Fumster

港区芝公園にて「変幻自在」という名のバーを経営。幼少期に5年間と学部留学1年の計6年間…

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港区芝公園にて「変幻自在」という名のバーを経営。幼少期に5年間と学部留学1年の計6年間米国に居住。昼間は英会話レッスンの講師や通訳・翻訳家を務め、舞台の脚本・演出も手掛ける。元ソニーマンでメキシコ駐在経験あり。5か国語程度話し、目指すは「民間の外交官」。著書「命のしずく」(小説)

マガジン

  • カフェで読んで欲しいちょっとした物語

    5分~10分でお読みいただける創作ストーリーをアップしていきます。カフェなどでコーヒーや紅茶を片手に読んでいただけると嬉しいです。

  • 気まぐれ川柳

    思いついた川柳をテーマ別にアップしていきます。

  • 哀愁のアクエレッロ

    イタリアのフィレンツェを舞台にしたノンフィクション私小説です。バックパッカーとして旅をする中で偶然知ることとなった、水彩画という意味のレストラン「アクエレッロ」。この店を営む素敵な家族との交わりを、リアルな体験をもとに臨場感たっぷりに描いた作品。まるでフィレンツェの街を歩いているかのような錯覚に囚われていただければと思っています。是非読んでみてください。

  • 東京バーストーリー

    港区の隠れ家バー「変幻自在」。日夜おかしなお客様が訪れ、店主である私を交えた会話から様々なドラマが泉のように湧き出しています。ふつうは歴史に埋没してしまうべきダイヤの原石のようなエピソードを短編小説風にまとめてアップしていきます。これは事実に基づいたフィクション。登場人物は実際のお客様をモデルにしている場合が殆どですが、本名を書くことはありません。「深夜食堂」でも観るような感覚でお読みいただければ幸いです。

  • ミュージカル「Try Again」 サウンドトラック

    2019年3月19日から25日の間にバー「変幻自在」で上演した劇団燦グリアのミュージカル「Try Again」のサウンドトラックです。すべて高城香那(たかぎ・かな)が作曲してくれました。劇中のシーンを振り返りながらお聴きいただければ幸いです。尚、歌については役者の声は入っておらず、伴奏のみとなっていますのでご留意ください。歌詞は各曲ごとに掲載しております。

最近の記事

やさしさに咲く花

「士郎、おまえは花が好きなんだなぁ」  晴男に声をかけられた士郎は、テーブルに広げた図鑑の写真を観ながら花の絵を描いていた。孫がクレヨンを次々と持ちかえながら一生懸命絵を描く姿を、晴男はロマンスグレーの長い眉に隠れてしまいそうな目を、さらに細めて見守っている。 「うん。きれいだから」 「そうだな。花が好きな人は心も綺麗だ。男のくせに花なんて好きなのかとかバカにする輩もいるだろうが、おまえは自分の気持ちに正直に、花を愛し続ければいいんだぞ」 「うん」  晴男がなんでそ

    • ラブゲーム

      2035年、銀座のとあるバーにて。 「あそこに座っている女性に『107』(ワン・オー・セブン)を」 歳の頃35前後の男はバーテンダーに耳を貸すようジェスチャーで指示すると、重低音のきいた野太い声でこうささやいた。 スーツは黒のアルマーニ。青い光沢が眩しいネクタイを合わせている。髪の毛は勢いよく立てられていて、肌は浅黒い。いかにもやり手のビジネスマンといったオーラを放ち、若いのに新進気鋭の社長であるかのような威厳すら感じさせる。要するに自信満々ということだ。 バーテンダ

      • コロナ川柳 その3

        ウイルスの    居場所に色でも        つけとくれ 街中が   マスクの柄の        展覧会 つけ忘れ   罪の意識に      溺れ死ぬ 夏らしい   ことを一つも       やっとらん 季節だけ   ただただ過ぎゆく         2020 米中の   発熱コロナの        それを超え 話さない   この日常に      華はない 戻れない   戻りたくない       オフィスには 来て欲しい    来て欲しくない        

        • コロナ川柳 その2

          バレないよ   パンツをはかぬ        ミーティング そこら中   箱を背負った        チャリがゆく 光熱費   ひと桁増える       恐ろしさ 名店の   テイクアウトを        狙い撃ち 劇場に   重い埃が      降り積もる  劇場に   役者の誇りを       置き忘れ ダラダラと   過ごしてもいい?       ねぇーいい?         エレベーター    ボタンを肘で        押すつらさ ドアノブの    

