谷の景色
下へ、下へ。より暗く、音のない方へ。
あなたが地上の光を厭うなら、私はついて行くしかない。
あなたが闇でしか生きられないから、私も闇の中に入らなければならない。
そうしてー険しい岩肌を、全身に痛みを感じながら、ひたすら降りていく。あなたの声を頼りに。
ーでも、行先では、ぽっかり空いた大きな穴が、相変わらず、ただ黒滔々と深い闇ばかりをたたえている。そこにあなたの姿は見えない。
私は来た方を見上げた。下の景色は変わらないのに、地上は遥か遠く、いつの間にか空は薄暗くなっているように見えた。
そこは、もう帰る場所ではないと、そう感ぜられた。
ああ、よく見れば誰かが手を振っている。
でも、降りてきてはダメだよ。そこに希望は無いけれど、ここよりずっと光に満ちているんだ。
呼人もそう言うのであれば、私もそこに残っていたのだろうか。
腕は次第に弛緩して、私はズルズルと落ちていく。
未だ、呼人は見えず、見えるものの手は、遥か遠い。
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