に対する反発が目立ち始めています。(中略)
 25%のアメリカ人は保守派で、先進的な革新派は8%にすぎず、残りの三分の二はどの政治的信条にも属さない人々です。その人々が、日々の生活や過激な政治的主張による国の分断に疲れ果てているといいます。全体の80%はポリコレに反対です。(中略)
 つまり、厳しい経済状況下で困窮した生活にあえぐなか、自分の生活改善に直結しない「政治的な正しさ」などを聞かされ、綺麗事で上辺だけを取り繕う政治に、嫌気がさしている人があふれていることを表しているといれるでしょう。(中略)
 トランプ大統領を支持する人々は、なにも人種差別主義で排外的というわけではなく、ただ自分たちの生活を守りたいというごく普通の願いを抱いているにすぎないのです。
・ロンドンでは白人のイギリス人は少数派
 ロンドンはニューヨークやトロント以上に人種のるつぼであり、白人のイングリッシュ人は、もはやマジョリティではありません。このような多国籍な人種が集まっているロンドンにおいて、2011年の国勢調査では人口の40%近くが英国生まれの外国人という統計が出ていました。ロンドンの白人のイギリス人は44.9%です。ロンドン内の学校で話される言語は三百を超えます。
・移民問題にゆれるスウェーデン
 2018年の世論調査では、スウェーデン人の過半数は移民の削減を希望しています。移民を減らす、もしくはゼロにすると希望している割合が52%、現状維持希望者が33%、増加希望者が14%と、削減派の意見が圧倒的に強かったのです。この傾向は他の欧州諸国でも似ており、ギリシャが82%、ハンガリーが72%、イタリア71%です。
 日本人の多くは、欧州はリベラルな価値観が支配している土地であり穏健な人が多いのではないか、だからこそ移民をどんどん受け入れているのだろう、と勘違いしているでしょう。しかし昨今、国が二つに割れるような状況になっている国が多く、北米やオセアニアに比べかなり難しい状況になっているのが実情です。

谷本真由美「世界のニュースを日本人は何も知らない」ワニブックスより

〇世界の「常識」を日本人は何も知らない
 
治安、社会保障の充実から、日本が他国に比べ、いかに恵まれた国であるかを述べている。日本社会も多くの問題を抱えているのは事実だが、暮らしやすさは、ダントツに恵まれた国のようである。

・実は、日本は恐ろしく恵まれている国 
 昨今の日本では、介護保険や健康保険の自己負担の値上がり、長時間労働は相変わらず解消されず、働く人の半分近くが非正規雇用、女性差別もまだ厳しく、電車ではベビーカーが助けてもらえない。そんな状況があるのも事実ですが、それでも大半の国に比べるとこんなに恵まれた国はありません。(中略)もちろん日本にも多くの問題がありますが、こんなに少ない自己負担額と健康保険料で、迅速で質の高い医療を提供する国はほとんどないのです。アメリカなどは医療費が莫大な金額で自己負担額も大きいし、しかも、きちんとした健康保険がある大企業に勤めていない限り、日本レベルの治療を受けることができません。
 健康保険料を払っていれば医療費が無料の欧州であっても、無料ということには裏があります。無料ですから高いレベルやきめ細やかなサービスは要求できないし、治療や診療には優先順位がつけられ何か月も待つこともめずらしくありません。日本レベルの治療や検査は私立病院に行かなければ無理です。ちなみにイギリスの私立病院の産科に入院すると1日100万円はかかります。
・日本は世界一治安がよいことを自覚すべし
 そして日本ほど治安がよい先進国もありません。
 日本ではどこかアパートやマンション、一軒家などを借りる際に治安を考慮する必要はないですが、ほかの国では場所も物件自体も安ければ安いほど安全性が低いということですから、死にたくなければ高い家賃を払ってそれなりの物件に住む必要があります。(中略)
 日本では小学生がひとりで自転車に乗って塾に通えるくらい安全です。ほかの先進国では治安があまりにも悪いため、すべて親が車で送り迎えします。(中略)
 私はいまの日本の状況を完全に肯定するわけではありませんが、生きていくのが大変な国やほかの先進国、独裁国家に比べたら、日本はかなり恵まれた国です。世界有数のラッキーな国であることは間違いありません。だから日本のみなさんは現状を憂えることなく、もっと気楽に生きてほしいと思う次第です。与えられているチャンスや選択肢を見逃さず、柔軟な考え方で生活をより良くする方法を探究してほしい。

谷本真由美「世界のニュースを日本人は何も知らない」ワニブックスより

〇世界の重大ニュースを知る方法
 そして、信頼できる情報ソースとその活用の仕方を述べる。

〇信頼できる情報ソースとは?
 それにはまず情報の「発信者」「媒体」で分類するのが有効だと思います。次のような発信者および媒体であれば、一定の信頼性は担保されているはずです。
・中央政府や地方自治体、国際研究機関など公的な組織
・知名度がある大学や研究所
・医師や弁護士、不動産鑑定士、建築士など許認可が必要な専門家
・長年堅実経営をしている一部上場企業の公式発表
・知名度が高く専門家に評価されている新聞、雑誌、通信社
・評価の高い学術論文誌に掲載されている論文
・老舗大手出版社が出版している書籍やニュースレター
・公共放送、大手民間放送
・専門家などから評判のいいニュースサイト
 政府や大手優良企業、大学や研究機関などは発信する情報の責任を重視するので、組織内部に発信する情報を精査する仕組みがあります。(中略)
 これは英語圏の大手出版社も同じです。日本と比較にならないほどの訴訟社会なので、読者の健康情報を害するような書籍は出版できないようになっています。(中略)
 テレビ局やラジオ局も同じです。日本ではゆるいですが、英語圏だと変なことを放送するとすぐ訴訟を起こされてしますので、制作時点でやまざまなチェックが入ります。
〇クリティカルシンキングを身につけよ
 情報を入手したら、今度はそれを咀嚼して自分なりに理解する必要がありますが、なんでもかんでも鵜呑みにするのは危険です。常に「これは正しいのか?」「別な考え方はないのか?」「この著者がこのように主張する理由は何か?」「このタイミングでこの情報が出るのはなぜか?」などと疑問を持ちながら情報を整理していくことが大切です。
 このような方法を英語圏では「クリティカルシンキング」と呼びます。情報や他人の意見を批判的な視点で分析する方法ですが、議論展開する時の基本となっています。そこから新しい発想を得るには必修の手法です。

谷本真由美「世界のニュースを日本人は何も知らない」ワニブックスより

以上が本書の概要である。

本書を通じた私の学びは、

・著者は、日本人が世界のニュースをあまり知らないのは、他国に比べて、地理的要因(島国)と、身近に外国人が少ないことに起因していることを指摘している。知識と思考に、環境要因が大きな影響を与えること感じた。

・先進国の多くが社会構造の二極化、移民問題に直面し、アメリがではふつうの人々が自分の生活を第一に考えざるをえない状況に追い込まれていること、中立的と思っていた欧州の人々も、移民には寛容的ではなくなっていることを、改めて認識したこと

・そんな中で、日本がいかに恵まれた国であるかを自覚し、自分が、自分なりの幸せの選択を、主体的に行っていくことが大切である

ことである。

 最後に、本書の”おわりに”、著者が記した文章が印象的だったので紹介する

 この世界には、これからの時代を生き抜くために必要な情報が山ほどあります。それらを自分にとって有益なものとし、生き抜くスキルに変えていくことが今後の鍵となるでしょう。

谷本真由美「世界のニュースを日本人は何も知らない」ワニブックスより


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