        やさしさに咲く花

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        • カフェで読んで欲しいちょっとした物語
          5本
        • 気まぐれ川柳
          3本
        • 哀愁のアクエレッロ
          11本
          ¥500
        • 東京バーストーリー
          11本
        • ミュージカル「Try Again」 サウンドトラック
          28本
          ¥1,000

        記事

          コロナ川柳 その1

          殺人を  犯したように      手を洗い   窮地こそ   人の本性     顔を出し   君までの   この距離マスク        二枚分   今だけは   髪より欲しい       紙様よ   ムズムズと   してきてわざわざ        途中下車 オンライン   意外とこれで     いけちゃわね? このまんま   満員電車を      滅ぼさん みな無駄に   「濃厚接触」     言いたがり    観る人が   いない寂しさ       忘れまい 

          コロナ川柳 その1

          ラグビーが世界を救う

          日本が南アフリカに勝った4年前、「奇跡」の乱発に踊らされて初めてラグビーに興味を持った。そしてラグビーワールドカップが日本で開催されることになった今年、「4年に一度じゃない。一生に一度だ。」とのクールなコピーに色めき立ち、襟を正して臨むことを心に決めた。お店ではパブリックビューイングを企画し、細かな情報収集もしてラグビーを思いっきり楽しむ方向に舵を切ったのである。 東京の真ん中でバーを持つことの素晴らしさをこの期間ほど強く感じたことがあったろうか?いわゆるラグビー強豪国たる

          ラグビーが世界を救う

          音無き世界に届く踊り

          千佳ちゃんが“変幻自在”を訪れてくれたのは、その2週間前のことだった。神妙な顔つきでカウンターに座った彼女は、 「友達の誕生会を開催する場所を探しているんですけど、ちょっと条件がありまして。”和食を食べながら踊りを観れるお店”なんです。おミツさんに相談したらこちらに伺ってみた方がいいとおっしゃって・・・」 おミツさんは銀座でスナックを営む、言わば”肝っ玉母ちゃん”。鳥取から出てきてひとりでお店を立ち上げ、様々な若き才能を引き寄せながらガッハッハ!と愉快に生きておられる逞

          音無き世界に届く踊り

          バーに求めるもの

          「もしかしてあなたがFumiki?」   西洋系の顔立ちの外国人カップルが扉を開けて入ってきたのはやや早めの時間だった。一瞬たじろいだものの「ああ、あの人たちだ」とすぐに見当がつき、店主の顔に戻って一杯目の注文をうかがった。 「Sakeにしてみようかな」   二人で顔を見合わせながら決める仲睦まじい様子を微笑ましく思いながら和歌山県の銘酒・黒牛(くろうし)を注ぐ。 「そうそう。最初の一杯目はネイサンが奢ってくれるって言ってました。あらゆる手を尽くして支払ってくれるって言っ

          バーに求めるもの

          小説「哀愁のアクエレッロ」:最終章・祈り

           翌朝、気持ちよく目覚めると、ポンテ・ヴェッキオに向かう道の途中にある市場でりんごと杏を買い込み、近くの公園でほおばりながら、さてどうやって事にあたろうか考えた。昼間からいろいろと聴き込みを開始するのもいいが、やはり多くのお店が空いている夕方から夜にかけて動いた方が効率がいいだろうと思い、昼間はフィレンツェの街をぷらぷらと歩き回りながら気分を盛り上げておこうと決めた。やはりダヴィデ像はもう一度見ておかなくてはなるまい。ダヴィデ像の絵を描いたことがきっかけでフランチェスコに「フ

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          小説「哀愁のアクエレッロ」:最終章・祈り

          小説「哀愁のアクエレッロ」:十章・トスカーナの魅力

           チャンスが到来したのは、それからさらに二年の歳月が流れた後だった。三十二歳という年齢になり、人生の一大転機を迎えることになった時である。八年勤め続けた会社を辞めることにはそれなりの勇気と覚悟を要したが、自分のやりたいことはやっぱり電機業界で上りつめていくことではない、もっともっと興味のある食やアートやスポーツに携わることを生業にした方がよっぽど幸せになれるはずだという確信を抱き、友人や家族の反対を押し切って決断した。  いわゆる転職、ではない。自分の会社を立ち上げるのだ。

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          小説「哀愁のアクエレッロ」:十章・トスカーナの魅力

