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スーツケースとの因縁

数えられるほどではあるが、今までに何度か海外旅行に行ってきた。

学生時代の貯金の目的は専らこれ。
一年に一回海外に行くことを目標にしていた。

旅行といえば、切っては切れない相棒がいますね、皆さん。
そうです、スーツケースです。

アメリカではbaggage と呼ぶけど、イギリスではlaggege と呼んだりしますね。

私はなぜだか、スーツケースとの相性がとっても悪く、いつもハプニングに見舞われる。


はじめての旅行 アメリカ編

これはシンプルにハプニングだらけの旅で、スマホを壊したり強風で着陸空港が変わったり、着陸するかと思いきやうまく行かずゴーアラウンドしたり、着陸後は拍手が巻き起こり一安心したのも束の間機内に6時間閉じ込められたり。

この時無事に降機し、荷物を受け取った時には可愛いベネトンのピンクのスーツケースに大きな割れがあった。

でも消耗品だし、旅行に持って行くなんてこんなもんだろう。
乗り継ぎもあったのに無事に着いてくれて何より。

この時までは、スーツケースは自分と一緒に着いてくれるのが普通の認識だった。

この時までは、ね。


憧れの街 イギリス編

この時も同じピンクのスーツケースを連れて行った。

到着後は無事友人と合流し、3日間のロンドン観光を楽しんだ。
その後、ロンドンから少し北にある彼女の留学先の大学へと向かった。

ちなみにだけどこの時もバスが急に故障して、エンジンが止まったバスに3時間閉じ込められた。
一番寒い2月だったのに防寒対策がなっておらず、暖房が効いていない車内でしっかり風邪をひいた。

頭痛と鼻詰まり、身体のダルさと熱っぽさに苦しみながらもイギリスを楽しみ、せっかくイギリスに来たのなら近場のパリにも足を伸ばしてみたい!と思い立ち、友人の授業が休みの土日に合わせてパリへ。
時間のある私は金曜の朝の便で。友人は授業を終えてから金曜の夜に来ることに。
マンチェスターからパリへの直行便を予約した。

朝早く起きて寝ぼけ眼のままパッキングし、空港へ向かう列車に1人乗り込みチェックインカウンターへ。

しかし、機械で操作するとチェックインができず、不思議なレシートが出てきた。
有人カウンターの列に並んでいると、近くにいたスタッフに

「パリ行き?それ欠航になったからあっちのカウンターに並んでちょうだい。」

「は?欠航???」

まずはパニック。
まぁでも仕方ない。
ハプニングには少し耐性がある。

案内された大行列に並び、新しい便に振り替えてもらった。
しかしその旅程はもっともっと北に行く便にのり、そこからパリへと飛ぶものだった。

地方の小さな空港で小さな飛行機に乗ることに。
直行便のはずか経由便になり、4時間も遅れての到着。

やっとの思いでついたパリ。
ここまで散々だったが、とにかくあの誰もが憧れる大都市パリに着いたのだ。

気を取り直し、預けたカバンを引き取ろうと便名に合わせて決められた回転台で待つが、待てど暮らせど私のピンクのスーツケースは出て来ない。

待つ以外の術がなかった私は、1時間以上そこで待った。
当然、既に私が乗っていた便とは違う便のカバンが出てきていた。

胸の中で不安な気持ちを膨らませながら、目まぐるしく変わる掲示板の便名と動き続ける回転台を眺め立ち尽くしていた。
すると、優しそうな韓国人女性ツアーコンダクターに韓国語で話しかけられた。

「ごめんなさい、私は日本人で韓国語はわからないの。カバンが出てくるのを待っていて…。」

すると彼女は

「あそこにカバンが届かなかった人のための受付カウンターがあります。よかったら行ってみるといいですよ。」

と、後方の立派なカウンターを指差した。

「そうなのね、ありがとう。でも、もう少し待ってみるわ。もう既に1時間以上待ってるんだけど…。」

すると彼女は血相を変えて

「1時間?それは普通じゃないわ!今すぐ行ったほうがいいわよ!」

と言ってくれた。

やっぱりおかしいよな…
モクモクと膨らませていた不安が確信に変わってしまった。

彼女にお礼を言い、ようやく回転台を離れ手荷物カウンターへ。

カバンが届いていない旨を伝えると、便名やスーツケースの特徴など様々なことを聞かれ、受付が終了。
対応してくれたスタッフから、一晩を越せるくらいのアメニティとカバンがなかったことによって買う必要が出たもののレシートを入れる封筒をくれた。
代金は後ほど支払ってくれるとのことだった。

