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スナ女の楽屋

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スナックで社会勉強をさせてもらっていました。
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スナック閉店

スナック閉店

GLAYも歌っていたな、と思う。
『すれ違うだけの人もいたね
わかりあえないままに』
ほんとにそうだなぁ(というか世代!)。

働いていたスナックが閉店したらしい。仲のよかった女の子がわざわざ知らせてくれた。ママの独断と偏見と不機嫌でメインスタッフが次々とクビになった後、残った彼女がずっと切り盛りしていたようだ。いちばん年下だったのに、いちばんしっかりしていた可愛い子。

なんだったんだろう

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後日譚

後日譚

前述の長い夜は3月末のこと。消化するのに2カ月近くかかったことになる。思ったよりかなり早く幕引きが来てしまったが、スナック勤めはとても楽しかったし、ご縁があればまた関わりたい世界だ。

あの朝、常連さんと私はそのまま帰るのは気が進まず、禊がてら8時まで営業している居酒屋さんに立ち寄り、くだを巻いて帰った。そしてその後彼と、色っぽさもなにもない友達となれたことが収穫のひとつだ。

ママがどう出るかわ

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長い夜

長い夜

ママが私を罵倒し始めたとき、あぁ、そのときが来たな、と思った。私が店を辞める日、窮屈な世界から出る日、店に波風をたてる日。無傷で済んだのは、ひとりではなかったという事が大きい。

午前2時、ママはひとりで酔っぱらって帰ってきて、店のソファで爆睡してしまった。伸び悩む集客と売上にママは苛立ち、働く女の子たちは居心地の悪さを感じながら働き、店の不協和音はお客さんへダイレクトに伝わっている時期だった。そ

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暗雲

暗雲

ママの様子がおかしくなったのは、2月なかばの頃だった。感情の起伏が激しく、一度怒り出すと手をつけられない。発言に一貫性がなくなり、自分で言ったことを忘れるようになった。

こちらが受けた指示と、別の女の子が受けた指示では内容が真逆という事が度々起こり、スタッフ間で混乱が生じるようになった。矛盾を指摘して大騒ぎされるより、店の雰囲気を守りたいという共通認識があったため、何かあれば相談し合い、内々で都

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人間味あるアカウント

人間味あるアカウント

お店のSNS担当に任命されたとき、宣伝は一切しないと決めた。来てください、と書き込んでお客さんが来てくれるなら、いくらでも書く。けれど逆の立場だったとき、よほど興味がない限り、私はそれを見ても行かない。

TwitterとInstagramのアカウントとパスをもらい、営業日である週6日、自分の出勤がないときでも毎日文章を書き続けた。写真は出勤した際、店内で写真を撮りためておいて、投稿する際に加工す

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打ち明け話の夜

打ち明け話の夜

きれいなボトルが並ぶ小さなバーで、恋人でも友人でもお客様でもない男性と少しばかりご一緒した。ゆったりつくられたカウンター席、固定されたガラスのコースターは照明になっていて、グラスを置くとうつくしくカットされた氷が照らされきらきら光る。

誰の味方でもないと言い切ってくれた彼のおかげで、他人に対する非難の言葉、わかってほしいという依存、泥ついた言葉の数々を垂れ流さずに済んだ。
軽めにつくってもらった

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火事と喧嘩は江戸の華

火事と喧嘩は江戸の華

雰囲気のせいか貫禄なのか、ママやスタッフの女の子たちの相談を受けることが多い。頼られるのはありがたいけれど、チーママでも何でもない。みんな忘れているのだ。私が、夜の仕事は素人で、店に長く居つく気はないただのバイトだということを。

先日ママから、もめそうな案件の仲介を頼まれた。女の子に対して、給料支払う支払わない問題だった。支払いがからむので、その子と同じ立場の自分が切り出すのは筋が違うと言い張っ

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新人に出来ることは何か

新人に出来ることは何か

新しい職場に入ったばかりの頃は出来ることが少ない。新人でも出来ること、それは挨拶だ。まだ仕事は出来なくても挨拶は出来る。気持ちよく挨拶する、まず出来ることをやる。そう教わり、いつでもそうしてきた。

夜の世界のことは、入るまで何も知らなかった。お客として行ったこともなければ、会社の飲み会すら、お酌するのが苦手すぎてパスしていた。
セット料金とかハウスボトルとかひやしぼとか、用語も何だかわからなけれ

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店の人たちは皆
わたし自身のようだ

わかっているふりをして
手探りで
途方にくれている
自信がなく
好意をくれるひとにふらつき
強気に出たり
急に反省したり
不安定でむきだしの、女

すべて体現してくれるので
私はなにもせず
女優陣の感情のうねりを
眺めている
ただ
#雑記

黒飴

黒飴

水商売に「適度なエロ」は必要だ。ただそれは広範囲に渡るグレーゾーンであり、受け流せる許容範囲にも個人差がある。

スナックには、心の隙間を埋めたくて、お酒を飲みにくるお客さんが多い。飲み方も酔い方も人それぞれだ。

認めてほしい、ほめてほしい、傷つけないでほしい、慰めてほしい、もっとほしいもっとほしい。ほしいほしいほしい。
でも思い通りにならない。どうして思い通りにならないんだ。

心の隙間を、女

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週末2時は恐ろしい

週末2時は恐ろしい

20時開店、営業時間はお客さんが帰るまで。昨夜は2時に看板を下げた。最後の泥酔客を女4人がかりで送り出す。妙な達成感と、定休日前夜の高揚感を共有したまま、私達は深夜の女子会に突入した。

女の裏側の怖さを象徴するシチュエーションとして、給湯室やお手洗い、女子更衣室などが思い浮かぶけれど、水商売の裏舞台こそえげつない。不倫や愛人契約は日常茶飯事、枕営業は常識、派閥争い、取った取られたの終わらないいざ

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酒と泪と涙の女

酒と泪と涙の女

お酒というガソリンで勢いよく発進した人間は、時として暴走したまま帰ってこなくなる。溢れて止まない行先知らずのエネルギーと目が合ったとき、こちらは素面の丸腰であったことを思い出す。

お店で、お客さんやママからの気遣いに触れ、感動してうっかり涙ぐんでしまい、それがなぜか引き金になった。ほどよく出来上がっていたママとお客さんが「こんなことくらいで泣くなんて」「今までどんなひどい環境で働かされてきたのか

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徳用マッチの痛い夜

徳用マッチの痛い夜

ママがAmazonで徳用マッチを買った。メルティーキッスのパッケージと同じくらいのサイズ感。箱入りチョコはすぐなくなるのに、ぎっしりつまったマッチはそうそうなくならない。普通に使っていれば。

マッチは今でも、育った家を思い出させる。夕方になると、祖母が仏前の蝋燭に火を灯し、お参りをするのが日課だった。マッチを擦って火が付くときの匂いが好きで、祖母が仏壇へ向かうと、その匂いを嗅ぐために傍にくっつい

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バーホッパーは遠い夢

バーホッパーは遠い夢

初めて飲むなら、美味しいものを飲みな、とママはワインのコルクを抜いた。悪い思い出が付いたら、きっともっと苦手になっちゃうから、と。

雨の祝日。営業時間になっても、表の通りは閑散としていた。女の子の当日欠勤にママは少しだけカリカリしていたけれど、お客様は少ないだろうし、人件費浮くし、いいか!と早い切替えを見せていた。

ほどなくして、常連さんがふらりと入ってきた。ママのお友達、騒がず静かに飲みたい

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