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あこがれの秘密基地

夜、買い物に出たら、路地裏でちびっ子たちが本気で雪遊びをしていて、そうか、雪で遊べる機会は貴重なんだなぁ、と思った。遊べ遊べ。ぼったりとまとわりつく水気の多い雪。春はまだ遠い。

彼らくらいだった頃。お休みの日の朝、雪が充分に積もっていることを確認すると、毎度張り切って庭に出た。大きなかまくらをつくるためだ。大人用のスコップの方がたくさん雪をすくえるけれど、金属製で重く、すぐ疲れてしまうので作業継続が難しい。ぺかぺかのプラスチックでできた子供用のスコップで、せっせと雪をかき集める。水気の多い雪は固まりやすく、形成が難しい。雪を集め、固め、また雪をのせて、少しずつ大きな山にしていく。

どこを出入り口にするかは重要だ。中の空間が丸見えだと台無しだもの。気合を入れ、本体に穴をあけないように、慎重に空間を掘り出していく。

かまくらが出来上がるのは、たいてい夕方だった。穴のなかに収まり、内側から出来上がりを眺めてじっとしている。周りから、ざくざくと雪を掘る音、防寒具のナイロンのこすれる音が消え、急に無音になる。座っているお尻はひんやりとしているが、風が遮られるので中はわりかしあたたかい。
薄暗い庭、静かなかまくら、束の間の秘密基地。
遊びきれないほど積もった雪は、いつでも一人っ子の味方だった。

大人になり、いまは自分の稼ぎで、秘密基地を借りている。自分の好きなものだけでかたちづくられた、好きな人しか入れない空間。なんと贅沢で、嬉しいことだろう。

雪が降ったら、やっぱり遊ぶよね、と思いつつ、ささやかに雪だるまをつくった。


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