噂で聞いていたロスバケ、そう、あの有名なLost Baggege に遭ってしまった。

それ以上出来ることはもう無く、肩を落としながらホテルへと向かった。
とはいっても、今私がいるのは他でもない誰もが憧れるパリ。
どんなに凹んでいても、パリの景色は美しく心が奪われるもので。
落ち込んでいても仕方ない!と、スーツケースは返ってくると信じて観光に出かけた。

なにをしてても過ぎる時間は同じ。
今はカバンのことは忘れなきゃ!と思ってはみたものの
素敵な街並みを歩いても、ルーヴル美術館を堪能しても、ふとした時に頭によぎるのはスーツケースのこと。
それもそのはず、お気に入りの服たちやロンドンで買った思いのこもったお土産たちが詰まっていた。

スーツケースが見つかったとの連絡はなかなか来なかった。
スーツケースの所在がわかるサイトを教えてもらい、こまめにチェックするも所在は不明のまま。

翌日になっても見つからないことにだんだんと不安が募り、ネットでスーツケースの未着に関する記事を漁り出した。
ほとんどの人は2.3日で返ってきたとのこと。
逆にいえば、それを超えると完全紛失の可能性が高まるそう。
完全紛失ってなんやねん。
預けたのになんで消えるんだ、と内心思った。

幸いにも私は3日間同じ宿に泊まる旅程だったため、ここにいる間に返ってくるだろうと信じることにした。


想像がつく方もいるでしょう。

結局、その後帰国までスーツケースは返ってきませんでした。

パリでの3日間とロンドンでの2日間。
そして帰国後3日間。計1週間ちょっと。
その間ずっと、教えてもらったサイトで鞄の所在を調べ続けたが、良い連絡はなし。

帰国して2日経った日の夕方、一本の不在着信が入っていた。
それは利用した航空会社からで、なんとスーツケースがパリから成田に届いたとのこと。
当時の私は、ロンドンで引いた風邪と、帰国時のある大事件(後日公開予定)によって体調もメンタルも史上最高にズタボロ。
全てのことに希望が持てず、当然スーツケースのことは諦めかけていた。
どん底にいた私に舞い込んだ吉報。
すぐに折り返しの電話をかけた。

紛失時に登録した私の情報と一致したカバンがあるとのこと。
しかしよくよく話を聞くと、鍵があいているらしい。
はっきりとしない口ぶりに疑問を抱きさらに聞くと、鍵は壊されている様子。
事情はよくわからないが、とにかくカバンの配送を依頼した。

これまたよくわからない税関に関する書類がFAXで届き、それにサインをして手続きした。
持ち主には想定外の長旅を終えてようやく返って来た私のピンクのスーツケース。おつかれ様でした。

聞いた話は本当で、かけていたはずの鍵が意図的に壊されていた。
嫌な予感がしつつ、スーツケースを開く。

ここで懺悔をすると

私は大きなミスをしていた。

貴重品を、入れていたのだ。

貴重品といえば?

お財布。

大馬鹿者なのは承知の上だが聞いてほしい。
はじめてのヨーロッパ。
日本とは異なる治安に心配をし、下調べをしてスリ対策に入念な準備をしていた。

1、お金は全部をまとめて持ち歩かない。小分けにしておく。
2、お財布はそれごと取られると危険だから持ち歩かない。
3、クレジットカードを入れるポーチは鞄と紐で結んでおく。

こんな心得で過ごしており、癖でスーツケースから財布を抜き忘れてしまったのだ。
そして、カバンは持ち主と一緒に届くものだと、信じて疑わなかった。

詰めが甘いとはこういうこと。
そこまで危機意識がありながらの凡ミス。

泣きそうになりながらスーツケースの中身を確認すると、なんということ!
気がかりだったVivian Westwood の財布も、気に入って買ったヴィンテージのバックもピアスもある!
よかったよかった。

最後は気になるお財布の中身。
恐る恐る財布をひらいてみると、心配で止めていたクレジットカードが入っていた。なぁんだ、良かった。

しかし、鍵を壊されておきながら何も起きていないわけはなく…
残念ながら日本円6000円程と、パリで使う予定だったユーロ1万円分は、しっかりと抜き取られていた。
財布もカードも取らず、紙幣だけ抜かれていたことにどこか拍子抜けしてしまった。

