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さようなら、なろう団

通称グラブル。
正式には「グランブルーファンタジー」をプレイし始めたのは、友人がハマっているゲームがあるのを知ったのが最初だった。

その頃はまだ時間にも追われておらず、プレイしたのが運の尽きというやつだろうか。
気がつけば紹介してくれた友人よりもハマっている自分がいた。

初めて入ったSSRのキャラ。
少しずつ増えていく魅力的なキャラたち。
敵からドロップし、鍛えられていく装備。

毎週のように開かれるイベントストーリーは、よくできたものもあれば、不出来なものもあったが、どれも楽しめたように思う。

私は仕事を終えてパソコンを立ち上げると、グラブルを始めた。
グラブルはやるコンテンツが豊富で、日課と呼ばれるクエストはいくらでもある。

気付けばはや数時間。寝る時間になっていたことも少なくない。
何もかもが目新しい、新鮮なコンテンツ。
成長していくキャラクター。
とても楽しかった。

グラブルには、騎空団と呼ばれるプレーヤー同士が集まるシステムがある。
ギルドのような物だろうか。
定員は30名までで、団に所属することでさまざまなメリットを享受できる。

運営も団に所属することをそれとなく、あるいはあからさまに推薦し、プレーヤー同士の交流を促し、知識の共有や同じモンスターと協力して戦うことで、体験をより良いものにしようとしていた。

そのなかでも最も象徴的なのが、「古戦場」と呼ばれる定期的に開かれるイベントだろう。
他のゲームでいえばギルド戦というやつだろうか。
一日のうちで、モンスターを倒した数を競うイベントだ。

古戦場イベントで勝利すると、有利なアイテムが手に入る。
一人がどれだけ戦っても限度がある。
だから一人でも多く、力強く、また長時間プレイできる仲間を集める。
戦争は数だよ、というやつだ。

「古戦場から逃げるな」

なんて迷言も生まれる、グラブルを象徴するようなイベントになってしまった。

私も当然、この団には所属することになった。
一人プレイも楽しいが、気心の知れた友人とやるのも、また楽しい。

私はこの騎空団には苦い記憶がある。
右も左も分からない初心者を、強豪が迎えいれるということはない。

知り合いでもあれば別だが、当初私のまわりにグラブルをしている人は少なかった。
すると、自然と立ち上げたばかりの、団員の少ない弱小団に入ることになる。

見知らぬ弱小団に入った私は、現実を知ることになった。
やる気の感じられない団員たち。
ログインは不定期で、30日以上ログインしていない団員が名簿に載っている。

交流をはかることもなく、チャット欄には私一人があいさつを続けて、誰も返事が返ってこない。
「こんばんは」「こんにちは。今日もグラブルがんばります」「こんばんは~」
チャット欄の履歴に私一人のコメントが無情に流れ続けるのは、はてしなく虚しかった。

仲間に戦闘の救援を送っても、誰一人参加してくれることはなく、見知らぬ他人が救援に入る始末。
そして、ある日気づくと団が解散した、という無慈悲な通知を受け取った。

もうこれなら自分で立ち上げた方がマシだ。
そう思って、「小説家になろう」団を立ち上げた。

私はその頃には小説家になろうで掲載していた小説が書籍化し、本を出していた。プロ作家が多数在籍している団というのも面白いかも、と考えた。
また小説家になろうはユーザーがとても多い。
ネーミングで入ってくれる人を期待してのことだった。

Twitterで団員を募集し、超弱小団としてスタートした。
幸いなことに、交流ができた。
「こんばんは」というチャットに「こんばんは」と返ってくること、ただそれだけで嬉しく感じた。

少しずつ仲間が増えた。
自分だけでなく、団員たちも強くなっていった。
強さを示す指標の一つ、Rankも100をすぐに超えた。

装備についてこれが良い、誰々が○○をドロップした。
(くそう、羨ましい)(みてろ、自分もすぐ追いついてやるからな)
ささいな情報がチャット欄を賑わした。

強い武器を求めて、マルチバトルを繰り広げた。
古戦場には予選があった。

予選を突破ができるかどうか、ぎりぎりの瀬戸際で、必死になってプレイした。
本戦では相手団を上回るために、朝起きれない私が早起きした。
週末は朝から夜まで走り回った。

また、私はガチャで恐怖の体験もした。
大爆死を食らい、天井を味わい、天井を味わい、そして天井を味わった。

合計3天井した。
クレジットカードの請求額に顔が青くなって、印税が吹き飛んだ。

この頃、私は作家の方でスランプに陥っていた。
書きたい気持ちがあるのに、まったく筆の進まない日々。

テキストエディタを開いて、一時間も二時間も呆然と、頭が真っ白になって座り続ける恐怖は、経験したことがない人にはけっして理解できないと思う。

そんな時に心が病み、折れてしまわなかったのも、このグラブルと、騎空団の仲間たちのおかげだったと思う。
逃避と言われればそこまでだが、それでも強い助けになってくれた。

たかがゲームという人も多い。
でも私は、たしかにこのゲームに、そしてゲームを通して知り合った人びとに助けられた。

人に恵まれたということもあると思う。
団員の誰もが、とても素晴らしい人たちばかりだった。

とても幸いなことに、長いスランプは脱出することができた。
驚くべきことに三年弱という期間を経ても、続きを出させてもらうこともできた。

本業が忙しくなり、作家業の方も忙しくなってきた。
ありがたいことだが、同時にグラブルをプレイする時間は確実に減っていった。

グラブルにはたくさんのコンテンツがある。そのコンテンツを確実にこなさないと、強くなれない。
団長として動けることはもともと多くなかったが、これ以上は迷惑にもなると思えた。

そして今、かつて自分が立ち上げた団を去ろうとしている。
こうして過去に思いを馳せると、なんだかこみ上げるものがある。
辞めると決めた今になって、このゲームが、この団の人たちとのふれあいが、自分にとってかけがえのない物だと気づかされた。

グランブルファンタジー。
空を巡る幻想の旅は、まだまだ続くのだろう。
私が立ち上げた団も、これまで入れ替わりがあったように、これからも入れ替わり、進んでいくはずだ。
新たなコンテンツは追加され、ストーリーは進み、タイトルのように見果てぬ空の彼方まで、冒険は続いていくはずだ。

ただ、私は少し、足を緩める。
限られた時間の中で、同じスピードで進むことはできない。
ただ、先を駆けるかつての仲間たちの背中を、いつまでも追い続けるだろう。

今日まで支えてくれた、すべての方にお礼を言いたい。
ありがとうございました。

また、どこかで会えるだろうか。
奇跡のような出会いと別れに、今はただただ感謝したい。

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