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田尻望「キーエンス思考 X ChatGPT時代の付加価値仕事術」日経BP

   ChatGPTの登場以来、多くのChatGPTの解説本が発売されている。しかし、それらの書籍の多くは、ChatGPT自体の解説、ツールとしての使い方に言及することに留まっている。

 本書は、高収益企業として著名なキーエンスに勤務し、現在、経営コンサルタントを行っている田尻望氏が、
・キーエンス思考:付加価値創造に徹底的にこだわった仕事術
・その仕事術をサポートし、仕事の成果に直結させるChatBGTの使い方
を極めて実践的に解説した書籍である。

 それでは、本書の概要に触れる。本書は、
〇キーエンス思考
・付加価値創造の考え方
・仕事が出来る人になるための前提条件と必須条件
〇ChatGPT活用術
・仕事を時短で楽に終える活用術(基本編)
・ロジカルに情報を整理する活用術(応用編)
・AI時代に仕事ができるとはどういうことなのか
・PDCAを効率的に素早く回す無双術
・アイデアや企画を無限に生む無双術
〇AIが圧倒的な付加価値生産性を実現していく未来
〇あなたが「しごでき社員」になる意義
の構成で、キーエンス思考、ChatBGPT活用術を解説している。

本書籍レビューでは、
〇キーエンス思考
〇ChatGPT活用術
にフォーカスして、その内容を紹介する。

 初めに、キーエンス思考について。

 成果を上げるために欠かせないのが、「付加価値」という考え方です。私がかって所属していた日本屈指の高収益企業・キーエンスでも、「付加価値の高い商品を創造して、お客さまに提供すること」、しかもそれを「最小の時間と資本で提供すること」が最も大切にされています。付加価値の高い商品とは、お客さまのニーズに高いレベルで応えるものです。これでは当然のように思うかもしれませんが、お客さまが既に抱えている願望をかなえたり、不便を解消したりするというレベルではありません。お客さま自身さえまだ気づいていない、隠れたニーズにまで応えるのが、付加価値の高い商品です。当然、そのニーズの存在は競合他社も気づいていません。キーエンスはこうして、お客さまに選ばれる唯一無二の商品を生み続けているのです。

田尻望「キーエンス思考 X ChatGPT時代の付加価値仕事術」日経BPより

 そして「しごでき社員」になるために満たしておくべき3要素を上げる。

①プロフェッショナルの心得
・時間とお金の約束を尊重する
・目的意識・目標意識・問題意識を持つ
②知識と洞察力
・情報収集能力
・情報分析能力
・目標設定能力
③行動と実現力
・目標達成能力(問題解決力 X 行動力)

田尻望「キーエンス思考 X ChatGPT時代の付加価値仕事術」日経BPより

 そして、「キーエンス思考」のプロセスが、ChatGPT活用で実行できることに言及する。

 「キーエンス思考」に基づいた仕事術は、今からでも身に着けられる内容です。ただし、私自身も最初からすべてできたわけではありません。心掛けによって徐々に身に付き、成果が出せるようになっていきました。(中略)
 ただし、これから解説していくChatGPTのテクニックを使えば、熟練し、成長するスピードを圧倒的に加速させることができるのです。(中略)
 あとはいかに、難易度が高い各工程をクリアしていくかがポイントになります。そこで、膨大な知識を持ったChatGPTが役立つのです。自力で進めるのは難しくても、ChatGPTからヒントを引き出すことで、付加価値を生むためのプロセスが進めやすくなったのです。
 例えば、自分の現状や目的をChatGPTに伝えたうえで、「直面していると考えられる問題は」「その問題解決のために何をすべきか」「具体的なアクションプランを考えて」などと聞けば、どれも箇条書きで考えられるアイデアをすぐ出してくれます。自分はそこからヒントを得て、いかに「最小の費用と時間で付加価値を生み出すか」を念頭に、アイデアの取捨選択をしながら進めていけばいいのです。自分でやる必要はありません。付加価値を生むためのハードルは、ChatGPTによって驚くほど下がっているのです。
 ただし大切なことは、この質問を同じようにしても、付加価値を生むための考え方を知っていなければ生かし切れないという点です。ChatGPTをフル活用して、付加価値を生むための「キーエンス思考」の仕事術を実行していくことこそ、成果を上げるために欠かせないということです。

