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大杉潤「50代お金の不安がなくなる副業術」エムディエヌコーポレーション 書籍レビュー

 本書のカバーの見返しに、

 物価が上昇するのに給料は上がらず、絶対に安泰な会社などない状況の中で、人生の全てを会社に託すことはできません。「変化する時代」に不安なく生きていくには、複数の収入源を持つことが鍵になります。

大杉潤「50代お金の不安がなくなる副業術」エムディエヌコーポレーションより

との文章が書かれている。現在の会社員の多くは、”人生の全てを会社に託すことはできない”との部分に、同様の思いを持っているのではないだろうか。

 本書は、フリーの研修講師、経営コンサルタント、ビジネス書作家の大杉潤氏が、現在の生活や定年後の将来の生活のお金の不安を払拭できる「副業」について、単に一般論や副業事例を紹介するのではなく、長く稼ぎ続けることができて、ライフワークにもなり得る「戦略的副業」を始めるために大切な原則や考え方、実践的な方法を紹介した書籍である。

 初めに、著者の大杉潤氏に触れる。大杉氏は、早稲田大学卒業後、日本興業銀行に22年勤務の後、東京都に転職し新銀行東京の創業メンバーを務める。その後、人材関連会社、グローバル製造業の人事、経営企画の責任者を務めた後、57歳で退職。会社員時代から行っていた副業を発展させ、起業を自ら果たす。様々なチャレンジを経て、ビジネスを軌道に載せ、65歳の現在に至る。

 それでは、本書の概要を紹介する。

 著者は、冒頭、「戦略的副業」の4つの条件とコンセプトを上げる。

1 好きなこと、得意なことを軸に、将来「生きがい」になることを仕事にする
2 人生のミッション(ライフワーク)を定め、逆算(バックキャスティング)で副業を考える
3 世の中の変化に対応し、リスキングを重ねて、副業を進化させ育てていくという長期視点で取り組む
4 会社員としての本業にもプラスの効果をもたらすなど、本業と副業の相乗効果が発揮される
 とくに3番目は大切です。すぐに稼げる副業は、すぐに稼げなくなる副業でもあります。楽しく育てながらずっと稼ぎ続けられる副業を目指すのです。金額の大きさよりも稼ぎ続けられる期間の長さを重視します。月に5万円、あるいは3万円でも、10年、20年以上、やりがいを持って楽しく続けられる副業というコンセプトです。

大杉潤「50代お金の不安がなくなる副業術」エムディエヌコーポレーションより

 本書の構成は、

〇年金制度の将来展望、本格的な格差社会の到来。
そうした中で、会社員にとって副業が唯一の対抗手段になること。

〇成功する副業として、
 ①物販ビジネス
 ②賃貸ビジネス
 ③情報ビジネス
 の3つに集約されること。それぞれのポイントの紹介。

〇副業や節税で得た資金を積立投資で着実に増やしていく戦略の紹介。

〇副業から「ひとり起業」へ移行する方法、事例の紹介。

となっており、戦略的副業を通じたこれからの生き方を、極めて実践的に紹介している。

はじめに、
〇年金制度の将来展望、本格的な格差社会の到来。
そうした中で、会社員にとって副業が唯一の対抗手段になること。
について

筆者は、日本の年金制度の3つの将来展望を上げる。

1、年金保険料を負担する労働人口が減少する一方、新たな年金受給者は当面増え続けるため、年金財政が逼迫する
2、人口構成の歪みに対応するために導入された「マクロ経済スライド」という調整措置により年金受給額は物価上昇率ほど上がらず、実質の年金収入は減少する
3、年金収入の金額が現役時代の何%に相当するかを表す「所得代替率」は、現在の61.7%から50%(現役時代の半分)に下がっていく

大杉潤「50代お金の不安がなくなる副業術」エムディエヌコーポレーションより

 これらの事実、年金財政を持続可能なように改善するには、もはや年金支給開始年齢の引き上げしか手段がないと、予測する。

 年金が70歳から受給となると、70歳まで働くのが当たり前の社会になる。そうした長く働き続ける時代に、50代から、「副業」を始め、好きな仕事で長く楽しく働くライフスタイルの構築を、ゆっくり育てていことを推奨しているのである。

 そして、「副業」を考えるキーワードとして「逆算」(バックキャスティング)を上げる。

 本当に大きな目標を達成する人は、必ず明確なゴール(目標)を掲げ、そのイメージを持ちながら、現実とのギャップをいかに埋め合わせていくのかという方法、すなわち「戦略」を逆算で考え抜いてやり遂げるという「戦略的思考」をしています。(中略)
 50歳からの「副業」も同様です、人生の最後まで行う活動、すなわち、ラフワークをゴールにして、「逆算(バックキャスティング)」で考えていくことが大切だと私は考えています。10年、20年かけてライフワークに育てていくことを展望した、自分ならではの「副業」。このように、人生のミッション(自らの社会的使命)というゴールから考える思考方法を「戦略的思考」といいます。(中略)
 たかが副業なのに大袈裟ではと思うかもしれませんが、自らすべてを決めることができる「副業」だからこそ、当面の小銭を稼ぐという発想ではなく、本当に好きなことを長く続けるつもりで始めるべきだと私は思うのです。