成人祝いで買ってもらった大切なお財布も、お土産一式も無事帰ってきたのだ。現金がなくなっただけならば、最悪の場合の想定をしていたよりかは被害は小さく済んだと思えた。

しかしそれでもやはり、誰かが私のスーツケースを開けたということ、財布に触れ中の紙幣だけ抜き取ったという事実は、どうしても気持ち悪かった。 

いつどこで誰が…乗り継ぎを含め訪れた空港で関わった様々な人の顔が浮かんでしまった。

マンチェスターでのチェックインスタッフ?少し様子が変だったな。
私と同様にフライトがキャンセルになり、変な旅程で仲良くパリまで共にしてくれた中国人の女性?
それとも、パリの入国審査で日本語の早口言葉を死ぬほど並べてきて10分くらい拘束されたモロッコ人男性職員?
でもとにかく、パリには届いてたってことだよね…?
ここで足止めされて、一緒だった中国人女性とはぐれてしまったから、もしかして2人はグルだったのかも?

考えてもどうしようもないのに、嫌な妄想が脳内をぐるぐる。

保険会社に問い合わせてみるも、現金だけは補償対象外とのこと。
幸い、航空会社が壊されてしまった鍵の修理を請け負ってくれた。

私のこの経験から、皆さんには声を大にして伝えたい。

貴重品だけは!預け手荷物に入れないこと。
チェックインカウンターで散々聞かれてるはずなのに、こんなことになるとは思わず…

そしてできることならば、化粧品と1日凌げるくらいの着替えは、機内持ち込みにするのをお勧めします。
私は幸か不幸か、スーツケースにお土産を詰めすぎたが故に着替えが入りきらず、下着と何着かの服をたまたまリュックに詰めて持ち歩いていました。

まぁとにかく、帰ってきてくれて良かった…

ミュンヘン スーツケースとの別れ編

最後は大学四年生の卒業旅行。
卒業旅行はやっぱりヨーロッパ!
ということでビールを飲みにドイツへ。

この時は、中国国際航空を利用したので、北京経由で向かった。
前回の経験を生かし、貴重品など気がかりなものはしっかり機内手荷物に。
ミュンヘンに到着し、手荷物回転台へ。
前回の悪夢に怯えながらも、無事私のピンクのスーツケースは出てきてくれた。

はぁ、これで一安心だ。
観光に繰り出せる!
スーツケースを取り下ろし、プルハンドルを引こうとするが、ひとりでにスーツケースが倒れた。

ん?

もう一度立たせる。

倒れるスーツケース。

まずいぞ、これはおかしい。

スーツケースに異常が発生していることを察し、倒してみると車輪が1つ消えていた。

もうこの時は盛大に笑うしかなかった。

おいおいおい!私の車輪はどこやねん!!
1人でツッコミを入れてしまったくらいだ。

すると、その様子を見ていたアジア人女性に話しかけられた。

「あの、英語で大丈夫?」

「ええ、大丈夫よ」

「私は台湾人なんだけど、台湾でもこういうことはよく起こるわ。カウンターに行けば新しいものと交換してくれるはずよ。」

「そうなのね!ありがとう、行ってみる」

いいことを聞いたぞ。

言われた通り航空会社のカウンターに行くと手続きをされ、空港内にあるスーツケース屋さんで新しいものを選んでくれとのこと。
この時は、スーツケースの価値を計算された。そして、その値段分は負担するが、欲しいスーツケースがそれよりもオーバーするならば、はみ出た分は自分で支払うシステムだった。

空港でスーツケース店の開店待ちをし、悩んだ末に私が持っていたスーツケースよりも一回り大きく、ピンクと赤の中間くらいの色をしたスーツケースにした。
お店で荷物を詰め替えさせてもらい、壊れたスーツケースは破棄してもらうことに。

これにて因縁のスーツケースとはお別れ。
何度も旅を共にし、私はなんて運が悪いのかと嘆いたこともあった。
しかし冷静に思い返すと、私じゃなくて、このスーツケースが悪かったんじゃ…?
という結論に至り、これは私と切り離せてラッキーだったかも!って感じで帰ってきた。

それ以来、スーツケースにまつわるハプニングにはまだ遭遇していない。

いやはや、どれも忘れられない思い出にしてくれたスーツケースよ、一周回ってありがとう。

大きなピンクのスーツケースを抱えて長旅に出れる日が待ち遠しいばかり。

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