田尻望「キーエンス思考 X ChatGPT時代の付加価値仕事術」日経BPより

 次に、ChatBGPT活用術について

 膨大なテキスト情報を学習しているのが特徴で、文章作成や要約、翻訳、プレゼンの構成案など、様々なことができます。表示された回答をそのままビジネスに使うのはまだ難しいですが、質問を工夫すれば、たたき台として書き換え程度で済むレベルの内容は回答します。ビジネスの様々な仕事にかける時間は、劇的に削減できます。(中略)
 「プロンプト」とはChatGPTに回答を促す質問の名前で、理想の回答を導き出すために質問の内容を工夫することを「プロンプトエンジニアリング」と言います。プロンプトで的を得た質問ができていない、情報の抜け漏れがある場合には、ChatGPTからどれだけ引き出せるか。その近道の一つが、プロンプトの例を数多く知っておくことです。
 本書ではそのまま使える、または数字や単語、一部の文書を入れ替えるだけで、あらゆる場面で活用できるプロンプトを紹介しています。最初はこれを「コピペ」した質問で十分でしょう。それが、ChatGPTを有効に使い、慣れるための近道なのです。繰り返し使ううち、ChatGPTの回答の傾向やクセが分かってくるので、適切なプロンプトが作れるようになっていきます。そうして活用の幅が広がります。
 一方、注意点もあります。ChatGPTが学習しているのは、2021年9月までの情報で、最新の情報を知るには向きません。(中略)
 ChatGPTは学習している膨大な情報から、こちらの質問に対して、確率的に正しいであろう回答をしているです。(中略)また、事実関係については、回答に含まれる情報が正しいのかどうかを検証する作業も欠かせません。
 ただ、仕事に使えるフレームワークを聞く、問題解決のためのヒントを聞くなど、ビジネスでよくある質問をChatGPTに聞いた場合、私の感覚では7割以上は正しい、もしくは有用な回答をします。(中略)「即座に正しい意思決定をするための知識を得る情報収集」や「高い付加価値を生むための情報分析」では、ChatGPTが大いに活躍します。仕事の効率や質を劇的に改善してくれるのは、間違いありません。

田尻望「キーエンス思考 X ChatGPT時代の付加価値仕事術」日経BPより

 そして、AIと戦うのではなく、共存して自分自身のツールとして使うことが大切だと述べている。AIが人々の多くの仕事を奪う可能性が論じられていることに対して、見解を述べる。

 最も危ないのが、仕事が単なる作業になっている人です。(中略)一方、自分で目的や問題を見つけ、仕事を次々と作り出していく提案型の働き方ができる人は今後も生き残ることができます。ChatGPTをはじめとする生成AIは、人間が与えた質問や条件に対して何かを生み出すことはできますが、AI自らがアクションを起こすことはまだできないと言えます。

田尻望「キーエンス思考 X ChatGPT時代の付加価値仕事術」日経BPより

 本書の最大の特徴は、先に記したように、実際のビジネスに応用できる35のプロンプトが記載されている点である。1例を紹介する。

 顧客となる企業の目的を知っておくことはとても大切です。顧客の目的を知らなければ、ニーズにこたえる商品やサービスは提案できません。商談などでは、下調べが非常に大切です。相手企業の目的に応じたセールストークが出来れば、案件の成功確率を高めることができます。顧客企業の目的は、以下、プロンプトで、ChatGPTに聞いています。