大杉潤「50代お金の不安がなくなる副業術」エムディエヌコーポレーションより

 次に、筆者が挙げる副業の中で、私が一番興味を持っていた、情報ビジネスについて、著者の見解とポイントを紹介する。

 情報ビジネスは種類も多く、情報量にも限度がないことから市場規模は無限大と考えていいでしょう。加えて、物販や賃貸の場合には欠かせない仕入れのためのコストも発生しないケースが多くあります。そのため、市場の規模もバリエーションも大きくて選択肢が豊富、かつ、低コストで売り上げを立てやすいことから利益率を高くしやすいので、情報ビジネスは会社員の副業として最も有利な「本命」と言えるでしょう。

大杉潤「50代お金の不安がなくなる副業術」エムディエヌコーポレーションより

 そして、以下のポイントを上げる。

〇情報ビジネスの市場は無限大で、副業初心者でもクラウドソーシングのマッチングを行うプラットホームへの登録で、気軽に始めることができる
〇ビジネスの基本は、「顧客の問題解決」だが、手軽さと心身の健康がキーワード
〇首都圏副業人材の活用が地方再生の切り札になる
〇情報ビジネスの肝は「情報発信」で、ストック型メディアであるブログは「人生の母艦」になる最も有効なツール
〇YouTubeは最強のストック型メディアだが、発信の不可が大きいのがネック
〇これからの注目すべき情報発信ツールは「音声配信」
〇音声配信ツールからは、詩の朗読コミュニティやAudible Kindle作家も誕生している

大杉潤「50代お金の不安がなくなる副業術」エムディエヌコーポレーションより

  そして、副業で結果を出すために必要なことを述べている。

・やっていて楽しい「好きなこと」を副業にすること
・致命的な失敗をしないために、最初から大きな投資はしないこと
(中略)自分のアタマで自分ならではのオリジナルな「戦略的な副業」を考えて発信続けること。2年間結果が出ていなくても情報発信の試行錯誤を続けていけるかどうかだけが分かれ道になると私は考えています。
 では、どうすれば発信を続けていけるのか?「やっていて楽しい好きなこと」を副業にするのです。それが継続させられるための唯一最大の秘訣だと思います。

大杉潤「50代お金の不安がなくなる副業術」エムディエヌコーポレーションより

 また、筆者は、「石原氏の成功曲線」を取り上げ、

 1つの専門性を身に着ける過程は、かけた時間に比例して、一直線に成果が出るようにイメージするが、実際には、成果が出ない間も淡々とトレーニングなどの努力を継続していれば、どこかのポイントで一気に成果が上がり始め、そこからは加速度的に結果が出て成功に至る。
 ただ、人間はどうしても弱い存在で、継続することがなかなか難しいからこそ、好きな仕事に取り組む形にする方が成功しやすい

と述べている。

 そして著者は、本書のおわりに、副業をライフワークにするブランドハップンスタンスに関して述べる。

 ライフワークにまで育てていく副業にまで育てていく副業にどうしたら出会うことができるのか?最後に、私自身のキャリア形成のポリシーでもある「ブランドハップンスタンス・セオリー」を紹介します。これは、スタンフォード大学のクランボルツ教授が提唱する有名なキャリア開発理論ですが、「計画された偶然のキャリア理論」と訳され、次の3つの要素からなっています。
1、個人のキャリアの8割が、偶然の出来事に左右される
2、偶然の出来事を本人が、主体的に活用することでキャリアアップすることができる
3、偶然を意図的に生み出せるように行動することが大切である

 要するに、偶然のチャンスはだれにでも平等に訪れるものだけれど、しっかり準備して行動してきた人だけがそのチャンスをつかみ、キャリアを開発していくことができる、という理論です。将来、ライフワークにできるような「戦略的副業」を見つけ、長く続けていけるライフワークにできるかどうかは、「ブランドハップンスタンス」がその鍵を握っていると言ってもいいでしょう。

大杉潤「50代お金の不安がなくなる副業術」エムディエヌコーポレーションより

 以上が、本書の概要になる。

 本書を通じた学びは、

1)定年を前に、現在の年金財政状況に立ち、セカンドライフを考えた時、筆者が提唱する「戦略的副業」は、極めて実践的で、魅力のある生き方である
2)副業で結果を出すためには、2~3年はかかるのが普通で、その壁を破り継続していくためには、やっていて楽しい「好きなこと」を選ぶのが一番大切である
3)そして「好きなこと」、セカンドライフを支える仕事を見つけるには、偶然を意図的に生み出せるように行動することが大切である

である。

 ここでは紹介しきれなかったが、
・副業としても、物販ビジネス、賃貸ビジネスの具体的な方法
・副業や節税で得た資金を積立投資で着実に増やしていく戦略の紹介
・副業から「ひとり起業」へ移行する方法、事例の紹介
・これらの副業で成果を上げている人へのインタビュー
等、副業をきっかに、これからの時代を生きるための知恵がつまった、良書である。自分のこれからの生き方を考え始めている人々、そのチャレンジを初めている人々に、ぜひ一読をお勧めする。

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