          小説「哀愁のアクエレッロ」:九章・ 行方不明

           ルイゼッラと再会を果たし、感動的なサプライズに心震わされたあの瞬間から、フィレンツェという街に対する愛情がどんどん深まっていくのを感じていた。その勢いはもちろん、日本に帰国してからも衰える様子がなかった。またあの街を訪れて美味しいカプチーノを飲みながらルイゼッラと言葉を交わしたいという欲求が膨らんでいったのだが、晴れて大学を卒業し、電機メーカーに就職して日々の雑務に忙殺されるようになると、そんな願いに想いを馳せる余裕を失ってしまった。  仕事に追われる生活は、さらに劇的な

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          小説「哀愁のアクエレッロ」:九章・ 行方不明

          小説「哀愁のアクエレッロ」:八章・再会

           三年後の夏、再びヨーロッパに飛んだ。大学四年生として迎える夏である。就職の内定も決まった後の、人生で最も悩みの少ない時期であった。僕はヨーロッパを縦断してトルコに抜ける計画の中に迷わずフィレンツェを組み込んだ。言うまでもなく、Acquerelloを訪れるためである。  あれから三年が経つ。ルイゼッラはどうしているだろうか?フランチェスコも少しは料理の腕をあげただろうか?いや、その前にAcquerelloはまだあそこにちゃんとあるのだろうか?あの客の少なさが続いていたら、ひ

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          小説「哀愁のアクエレッロ」:八章・再会

          小説「哀愁のアクエレッロ」:七章・独り占め

           ジョットーの鐘楼を過ぎ、アルノ川を越え、ユースに辿り着いたときにはとうに夜中の一時をまわっていた。そしてドアの前まで来て愕然とした。アーチ型をした木製の扉がぴっちりと閉められていたからだ。扉を叩いてみても、空しい音が人影のない路地に響き渡るだけである。よく見ると扉の横に、  門限は十二時です と書かれた貼り紙がしてあるのだった。こんなにも充実した一日でさえ、すんなりハッピーエンドとはいかないようだ。それもまた旅の面白さの一つでもあるのだが。  仕方がないので僕は暗いフ

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          小説「哀愁のアクエレッロ」:七章・独り占め

          小説「哀愁のアクエレッロ」:六章・名もなき絵描きの幸福

           翌日、夜の八時少し前に約束通りAcquerelloに到着した。今度はまるで我が家のように慣れた態度で店内に入ると、ルイゼッラが例の大黒様スマイルで迎えてくれた。相変わらず体が重たそうだ。今夜はお客も三、四組入っているようで、フランチェスコは厨房で忙しく仕事をしていた。ウェイターのサマンタも例の如くピンと背筋を伸ばした姿勢を崩すことなく、店内をあちこち歩き回りながら愛想をふりまいていたが、僕の顔を見るなり、 「チャオ!」 と、手を挙げて挨拶してくれた。ルイゼッラは僕をテー

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          小説「哀愁のアクエレッロ」:六章・名もなき絵描きの幸福

          小説「哀愁のアクエレッロ」:五章・お披露目

           店の前に辿り着くと、緊張で体を強張らせながら中を覗き込んだ。そして、昨日の料理人が奥で仕事をしているのを確認し、遠慮気味にドアを押し開いた。客は例の如くほとんどいない。左手の奥に一組のカップルが静かに談笑しているだけだった。この店は値段が割高な上にロケーションがよくない。お客さんも来にくいのだろう。しかし僕は、明るくておしゃれな独特のいい雰囲気を持つこの店が好きだった。  入り口のあたりでおろおろしているうちに、かなり太った五十歳くらいのおばさんが笑顔で出迎えてくれた。よ

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          小説「哀愁のアクエレッロ」:五章・お披露目

          小説「哀愁のアクエレッロ」:四章・ダヴィデに夢中

           入り口を入って左に曲がると、右手の回廊の奥に佇む"彼"が視界に飛び込んできた。スポットライトに照らされたダヴィデ像は、品があるのに剛健な印象を与える、まさにルネッサンス彫刻の傑作と呼ばれるにふさわしい威風堂々とした御姿であった。世界史の教科書でしか見たことがなかったものが、今まさに目の前に忽然と現れたのだ。ゆっくりとその神聖なフィギュアに近づき、正面の真下から見上げてみた。なんと精巧に彫りあげられた作品であろう。腕の筋肉の上を這う血管の様子までもが、まるで血液を送り出してい

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          小説「哀愁のアクエレッロ」:四章・ダヴィデに夢中