〇プロンプト:顧客の目的を知る質問

顧客企業の目的を明確にしたい。
顧客の業種:オンライン小売業
年商:1兆円規模
ターゲット市場:全年齢層のオンラインショッパー
従業員数:2000人
という会社です。
この企業の目的を明確にしたい。
・ビジネスモデルの解説
・ビジネスモデルから想像される顧客企業全体の目的
・想像される部署とその部署の役割
・問題が発生していそうな業務の仮説
を出してみてください。
〇ChatGPTの答え
了解しました。以下に詳細を解説します。
1、ビジネスモデルの解説
・オンライン小売業:顧客がウェブサイトまたはアプリを通じて商品を選び、購入するビジネスモデル。物流、在庫管理、マーケティング、カスタマーサービスなどが含まれる。年商1兆円規模の会社としては、幅広いカテゴリーの商品を取り扱っている可能性が高い。
2、ビジネスモデルから想像される顧客企業全体の目的
・オンラインショッピング体験のリーダーとしての地位を確立し、持続的な成長を達成する。
・ブランド価値を上げ、全年齢層のオンラインショッパーにとっての第一選択となる。
・技術やデータを活用して、よりパーソナライズされたショッピング体験を提供する。
・サステナビリティや社会的責任を果たしながら、ビジネスを展開する。
3、想像される部署とその部署の役割
・マーケティング部:新規顧客の獲得、ブランドの認知度向上、キャンペーンの運営。
・物流・供給チェーン管理部:在庫管理、注文処理、配送最適化。
・商品開発/バイイング部:商品の選定、取り扱いブランドとの関係管理、価格設定。
・カスタマーサポート部:顧客からの問い合わせ対応、アフターサービス。
・IT部:ウェブサイトやアプリの開発・維持、データ管理、セキュリティー対策。
・人事・総務部:従業員の採用・研修、社内の運営管理。
・財務部:会計、予算管理、投資判断。
4、問題が発生していそうな業務の仮説
・物流の遅延:1兆円規模の企業では、注文が非常に多く、物流の遅延や誤配送が発生する可能性がある。
・在庫の過剰または不足:予測ミスやサプライチェーンの問題で、一部の部品が過剰にストックされる一方で、人気商品が品切れとなる可能性。
・データセキュリティーの問題:大規模なオンラインビジネスを運営する上で、顧客データの漏洩やサイバー攻撃のリスクは常に存在する。
・競合との価格競争:他のオンライン小売業者との価格競争が激化し、利益率の低下や市場シェアの喪失が生じる可能性。
以上の情報は、提供されたデータを基にした仮説や想像に基づいています。実際の企業の状況や目的、問題点などは詳しい内部情報や実地調査に基づいて判断する必要があります。

田尻望「キーエンス思考 X ChatGPT時代の付加価値仕事術」日経BPより

 このChatGPTの使いこなしを見て、”多くの方々は、ご自身の仕事、個人での活動をサポートする有能なパートナーとして、ChatGPTを生かすことが出来るのではないか”と感じられたのではないだろうか。

 以上が本書の概要である。

 本書を通じた私の学び、感じたことは、
〇ChatGPT(生成AI)は知的創造活動の有能なパートナーとなり得る。
〇そのキーは「プロンプト」の使いこなしである。
〇同時に現時点でのAIは万能ではなく、その限界(扱える情報の範囲)を正しく認識することが大切。

である。

 本書は、ChatGPT(生成AI)の使いこなしを極めて実践的に解説した書籍であり、知的創造活動を行っている人々に一読をお勧めする。

 最後に本書の中で、私が印象に残った文書を紹介する。

 ChatGPTを活用して、AI時代に最大限活躍するための仕事術を紹介してきました。結論としては「人 X AI」により、これまでの時代は知識や経験が不足しているために、十人並みの結果しか出せなかった人、大げさに言うと周囲から「凡人」と思われてしまっていた人も、AIを味方に付けることで「天才化」できるということに尽きます。
 そして、AIに知識や経験の不足を補ってもらうだけでは不十分です。それでは結局、「あなたの仕事(知識の活用)は、AIでもできるよね」と言われてしまいます。「人 X AI」に、ここまで紹介してきた付加価値創造を掛け合わせることで、新たな仕事を次々と生み出す人になっていくことができます。価値とは何かを理解して、提供する仕事ができる人がトップビジネスパーソンになっていけます。

田尻望「キーエンス思考 X ChatGPT時代の付加価値仕事術」日経BPより

 


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