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第5話 商業化(ジェドの話)~ビットコイン物語

ビットコインは一夜にしてならず。

ビットコインを生み出したのはひとりの天才、サトシ・ナカモトです。

しかし、現在のビットコインは他の技術者たちの手で更新されていて、サトシが書いたコードはほとんど残っていません。

そもそもビットコインは技術者やプログラマーだけが作り上げたものではありません。起業家や投資家、詐欺師や密売人など、いろんな国のいろんな事情をもった人々に必要とされ、時代の大きなうねりに飲み込まれて揉まれながら、奇跡的にも成長を続けてきました。

この物語では、ビットコインに関わった人物にスポットをあてていきます。

今回は、ビットコインを一気に夜に広めた取引所「マウントゴックス」を始めたジェド・マケーレブさんのお話です。

マウントゴックス創業者、ジェド・マケーレブさん

ジェド・マケーレブさんは1975年生まれ、アメリカのアーカンソー州で生まれ、幼いころから数学と科学にとても強く、超名門のカリフォルニア大学バークレー校に進学します。

しかし飽きっぽいところがあり中退、このへんが天才の証明みたいに思えてしまいます。大学中退した人のリストがこちら。

  • スティーブ・ジョブス

  • ビル・ゲイツ

  • イーロン・マスク

  • マーク・ザッカーバーグ

  • 堀江貴文

もちろん、大学をきっちり卒業している偉大な人もたくさんいますが、偉大な人に共通するのが「大学の枠に収まらない」「自分の力で世界を変える」ことなんだと思います。

大学を中退した人が偉いのではないので念のため。

で、ジェドさんが最初に起こした成功が「eDonkey2000」というP2Pのファイル交換プログラム、なんと最大7000万人もの利用者がいた大ヒットアプリだそうです。しかし全米レコード協会から訴えられて2006年に終了、サイトを閉鎖します。

その後オンラインゲームを開発したり、ゲームで遊んだりして過ごす日々の中、2010年7月、ジェドさんはビットコインに出会います。

「ビットコインっていう本当にいかしたものがあるんだ。いかにもオタクのリバタリアンが考えそうなアイデアさ。でも、めちゃくちゃ使えない。夜には買えないんだ」

と奥さんにグチをこぼしたそうです。次の朝奥さんが起きてみると、取引所のウェブサイトはもう出来上がっていたそうです。ほんの遊び心で作ってみたのだそうですが、どんだけ天才やねん…。マーク・ザッカーバーグさんみたいなのがゴロゴロいるこの世界です。

取引サイトの名前を考えるときに、ジェドはかつて作っていた古いドメインネームがあるのを思い出しました。それが「マジック・ザ・ギャザリング(Magic The Gathering Online eXchange)」のカードを売買するためのサイト「mtgox.com」でした。

Mt.Goxの譲渡

2010年5月から7月、ちょうどその頃はビットコインにとって大きな変化が各方面で起きていた頃でした。

  • ラースローさんがGPUでマイニングすることを始め

  • ギャビンさんがビットコインの普及活動を開始

そして、2010年7月11日「スラッシュドット」という世界中のコンピュータオタクが注目するニュースサイト掲示板にビットコインの記事が掲載されます。⇒Bitcoin Releases Version 0.3 - Slashdot

多くの人に注目され、ユーザー数が増えるに従ってどんどん「普通のパソコン」ではビットコインをマイニングすることが難しくなってきた頃だったので、マウントゴックスのように簡単にビットコインを買えるサイトはとても需要にマッチしました。

開設の初日は20 BTCだった取引高が、その10日後には1000 BTCを超え、さらに10日後には10,000 BTCを超え、1 BTCあたりの価格は約5セント⇒10セントと2倍の価格になりました。

この急成長は、これまでのビットコイン取引所とは異なり、PayPalで簡単に取引ができるようにしたためですが、事業が拡大するにつれ問題もたくさん起きるようになります。まずPayPalのような決済ネットワークは「後からキャンセル」できるという問題がありました。

この頃はPayPal側がビットコインを認識していたわけではありません。ジェドさんは単なる加盟店のひとつとして個人の支払いの仲立ちをPayPalに頼っているというだけでした。

これはきっと加盟店の方にしか理解してもらえない、ちょっと信じがたい理不尽な話ですが、PayPalを使ってビットコインを購入した後、購入者が代金の支払いを拒否すると、ジェドさんの取引所は代金を受け取れないだけでなくビットコインを取り戻すこともできないのです。

過剰な消費者保護、加盟店の不利なしくみでした。

ジェドさんはこういう悪意ある消費者への対応に時間がとられることに嫌気(いやけ)がさします。もともと軽い気持ちで、遊び半分で始めた事業だったのです。

さらに嫌気を加速することには、マウントゴックスがハッカーの格好の標的となってきたことです。

取引所にはビットコインが集中します。2011年1月には「バロン」と名乗るユーザーが口座に不正に侵入し、ビットコインなど約45,000ドル相当の暗号資産を盗みました。

ジェドは天才でしたが、セキュリティには興味も知識もありませんでした。取引所の運営にほとほと嫌気がさしたジェドさんはマウントゴックスを他人に譲って、もっと自分が楽しめることをしたいと思うようになります。

ジェドさんが事業を譲ったのは、マルク・カルプレスさんというフランスの24歳の若者。こちらも歴史に名を残す天才、そして2度のGox事件の当事者になります。こちらはまた次回のお話で。

その後…

その後、ジェドさん自身は「リップル・ネットワーク」という決済プラットフォームを立ち上げます。

ビットコインのように分散化はしていませんが、独自の承認アルゴリズムを使い、とても少ない消費電力で効率よく取引ができるシステムで、ブリッジ通貨(送金のための通貨)として現在も多くの人に便利に利用されています。

そして2014年、ジェドさんはリップルの経営陣と意見が対立したことをきっかけにリップル社を去り、次に「ステラ」という事業を起こします。

ステラの(XLM)もリップル(XRP)と同じように、ブリッジ通貨となるべく開発されるのですが、リップルとは次のような点で異なります。

  • ステラは非営利団体です

  • リップルが大手銀行や大企業をターゲットにしているのに対し、ステラは個人やスタートアップ企業をターゲットにしています

ジェドさんは常に、「リバタリアン」とか「他の通貨を駆逐する」というビットコイン崇拝者がもつ思想には反対を唱えていて、ただ人々が便利に国際送金を行うことができることを優先しています。

なので、銀行やSWIFT(世界中の銀行をつなぐネットワーク)などとも連携することを目標にしています。リップルはSECに目をつけられているようですが、約2年続いた裁判も最終局面を迎えています。

ビットコインは確かに一時期ジェドさんにとって魅力に映りましたが、マウントゴックスのような取引所で取り扱えるようになることで、金(ゴールド)などこれまでの歴史上の通貨がたどった運命と同様、国家や大企業による大量保有、占有により結果として世界を変えることはできない、という未来が見え、ジェドさんにとって魅力が一気に色あせたのかもしれません。

それならば、と現実的な解決手段としてのブリッジ通貨の開発に専念されています。

サトシ・ナカモトとはまた視点が異なりますが、既存金融システムとの親和性を考えた現実的な暗号資産として、リップル(XRP)やステラ(XLM)はビットコインとはまた用途が異なるところで使われていきそうです。

次回「ビットコイン危うし!Gox事件の発生」

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